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デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
記憶のない奴隷編

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11/16

救出に行こう

カード達は現在、サンゲイルの南西の商業施設に、逃げ遅れの住人が多数いるとの報告を受け、その救出へと走っている最中である。


地図上では、町の南東に城砦オロバスがあり、その更に南に貴族街がある。

西には唯一の出入り口、堅牢な二重の門があり、中央と北西部は平民地区、中央北部に冒険者ギルド、中央東に大規模公園があり、その北に時計塔が設置されている。


南東区域の避難は済んでいるとの事で、三人は南西の商業施設へと向かっている。


時間がないので、通常禁止されている事を躊躇(ちゅうちょ)なくやる。

町中を獣車で疾走している。危険極まりない行為だがこればかりは仕方ない。救出は早さが命だから。

ルールを守っている場合ではない。


使っている魔獣は小型の竜、速さはないが耐久力は高い。御者はサエラがしている。


この獣車は、ギルドから借り受けたものだ。


「意外と爽快だな」

石畳の音が心地よく響く。

「悪くない」

「あっ…」

カードの視界が揺れる。これは、獣車の揺れのせいではない。

「く…この光景って」

カードが意識を失った。

「これは、いつものか?」

カイルは幌車で倒れているカードを一瞥(いちべつ)し、窓から身を乗り出し、御者をしているサエラに問う。

「うん、いつもの」

その答えを聞き、安心して席に戻るカイルだった。


※追憶発動条件、町中を獣車で走る。


◆


モクゥアド聖王国。

一大宗教都市として知られている、聖都セフ。


日曜日なのに、町中に人がいない。

普段の日曜日の昼時と言えば、礼拝関連で町は人で溢れかえっている。

現在、緊急事態宣言が出されている為、町中には人っ子一人いない。


聖女は、岩のドームに異変ありとの報を受けていた。

岩のドームに最奥に安置されている精霊、イフリートに何らかの異常があったと思われる。

イフリートは、列島レヴィドアの結界の要、失うわけにはいかない。

この結界なくして、世界の平和はありえないのだから。


改造護送車で、町中を駆ける聖女一行。

身を乗り出し、上機嫌の聖女。

「行っけぇ!!」

聖女が発するべき言葉ではない。

そして、ハコ乗りはやってはいけない。


聖女が乗るこの護送車は、周囲を並走するバンより一回り大きい。

乗っている人数は少ないのだが、積み荷が巨大過ぎるせいだった。


タイヤが軋(きし)んで悲鳴を上げている。


何を積んでいるのか。さぞ、重要なものなのだろう。

護送車の周りを、大型バイクに跨(またが)る護衛が、計20名が取り囲んでいるのだから。



突然、護送車がタイヤを鳴らし急停止する。護衛の騎士も何事かと集まって来る。

「どうしたの?急がないと」

聖女が護送車から降りて、窓から中を覗(のぞ)き込む。

ハンドルに顔を突っ伏している。明らかに運転手の様子がおかしい。

「ぐ…がぁ!ごっ…」

「貴方…誰?」

聖女は直ぐにこの運転手が、何者かに乗っ取られたと気付く。

「下がって下さい!」

騎士達が聖女の前に出ると、運転手はドアを開けて外に出た。


「お、おで…は、グリ…グリモワールっ!!」

首を上下左右不自然に動かしながら、不気味に前進する運転手。

「何だ、こいつは?」

その異様さに一歩下がる護衛達。

「黒ノ書が何故ここに?」

聖女は緊迫感なく首を傾げる。


黒ノ書とは、意思を持った呪いの魔書である。

フルグア機国、首都バガパルの大図書館の禁書コーナーに、厳重に封印、保管されている筈(はず)だった。

その厳重なセキュリティを突破し、持ち出した者がいる。

黒ノ書自体に、封印を解除する能力はない。


「或る御…方の…頼…みでな…聖女の心臓が必要だ。よし、段々馴染んできたな」

運転手の姿をしたものは、口を空けたり閉めたりして、身体の動きを確かめている。


聖女は、視線だけで護衛の騎士を下がらせた。


「大人しく乗り移られるか、心臓をよこしな!お前は大切な仲間に手を出せな、うべば!!」

聖女は、いつの間にか持っていた巨大なハンマーで、躊躇(ちゅうちょ)なく運転手を叩き潰した。

騎士達は微動だにしない。いつもの光景らしい。


そのハンマーは、聖女の身丈を軽く越えている。

長さ5m、重さ数t(トン)。

それを片手で構えて、力を込めている素振りもせずに微笑んでいる。


このハンマーを運ぶ為の、大きな護送車だったのだ。


そう、彼女は怪力の《殴り聖女》と呼ばれているのだ。


「ふ…ふざ…ふ…ざけ…るる…るるな!」

今度は周りを護衛していた騎士に、取り憑(つ)いたらしい。

「あら、面倒ね」

聖女は舌を出す。

「お前、ホントに聖女か?躊躇(ちゅうちょ)なく仲間を殺しやがって!」

騎士姿で憤慨(ふんがい)する黒ノ書。

「何の事なのか、さっぱり分からないわね」

頬に指を当て、片目を瞑(つむ)る聖女。

「ふざけるな!そこの…運転手…?」

指を差した先にいる運転手。ピンピンしている。

「はい、何でしょうか?」

あっけらかんと答える運転手。

「何故、生きている?お前が死んだから、俺がその身体から弾き出されたのだぞ」

「そんなの、生き返らせたからに決まってるじゃないの?」

軽く言う聖女。蘇生(そせい)魔法は奇跡の業(わざ)とされているのに、だ。


「お前!蘇生魔法が…うぼばは!」

聖女は巨大なハンマーで、今度は騎士を叩き潰した。

強制的に乗っ取りを解除された、黒い靄(もや)が騎士から飛び出る。

その瞬間、聖女は両腕を広げスキルを発動した。

「聖気(ヴェール)」

金色の光がドーム状に広がる。

聖女一行を聖気で包み込み、黒ノ書の乗り移りを阻止した。

黒い靄(もや)が生き場を失い、その周りを漂う。

既に潰された騎士は蘇生されている。

「くそ!面倒臭ぇなぁ!」

悪態(あくたい)をつく黒ノ書。

「終わりにしましょうか」

穏やかに終結を宣言する聖女。

「ふん、聖女に俺は倒せやしねえよ」

プルプルと嗤(わら)うように揺れる、黒い|靄(もや)。

「あら、聖女に攻撃魔法がないとでも?」

「お前!まさか?やめろ!やめろって!」

何かに感づいた黒ノ書は、慌てふためく、ように見える。

「そう言われて、止める人はいないですよ。では、聖光(ホーリー)」

気の抜けた声で、聖魔法を発動させる聖女。

黒ノ書の真上と真下に、円形の魔法陣が現れる。

「嘘だろ…」

黒ノ書は、天まで伸びる光の円柱に捕らえられた。

その中を、大量の聖なる魔力が通り抜ける。

目が開けていられない程の極光が迸(ほとばし)る。

「う!ぐぉおおおぉ!」

黒ノ書が断末魔(だんまつま)をあげる。


「さ、先を急ぎましょう!」

振り向き、皆にそう告げる聖女。


「うぐぅ、まさか聖気(ホーリー)まで使えるとは…」

「あら、まだ生きてましたの?丈夫なのですね。では、次なる聖魔法で消滅させましょうか?」

黒ノ書に掌を向ける聖女。

「勘弁(かんべん)だ!割に合わねぇ!俺はここらでドロンするぜ!」

黒ノ書の靄(もや)は、先程の攻撃でかなり薄くなっている。

次に聖魔法を喰らえば、確実に消滅するだろう。

「そうして頂けると助かります。こちらも急いでるので」

聖女に黒ノ書を追撃する気はないようだった。


「ひとつ、聞いていいか?」

黒ノ書が聖女に問う。

「はい、なんでしょう?」

「これから、お前は何をしに行く?」

「迷える子羊の為に、杭を打ちに行くんです」

「は?」

「それ以上は言えません」

微笑(ほほえ)みながら答える、その姿はまさに聖女。

巨大なハンマーを肩に担いでいなければの話だが。

「けっ!一つ忠告しといてやる」

「何でしょうか?」

「聖女の命は色々使えるって事だ」

「あら嫌だ」

そう言い残し、黒ノ書は消え去った。


「貴方を許します。人は許せる生き物ですから」

ハンマーを地に置き、手を合わせ、濁り(にごり)のない笑顔を輝かせる聖女。

黒ノ書の悪態が、聞こえてくるようだった。


『聖女の記憶を一部取り戻しました』


『記憶レベル11/1000、スキルを一つ解放します』

スキル∶聖気(ヴェール)

消費MP、30秒毎に―2000

範囲内にあらゆる攻撃が入らなくなる。


※聖女のスキンを獲得しました。


◆


商業施設内の、住民達が集まる吹き抜けの大ホールにカード一行は辿り着いた。


二人が獣車を降りていると時、カードが目を覚ます。

焦って飛び起きるカード。

「どうなってる!?」


「今着いた」

「今回は、戦闘中じゃなくて良かったな」

胸を撫(な)で下ろし、息を吐くカード。

戦闘にならなかっま為、操術は発動しなかった。

「良し!行こう」

商業施設外の柱に、獣車を固定して中に入る三人。


一階は広いワンフロア、中央に螺旋(らせん)階段があり、三階まで続いている。

その上の階には、エレベーターで行けるみたいだ。


「なんか、いっぱいいる?」

入口脇のロッカーに身を潜める。そこから少し顔を出し状況を確認する。

フロアの光景にサエラは目を見張る。

広いフロアを、何かを探すように徘徊する複数の魔物達。

「ふむ、ゴブリン、トロール…?あれはベヒモスかの?」

カイルは指折り、魔獣の数を数えている。


ゴブリンとは、人型の緑色の体表をした子鬼。

知能は低いが、武器位は使える、と言うか、振り回せる。

集団で行動する生き物。ちょっと臭い。


トロールとは、大型で人型の魔物。

身長は2mから3m程、殆(ほとん)どがぽっちゃり体型。

凄く臭い。


「小さいのう」

カイルが呟(つぶや)く。

「小さいって?どういう」

それが気になったカードは、直ぐに聞く。

「小型のベヒモスなんぞ、聞いたことがない。ベヒモスと言えば、大抵巨大なものだ」

小型だと、なんだかカバに見えると笑うカイル。

「そうなんだ?」

「小型でも、戦闘力が変わりないのなら、厄介極まりないがな」

「そんなに強いの?」

不安になったサエラがカイルに聞く。

「まぁ、災害級ではある」

さらっと、怖い事を言うカイル。

「ではあるって…」


見える限り、ゴブリン20体、トロール10体、小型ベヒモス10体。

ゴブリンの群れが、ホールの端に固まっている住民を見つけ、襲(おそ)い掛かろうとしていた。

悲鳴を上げる住民。


魔物としては弱い部類だが、数が増えれば当然、脅威(きょうい)度は上がる。

戦闘経験がない住民なら尚更だ。

身を固め震えるしかできない。


「カイル!」

カードの呼びかけで、瞬時に動き出すカイル。

青銀色の長髪を靡(なび)かせ、床につきそうな程低い姿勢で走り、ゴブリンの群れの背後まで数mの所で、カイルはスキルを発動する。

「わかっておる、《王威》!」

カイルの全身から、覇気(はき)が溢れる。

不可視の波動が、周囲に広がる。


王威(おうい)、範囲スタン。

消費MP―500。

覇気(はき)に触れたものはスタン状態になる。


住民に迫った魔物の一団は、無効化に成功した。

ゴブリンとトロールはスタンに掛かるが、小柄のベヒモスには効果がないようだ。今もゆっくりと移動している。

取りこぼしのゴブリンとトロールもいる。


「仕方ないか、地道に削るぞ!」

カードの指示に一切迷わず従う二人。

「「了解!」」

手際よく残ったゴブリンとトロールを狩っていく三人。


ベヒモスは動きが少ないので、ひとまず放置する事にした。


ベヒモスとは、通常、山のような巨体である。

出現すれば、過ぎ去るのを待つしかないと言われる程の脅威(きょうい)。最早災害と変わりはない。


何故、目の前のベヒモスが、競走馬ほどの大きさなのかは分からない。

カイルの見立てでは、召喚獣の類であるとの事だった。

「目的はさっぱり分からんがの」

そう言った時には、既にゴブリンとトロールは殲滅(せんめつ)されていた。

とは言え、召喚獣であれば、能力は術者に依存(いそん)するので、通常のベヒモスよりは、強くはないと考えられる。


勿論(もちろん)、術者が通常のベヒモスより強ければ、その限りではないが。


その時、轟音(ごうおん)と共に巨大な影が降ってきた。

天井を突き破り、降ってくる巨体。

割れたガラスが一階に降り注ぐ。

キラキラと輝く脅威(きょうい)に、再び恐慌(きょうこう)に陥(おちい)る住民。


ガラスと共に降ってきた、巨大な塊(かたまり)が地につくと、衝撃波が起き、数mのクレーターが出来上がる。


「また、厄介なやつが現れたものだな」

舌打ちするカイル。

「厄介?ベヒモスよりも?」

「ベヒモスは害意(がいい)がない。ただ進むだけだ」

「この厄介な奴は?」

「害意(がいい)の塊(かたまり)だ。喰う目的では無くても、手当たり次第に殺していく。人だろうが、魔獣だろうが関係なくな」


「なる程、奴を止めよう、今直ぐに止めよう!」

カイルの説明に焦るカードは、力を込めて大剣を握る。

「そうだな」


「ところでアレの名前は?」

「オーガキングだ」

「…キングって強そうだねぇ」

「まぁ、強いだろうよ。主(あるじ)程ではあるまいが」

「そうなんだ?」


オーガキングは、人型の魔物でトロールより更にデカい。

10mはある身長、長い腕を振り回すだけで、それは殺傷能力の高い武器となる。

行く手を阻むあらゆるものを、粉砕するオーガキング。


眼前に魔物を発見するオーガキング。

無造作に小型ベヒモスを手で掴(つか)み取る。

それが可能な程のサイズなのだ。


「おいおい…」

躊躇(ちゅうちょ)なく、小型ベヒモスを喰らう。

さすがに、他の小型ベヒモスも逃げ出す。

「なんだ…コイツ…!」

青ざめるサエラ。


「あまり食わすな!食うたびにHPが増えてる。きっとその他のステータスも上がってる!」

看破(かんぱ)スキルで、オーガキングのステータスを確認したカードの指示が飛ぶ。


オーガキングに狙われる住民。

振り回す腕がもう間近、間に合わない。

「くそっ!聖気(ヴェール)」

金色の薄膜(うすまく)が展開される。

住民を聖気で囲み守る。

「頼む!サエラ!カイル!」

「了解」「任された!」

二人は聖気(ヴェール)を背に、オーガキングに立ち向かう。

「行くぞ!青い炎(スカイフレイム)!」

カイルの放った蒼炎(そうえん)がオーガキングを包むが、ダメージはさほど与えられていない。

鬱陶(うっとう)しそうに、手を振るオーガキング。

いつの間にか、高く跳んでいたサエラ。

オーガキングの頭上を軽く越え、そこから急下降し脳天にナックルを振り下ろす。

鈍い音が響き、オーガキングが膝をつく。

「よし!」

「油断するな!」

オーガキングは、なりふり構わず両腕をぶん回す。

「うお!」「わぁ!」

二人は弾き飛ばされた。

転がった二人に向け前進、拳を振り下ろそうとした時、オーガキングは突如、右腕を跳ね上げ体勢を崩す。


「なんだ?」

「分からんが好機だ!」

オーガキングの腕に小さい穴が開いていて、そこから血が流れている。

銃で撃たれたような跡。


「狙撃…か?」

体勢を元に戻すオーガキング。しかし、狙っていたサエラとカイルへの攻撃が、一拍遅れる。


「速さアップ《極》!」

隙(すき)を見逃さず、カードが聖気(ヴェール)を解き、オーガキングに瞬時に迫り、黒い大剣で連撃をする。

建物の中では、断罪(パニッシュ)は撃てない。

「おぉおお!!」

裂帛(れっぱく)の気合。黒い大剣が嵐を生む。

刻まれ続けるオーガキングは、倒れる事も許されず、ダンスを踊るように不気味に動き続ける。

「主(あるじ)よ、もう事切れておるよ」

カイルはそっと、カードの背中に手を当てた。

「…っは!」

止めていた息を吐く。

背中に手の温かさを感じ、我に返り、カードは連撃を漸(ようや)く止めた。


糸が切れたように、その場に崩れ落ちるオーガキング。

巨体の倒れる地鳴りの後には静けさが満ちる。

「終わった…」

その後、小型のベヒモスは消失した。

誰かが召喚したものだと確定した。


不自然な魔物の暴走。


ゴブリンとトロールが群れる事はない。

何者かが仕組んだと思われる。

召喚された小型ベヒモスの術者と、同一人物かは分からない。


それと、謎の狙撃。

敵ではないのだろうが、姿を見せない者を信頼する事は出来ない。


「次は?」

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