王女で聖女の司祭
「私って、聖女様って言われるの、好きじゃないのよね」
口を尖らせ、大きな出窓へ向かって一人呟く、セレン・レイ・ラプキンス。
美しい緑色の長髪が、窓から差し込む陽光を弾いて室内を照らす。
ローレア王国、第三王女その人だ。
彼女は紛れもない神童である。
三歳でユニーク職を発現、聖女となる。
最初に取得した聖魔法が、攻撃魔法だったのが、彼女の性格を変えてしまった。
聖魔法は基本補助魔法ばかりなので、攻撃魔法は希少だった。
知る者も少ない。
聖攻撃魔法、聖光。
円柱の透明な壁で範囲を囲み、その中を聖魔法が通り抜けてダメージを与えるもの。
回避は不可能である。
人を救うより、魔獣を倒す方が楽しいと思うようになってしまったのだ。
この頃から、城を抜け出し、西にある、レヴス砦跡付近で、魔獣狩りをするようになる。
◇
「今日は何を狩ろうかなぁ」
鼻歌混じりで獲物を探す、ジェノサイダー幼女。
一言で言えば、調子に乗っていた。
ある魔獣に狙いを定めたセレンは、狩りを開始する。
しかし、その魔獣は素早く捕らえられない。
狼型魔獣、パルウルフの群れを獲物として選んでしまったのだ。
捕らえられなければ、聖光は撃てない。
「こんなの…どうすれば…」
速すぎて、狙いが定められない。
「こんな所に一人でいたら、ダメじゃないか!」
助けに入ったのは、銀の軽鎧を纏った、女性だった。
フラウ・シーニュが、背中にセレンを隠す。
彼女はこの頃には既に、B級冒険者になっていた。
ローレア王国、テズヴァイス公国、両ギルド合同のとある任務の打ち合わせで、クラン、大地神はこの地にいた。
そのクランのリーダーがフラウである。
「左右に展開、幼女を守りつつ、周りの雑魚を排除、わたしはコレを狩る!」
「了解!」と、一糸乱れぬ返事があった後、迅速に事は進んで行く。
取り巻きのパルウルフは、クランメンバーにより瞬殺された。
そして、フラウの一撃のもとに、ボス魔獣、大型のパルウルフも討伐された。
「討伐完了!」
フラウの号令に、全員一斉に武器をしまった。
心地よい金属音が響いた。
「大地神?すごい…」
「わたしの自慢のクランだ。よく知ってるな、幼女」
セレンの頭をな撫でるフラウ。
「幼女じゃない…私はセレン」
「ほう、セレンか、第三王女と同じ名だな」
セレンはダラダラと、頭から汗を流している。
「…本人なのか?」
セレンの汗が止まらない。
撫でていた手を頭上に挙げたフラウも、汗をかき出した。
「こんな所で何やってんすかぁ!!?」
フラウの叫びが、周囲に響き渡った。
◇
この事件を切っ掛けに、更に、力に憧れを持つようになってしまう。
剣術まで始める始末だ。
セレンは勝手に剣の師匠を雇っていた。
五歳で聖塔教会に入信する事になった。
と言うか、無理矢理入信させられた。
このままでは、戦闘聖女なんて呼ばれそうだと危惧した王は、慌てて直々に指示を出した。
当初本人は納得いってなかったが、聖塔教会の人間と触れ合う内に、その不満は消えて行った。
六歳で、回復魔法も使えるようになった。
やっとの事で、通常の聖魔法を覚えた事を知り、胸を撫で下ろす国王だった。
聖塔教会の仕事で、各地で人を癒す日々が続いた。
「飽きた!」そんな言葉を民草に聞かせる訳にはいかない。
なので、セレンは一人にはしてもらえない。
常に何人かの信徒がセレンの周りにはいる。
爆弾発言を未然に防ぐ為に。
十二歳の時に、司祭となった。史上最年少の快挙であった。
十八年歳になったある時、兄の陰謀に気が付いてしまった。
バルコニーで、兄が誰かとやりとりしているのを、たまたま聞いてしまったのだ。
どこかの国と戦争をするつもりだと。
他の兄妹と父には期待できない。
兄の陰謀を知った翌日、聖塔教会の指示が出る。
悪魔の調査をせよとの通達。
願ったり叶ったりで、国を出られる口実ができた。
国の中にいては、兄の目があり、行動は限られてしまう。
セレンは、国の外から情報を得ようと考えた。
◇
数カ月後。
テズヴァイス公国の死の森、魔王城。
悪魔の痕跡があるとの情報を得て、セレンと護衛達は魔王城に乗り込んだ。
中には魔獣などはいなかった。
「何でこんなアイテムが?」
謁見の間の玉座の後ろに、《巨神の欠片》が無造作に置いてあった。
調べ尽くされている筈の、謁見の間に置いてあったのが不自然過ぎる。
その昔、《赤い死神》が倒したとされる、神の一部、それが《巨神の欠片》である。
魔神王を復活させるアイテムの一つだった。
しかし、回収しない選択肢はない。
それを回収し帰途につく。
魔王城の帰りに、ネームドモンスターのスチールウルフに襲われてしまった。
三人の護衛のうち、二人が倒された。
もしかして、《巨神の欠片》に引き寄せられているのか。
魔物や魔獣に襲われないように用心していたが、無駄になってしまったようだ。
最後の一人の護衛が頼りだが、セレンは腰が抜けて動けない。
もし、この護衛が敗れれば、セレンの命はない。
その時、一つの影が飛び込んできた。
灰髪灰眼の青年が、スチールウルフを一瞬で両断する。
セレンはこの時、始めて神を信じた。
「この人なら」




