パーティメンバーを探そう
テズヴァイス公国、その首都。要塞都市サンゲイル。
グレイに手配して貰った宿を引き払い、新たに宿を借り、荷物を置きギルドへと向かう三人。
初心者ダンジョンを出た後、この後の方針を話し合うためギルドへやってきた。
ギルド併設の食堂で、カードは始めて食事を取る。
注文していた、全員分の料理が届いた。
温かい食事はいつぶりだろうかと、カードは首を捻るが、記憶が無いので分からなかった。
カードは頭を切り替える。
「僕達のパーティって偏ってるよね?」
円卓を囲み、食事を取りながら意見を言い合う。
「うん」
「そうだな、皆、攻撃役だな」
カード、ゴリゴリのフロント。
サエラ、超近接と中距離魔法。
カイル、近接と中距離魔法。
三人共に前衛だった。
「どう思う?」
「わからない」
即答のサエラ。期待はしてなかったとはいえ、考えようともしないこの態度には、些か不満も憶える。
追求する程ではないのだが。
「出来れば、長距離攻撃が出来る者が良いな」
年長者のカイルはそう答える。一番背が低く、一見少女にも見えるが、間違いなくこの中で最年長である。
実は、80歳を超えている。フェンリルは数百年生きるらしいので、まだ、若年だと言い張っているのだが。
「僕は回復職か、支援職がいいと思うんだけど」
「三つに絞ると、先ずは、回復より支援か長距離だな」
「………」
二人の意見を聞き流しながら、サエラは黙々と目の前の料理を消化し続けている。
「我々三人は、支援が出来んからな、支援職で良いと思う」
的確に答えてくれるカイルの意見は有難い。
「そうだよねぇ」
カードはしきりに頷く。
新たなメンバーが欲しい、出来れば支援職であると心強い。
回復はアイテムでなんとでもなるからだ。
先程のカイルの意見は、その事も含んでいた。
食後、精算を済ませ、食器を返す。
サエラはお手洗いに消えた。
ギルドのカウンターで、いつもの受付嬢に話を聞こうとした時、また、絡まれた。
「おい、兄ちゃん。美味そうな女連れてんなぁ」
下衆の極みな発言、面倒極まりない。
「はぁ、それがどうしました?」
呆れながら、渋々返事をするカード。
「二人もいるんだ、一人譲れや!」
「は?」
これには、受付嬢も呆れ顔。
「は?じゃねぇよ!」
「あ…この光景って」
カードの意識が遠ざかる。
カウンターに突っ伏すカード。
驚いた受付嬢は、カードの呼吸を素早く確認すると、その場を離れた。
いつの間にか、サエラがカイルの横に並んでいた。
「ちゃんと手を拭いておけ」
と、カイルがサエラにハンカチを渡す。
「ん」
サエラは手を拭きを、自身のポケットにしまう。
カイルとサエラが、男を仕留めようと、目の前に立ちはだかる。
普段無表情のサエラが、不機嫌そうにみえる。
「おいおい!ギルドでの武器の使用は禁止されているんだぞ!」
二人の様子を見て、焦る男は唾を飛ばし叫ぶ。
連れて行こうとした女達は、二人とも超武闘派だ。
思ってた展開と違い、慌てふためく男。
このままでは、自分の生命が危うい。
「この手甲は常に着けている。問題ない」
サエラは金眼を光らせ、青緑色の手甲を打ち付け火花を散らす。
「爪や牙はしまえない。問題ない」
カイルは紅眼に殺意を乗せて、両拳の爪を伸ばす。
「いやいやいやいや!問題あるだろ!?待ってくれ!!」
手を前に出し絶叫する、数歩後退る男。
赤スーツ姿のギルマスが、銀縁眼鏡を光らせて、颯爽と大階段に登場した。
「また、絡まれたのか?」
階段の途中で立ち止まり、半眼で下を見やるギルマス。
その後ろには、受付嬢が隠れている。
受付嬢は、ギルマスを呼びに行っていたのだ。
無言でギルマスの問いに頷く、サエラとカイルだった。
「そんな奴でも、ギルドの歯車としての役割はまだある。離してやってはくれないか?」
と、顎をしゃくるギルマス。
つまり、役割がなくなれば、やってもいいと言う事。
「言い方が酷えよ!ギルマス…」
半泣きの男は膝をつき、おお神よと大袈裟に天を仰ぐ。
とても、信心があるようには見えないのだが。
「ギルマスがそう言うなら」
「うん」
二人は大人しく下がった。
「…助かるよ」
何故か棒読みのギルマスは、長い溜息を吐いた。
男は意気消沈し、ふらふらとギルドを去って行った。
スイングドアが物悲しげに鳴っていた。
※追憶発動条件、いずれかのカウンターで殺意を向けられる。
◆
テズヴァイス公国、ノームダイト、この国最大の霊園、コゴータン墓所の脇にある酒場。
時刻は深夜。その店のバーカウンター。
「死体を増やす者と、死体を操る者か」
ネクロマンサーは、掠れた声で楽しそうに嗤う。
彼の真後ろに立つ、黒尽くめの暗殺者。
薄暗い店内でも、ネクロマンサーの白い肌は浮いて見える。
ネクロマンサーはグラスを軽く振ると、氷が軽やかな音を立てた。
ふっと、ウイスキーの香りが立つ。
「場所を移すぞ」
墓所の直ぐ隣にある酒場だけに、この時間、客はほぼ居ない。
「全く、人の都合は考えないのか?」
グラスを傾け、溜息を吐くネクロマンサー。
「ここでやってもいいんだぞ」
怒気を膨らます暗殺者は、今にも武器を抜きそうだ。
「やめてくれ、ココは私のお気に入りなんだ。分かったよ、場所を移そう」
更に深い溜め溜息を吐きつつ、立ち上がるネクロマンサー。
「マスター、また来るよ」
「………」
マスターは一瞥だけする。
ネクロマンサーは、バーカウンターに数枚の銀貨を置いた。
◇
コゴータン墓所の端で相対する二人。
「いつでもどうぞ」
ネクロマンサーは、形の良い口を歪める。
「…」
いつの間にか握っている短剣を、腰下に構え、一気にネクロマンサーへと迫る暗殺者。
「操術」
ネクロマンサーは、両手を前に出しスキルを発動する。
「なに!?」
暗殺者は自由を奪われた事に動揺する。
身体を操られたのだ。
「あ…?」
今度はネクロマンサーが驚く番だった。
「ぐっ…」
心臓から、短剣を生やすネクロマンサー。
「何が?」
「生物は操れるようだが…」
暗殺者は、右腕を晒し、ネクロマンサーに見せる。
「青い…義手…?」
「そうだ、ミスリルの義手は操れなかったようだな」
「なる程…そう言う事か…義手に生体反応はないからな…」
暗殺者は、殊更騒ぎ立てるような事はしない。
「依頼完遂だ」
「はは、やられたね…」
口から血を流すネクロマンサー。
「残念だったな」
抑揚のない声を、漏らすように言う暗殺者。
「いや、残念なのは…寧ろ君の方さ」
何故か、嬉しそうに言うネクロマンサー。
心臓を貫かれては、生物は生きる事が出来ない。
それにも関わらず、嗤う男。
「なに?」
ネクロマンサーの皮膚が、急激に青褪めていく。
大量の血が失われたから、だけではない。
「殺される事も、計算内と言う事さ」
シャツを破き、自身の胸を晒すネクロマンサー。
「魔法陣?」
直に自身の身体に、魔法陣が刻んであった。
ネクロマンサーは赤黒い光に包まれた。
「なんだ?」
暗殺者の視界が奪われる。
瞼の裏が明滅する。
「アンデッド化だよ。これで私は死ななくなった。無限に研究の時間が取れる。勿論身体のメンテは必要だがね」
光が収束する。
「アンデッド化…?」
「そうさ、事前に身体に魔法式を刻んで置いたのさ」
直に肌にナイフで刻んでいた。
「狂気…だな」
「いや、小心者なだけだよ。自殺する勇気がなかっただんだ。おや、時間のようだ。それでは、また、いずれ」
かすれた嗤い声を残して、ネクロマンサーは消えた。
文字通り、煙のように消え去ったのだ。
「おいおい…」
依頼であるネクロマンサーの殺害は成功した。
「そういや、アイツ、ネクロマンサーなのに、死者を操らなかったな。最初から、自分を殺させるのが目的だったからなのか?」
首を傾げる暗殺者。
目的、依頼は成功はしたのだが。
「全く…」
暗殺者は考えを纏めるべく、先程のバーへと重い足を向けた。
「何て報告すりゃいいんだか」
カウンターに座り、暫し心を落ち着かせる時間を取る。
じっと、注文を待つマスター。
この後、依頼主への報告を、朝まで悩み、頭を抱える事になる暗殺者だった。
「マスター、強い酒を一杯くれ」と人差し指を一本上げる暗殺者だった。
失敗とは、どう言う事なのだろうか。
その答えは、実は人によって、場所によって、或いは、時間によって異なる。
成功と失敗は、コインの表と裏のようなものらしい。
『ネクロマンサーと暗殺者の記憶を一部取り戻しました』
『記憶レベル8/1000、9/1000、スキルを二つ解放します』
スキル∶急所当て
消費MP―300。
物理攻撃が必ずクリティカルになる。
スキル∶操術
対象一体を操る事が出来る(自身を含む)。
自動で発動する事が可能。
予め、操った後の行動を設定する事が出来る。
※ネクロマンサーのスキンを獲得しました
◆
要塞都市サンゲイルの冒険者ギルド、ギルマス執務室。
カードの状態を、サエラとカイルが説明する。
「カードはこの状態を、デジャヴと言っていた」
カードは執務室の、長い方のソファに寝かされていた。
「通常のデジャヴでは有りえない…これではまるで病ではないか?」
それはまるで、ナルコレプシーのような。
こんな状態で、冒険者を続けているなど、正気の沙汰ではないと考えるギルマス。
危険な仕事が多い冒険者という職業。戦闘中にこの症状が現れれば、ほぼ確実に命を落とす事になるのだ。
その時、激しい音を立てて扉が開かれる。
「ギルマス!大変だ!」
「ここには、病人がいるのだぞ!ノックくらいしたらどうだ?」
飛び込んできた者に、正面から殺気を放つギルマス。
「うっ…!」
男は片膝をつき、脂汗を流しながら耐えている。
A級冒険者の殺気を浴びて、動ける一般人は存在しない。
「おい、赤スーツ、そやつ何か話があるのでは?暫し殺気を収めよ」
カイルが、ギルマスの肩に手を置き嗜める。
身長差がある為、後ろから見ると、カイルが背伸び状態で腕を伸ばし、やっとギルマスの肩に手を届かせる努力が見えた。
「悪い…感情的になった…何事だ?」
謝罪し、殺気を鎮めるギルマス。
「っ、はぁはぁ…」
殺気を解かれた男は、肩で息をする。
「こちらこそ無遠慮に悪かった。それよりギルマス、魔物洪水だ!」
「魔物洪水?」
サエラは首を傾げる。
「スタンピードの事だ。旧い言い方だがな」
カイルがサエラに短く説明する。
「なる程、わかった」
「そのスタンピードの場所は?」
「この要塞都市の南東の山です」
「まさか!尖山の迷宮か!?」
「…はい!」
尖山の迷宮とは、要塞都市、首都サンゲイルの南東の山にあるダンジョンの事だ。
百年前に狩り尽くされ、廃ダンジョンとされていた。
放置している訳ではなく、定期的に調査は行われている。
この数十年、上層に魔物や魔獣の気配はなかった。
溢れる事はないと思われていた。
「まずいな、場所がここに近すぎる」
顎に手をやり、考えを廻らすギルマス。
「少しずつ、溢れる魔獣の数が増えてきているそうです」
「どれくらいのペースだ?」
「今は、分、三十体と言った所です…」
「直ぐに大地神と黒の衣に連絡!緊急招集!」
「は!了解しました!」
この町に常駐しているクランの招集を、男に依頼するギルマス。
「下の受け付けにも伝言を頼む」
「分かりました」
男は転がるように部屋を出て行った。
「はぁ…なんて事だ…」
ギルマスはテーブル側の、小さい方のソファに腰を下ろし、頭を抱えて唸る。
「ん?あれ?」
カードが目を覚ます。
「なんだ?コレは?」
カードの元の身体の記憶であろうものが、突如頭の中に流れ込んでくる。
『今時、貴族だって強くなきゃ、誰も付いてこないさ』
『お前は用済みだ』
『残念だったわね』
『始めてくれ』
『料金分の仕事はするのよ。まずは、記憶を抜く、その後飛ばす』
五人分の声が聞こえる。
雑音が紛れる。
『……は…こ…む……ん…』
『い……こ……う………す……』
『…う………ぞ……じ………』
流れ込んできた声は、突然切れた。
息が荒い。熱い。
新鮮な空気を求めて、カードは荒々しく呼吸を繰り返す。
脂汗が流れる。顎から落ちる。
これは、デジャヴではない。追体験でもない。
異変に気付いたサエラとカイルが、カードの元へやってきた。
「カード、顔悪い」
酷い言い方のサエラ。
「顔色な!」
「どうしたカード、変なもんでも拾い食いしたか?」
酷い言い方のカイル。
「今起きたばっかなんだが!?」
「二人ともちょっと、こっち来て」
笑顔で二人を呼ぶカード。
「「?」」
二人は言われるがまま、カードの側に寄る。
ゆっくり身体を起こすカード。
「しゃがんで」
「うん」「分かった」
カードは、右手にサエラの頭、左手にカイルの頭を摑んで力を込める。
目一杯に。
万力の力で締め上げるカード。
「「痛い痛い痛い!ゴメン!離して!」」
涙目で許しを乞う二人だった。
これはカード自身の記憶だろう。
恐らく、記憶を抜かれただけではない。
飛ばす、と言っていた。何らかの方法で肉体を、何処かへと転送する魔法かなんかだろうか。
そして、飛ばされる時に別の何かが、カードの中に入ったのだ。
その何かが、“僕”だろう。
「体調がすぐれないところ悪いのだが…」
カードはサエラとカイルの頭を放す。
気を遣いつつ、カードに声を掛けるギルマス。
サエラとカイルは、カードの足元に伏して小刻みに震えている。
「えぇ、聞こえてましたよ。スタンピードですって?」
「…そうだ」
「協力しましょう。僕達は何をすれば?」
「すまないな、君達は町の防衛をお願いしたい。私達は尖山の迷宮を攻略する」
「了解しました」
「助かる」と言い、デスクの電話を取り、何処かへ連絡を取るギルマス。
直ぐに終わる気配はない。
カードは立ち上がる。
裸足である事に今更ながら気付く。
素足に床の冷たさが心地よい。
「直ぐに出発するか?」
「いや、ちょっと確認したい事が…」
「構わんよ。主の準備が出来るまで待とう」
立ち直ったカイルは、こめかみを揉みながら答える。
サエラは未だに足元に伏している。
「ありがとう」
パーティメンバーを探す所の話しではなくなってしまった。
一先ず、操術の確認をしなくてはならない。
これがうまく使えれば、デジャヴの時に皆に守ってもらう必要もなくなる筈だ。
スキル∶操術
対象一体を操る事が出来る。
事前に行動を登録する事で、自動に動くように設定出来る。
キーワード登録。
テキスト登録。
「うーん…取り敢えず…」
操術を自動にして、対象を自身に設定した。
次は、行動登録。
「テキストは難しそうだから…」
キーワード登録。
①意識を失うと同時に発動する
②魔獣・魔物・悪魔、殲滅するまで攻撃
③敵意のある人物、亜人、行動不能にするまで攻撃・殺さない
④意識を取り戻したら解除する
「こんなもんかな?さて」
ブーツを履き、ジャケットを羽織る。
「準備は出来たか?主」
「うん、そうだね。行こうか」
サエラがやっと起き上がってきた。
「うぅ〜…」
「やり過ぎだったら謝るけど、これからは、僕の事をいじりすぎないようにね」
二人に指を突きつけるカード。
「了解だ…」
「わかった…」
二人は言葉を絞り出した。
南東のダンジョンが溢れたのだから、南東から敵は来る筈だ。
「さ、行こう」




