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デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
記憶のない奴隷編

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10/16

パーティメンバーを探そう

テズヴァイス公国、その首都。要塞都市(ようさいとし)サンゲイル。


グレイに手配して貰った宿を引き払い、新たに宿を借り、荷物を置きギルドへと向かう三人。


初心者ダンジョンを出た後、この後の方針を話し合うためギルドへやってきた。

ギルド併設(へいせつ)の食堂で、カードは始めて食事を取る。


注文していた、全員分の料理が届いた。

温かい食事はいつぶりだろうかと、カードは首を捻(ひね)るが、記憶が無いので分からなかった。


カードは頭を切り替える。

「僕達のパーティって偏(かたよ)ってるよね?」

円卓を囲み、食事を取りながら意見を言い合う。

「うん」

「そうだな、皆、攻撃役だな」


カード、ゴリゴリのフロント。

サエラ、超近接と中距離魔法。

カイル、近接と中距離魔法。

三人共に前衛だった。


「どう思う?」

「わからない」

即答のサエラ。期待はしてなかったとはいえ、考えようともしないこの態度には、些(いささか)か不満も憶(おぼ)える。

追求する程ではないのだが。

「出来れば、長距離攻撃が出来る者が良いな」

年長者のカイルはそう答える。一番背が低く、一見少女にも見えるが、間違いなくこの中で最年長である。

実は、80歳を超えている。フェンリルは数百年生きるらしいので、まだ、若年だと言い張っているのだが。

「僕は回復職か、支援職がいいと思うんだけど」

「三つに絞ると、先ずは、回復より支援か長距離だな」

「………」

二人の意見を聞き流しながら、サエラは黙々と目の前の料理を消化し続けている。

「我々三人は、支援が出来んからな、支援職で良いと思う」

的確に答えてくれるカイルの意見は有難い。

「そうだよねぇ」

カードはしきりに頷く。


新たなメンバーが欲しい、出来れば支援職であると心強い。

回復はアイテムでなんとでもなるからだ。

先程のカイルの意見は、その事も含んでいた。

食後、精算を済ませ、食器を返す。

サエラはお手洗いに消えた。


ギルドのカウンターで、いつもの受付嬢に話を聞こうとした時、また、絡まれた。


「おい、兄ちゃん。美味そうな女連れてんなぁ」

下衆(げす)の極みな発言、面倒極まりない。

「はぁ、それがどうしました?」

呆れながら、渋々返事をするカード。

「二人もいるんだ、一人譲れや!」

「は?」

これには、受付嬢も呆れ顔。

「は?じゃねぇよ!」


「あ…この光景って」

カードの意識が遠ざかる。

カウンターに突っ伏すカード。

驚いた受付嬢は、カードの呼吸を素早く確認すると、その場を離れた。

いつの間にか、サエラがカイルの横に並んでいた。

「ちゃんと手を拭いておけ」

と、カイルがサエラにハンカチを渡す。

「ん」

サエラは手を拭きを、自身のポケットにしまう。


カイルとサエラが、男を仕留めようと、目の前に立ちはだかる。

普段無表情のサエラが、不機嫌そうにみえる。

「おいおい!ギルドでの武器の使用は禁止されているんだぞ!」

二人の様子を見て、焦る男は唾(つば)を飛ばし叫ぶ。

連れて行こうとした女達は、二人とも超武闘派だ。

思ってた展開と違い、慌てふためく男。

このままでは、自分の生命が危うい。


「この手甲は常に着けている。問題ない」

サエラは金眼を光らせ、青緑色の手甲を打ち付け火花を散らす。

「爪や牙はしまえない。問題ない」

カイルは紅眼に殺意を乗せて、両拳の爪を伸ばす。

「いやいやいやいや!問題あるだろ!?待ってくれ!!」

手を前に出し絶叫する、数歩後退(あとずさ)る男。


赤スーツ姿のギルマスが、銀縁眼鏡を光らせて、颯爽(さっそう)と大階段に登場した。

「また、絡まれたのか?」

階段の途中で立ち止まり、半眼で下を見やるギルマス。

その後ろには、受付嬢が隠れている。

受付嬢は、ギルマスを呼びに行っていたのだ。

無言でギルマスの問いに頷(うなづ)く、サエラとカイルだった。


「そんな奴でも、ギルドの歯車としての役割はまだある。離してやってはくれないか?」

と、顎(あご)をしゃくるギルマス。

つまり、役割がなくなれば、やってもいいと言う事。

「言い方が酷(ひで)えよ!ギルマス…」

半泣きの男は膝をつき、おお神よと大袈裟(おおげさ)に天を仰ぐ。

とても、信心があるようには見えないのだが。


「ギルマスがそう言うなら」

「うん」

二人は大人しく下がった。

「…助かるよ」

何故か棒読みのギルマスは、長い溜息(ためいき)を吐(つ)いた。


男は意気消沈(いきしょうちん)し、ふらふらとギルドを去って行った。

スイングドアが物悲しげに鳴っていた。


※追憶発動条件、いずれかのカウンターで殺意を向けられる。


◆


テズヴァイス公国、ノームダイト、この国最大の霊園、コゴータン墓所の脇にある酒場。

時刻は深夜。その店のバーカウンター。

「死体を増やす者と、死体を操る者か」

ネクロマンサーは、掠れた声で楽しそうに嗤う。

彼の真後ろに立つ、黒尽くめの暗殺者。

薄暗い店内でも、ネクロマンサーの白い肌は浮いて見える。


ネクロマンサーはグラスを軽く振ると、氷が軽やかな音を立てた。

ふっと、ウイスキーの香りが立つ。


「場所を移すぞ」

墓所の直ぐ隣にある酒場だけに、この時間、客はほぼ居ない。

「全く、人の都合は考えないのか?」

グラスを傾け、溜息(ためいき)を吐(つ)くネクロマンサー。

「ここでやってもいいんだぞ」

怒気を膨(ふく)らます暗殺者は、今にも武器を抜きそうだ。

「やめてくれ、ココは私のお気に入りなんだ。分かったよ、場所を移そう」

更に深い溜め溜息(ためいき)を吐(つ)きつつ、立ち上がるネクロマンサー。

「マスター、また来るよ」

「………」

マスターは一瞥(いちべつ)だけする。

ネクロマンサーは、バーカウンターに数枚の銀貨を置いた。


◇


コゴータン墓所の端で相対する二人。

「いつでもどうぞ」

ネクロマンサーは、形の良い口を歪(ゆが)める。

「…」


いつの間にか握っている短剣を、腰下に構え、一気にネクロマンサーへと迫る暗殺者。

「操術」

ネクロマンサーは、両手を前に出しスキルを発動する。

「なに!?」

暗殺者は自由を奪われた事に動揺する。

身体を操られたのだ。

「あ…?」

今度はネクロマンサーが驚く番だった。


「ぐっ…」

心臓から、短剣を生やすネクロマンサー。

「何が?」

「生物は操れるようだが…」

暗殺者は、右腕を晒(さら)し、ネクロマンサーに見せる。

「青い…義手…?」

「そうだ、ミスリルの義手は操れなかったようだな」

「なる程…そう言う事か…義手に生体反応はないからな…」

暗殺者は、殊更(ことさら)騒ぎ立てるような事はしない。

「依頼完遂だ」


「はは、やられたね…」

口から血を流すネクロマンサー。

「残念だったな」

抑揚のない声を、漏(も)らすように言う暗殺者。

「いや、残念なのは…寧(むし)ろ君の方さ」

何故か、嬉しそうに言うネクロマンサー。

心臓を貫かれては、生物は生きる事が出来ない。

それにも関わらず、嗤(わら)う男。

「なに?」


ネクロマンサーの皮膚が、急激に青褪(あおざ)めていく。

大量の血が失われたから、だけではない。


「殺される事も、計算内と言う事さ」

シャツを破き、自身の胸を晒(さら)すネクロマンサー。

「魔法陣?」

直に自身の身体に、魔法陣が刻んであった。

ネクロマンサーは赤黒い光に包まれた。

「なんだ?」

暗殺者の視界が奪われる。

瞼(まぶた)の裏が明滅する。

「アンデッド化だよ。これで私は死ななくなった。無限に研究の時間が取れる。勿論身体のメンテは必要だがね」

光が収束する。

「アンデッド化…?」

「そうさ、事前に身体に魔法式を刻んで置いたのさ」

直に肌にナイフで刻んでいた。

「狂気…だな」

「いや、小心者なだけだよ。自殺する勇気がなかっただんだ。おや、時間のようだ。それでは、また、いずれ」

かすれた嗤(わら)い声を残して、ネクロマンサーは消えた。

文字通り、煙のように消え去ったのだ。

「おいおい…」

依頼であるネクロマンサーの殺害は成功した。


「そういや、アイツ、ネクロマンサーなのに、死者を操らなかったな。最初から、自分を殺させるのが目的だったからなのか?」

首を傾げる暗殺者。


目的、依頼は成功はしたのだが。


「全く…」

暗殺者は考えを纏(まと)めるべく、先程のバーへと重い足を向けた。

「何て報告すりゃいいんだか」

カウンターに座り、暫(しば)し心を落ち着かせる時間を取る。

じっと、注文を待つマスター。

この後、依頼主への報告を、朝まで悩み、頭を抱える事になる暗殺者だった。

「マスター、強い酒を一杯くれ」と人差し指を一本上げる暗殺者だった。


失敗とは、どう言う事なのだろうか。

その答えは、実は人によって、場所によって、或(ある)いは、時間によって異なる。

成功と失敗は、コインの表と裏のようなものらしい。


『ネクロマンサーと暗殺者の記憶を一部取り戻しました』


『記憶レベル8/1000、9/1000、スキルを二つ解放します』


スキル∶急所当て(コアクラッシュ)

消費MP―300。

物理攻撃が必ずクリティカルになる。


スキル∶操術

対象一体を操る事が出来る(自身を含む)。

自動で発動する事が可能。

予め、操った後の行動を設定する事が出来る。


※ネクロマンサーのスキンを獲得しました


◆


要塞都市サンゲイルの冒険者ギルド、ギルマス執務室。

カードの状態を、サエラとカイルが説明する。

「カードはこの状態を、デジャヴと言っていた」

カードは執務室の、長い方のソファに寝かされていた。

「通常のデジャヴでは有りえない…これではまるで病ではないか?」


それはまるで、ナルコレプシーのような。

こんな状態で、冒険者を続けているなど、正気の沙汰(さた)ではないと考えるギルマス。

危険な仕事が多い冒険者という職業。戦闘中にこの症状が現れれば、ほぼ確実に命を落とす事になるのだ。


その時、激しい音を立てて扉が開かれる。

「ギルマス!大変だ!」

「ここには、病人がいるのだぞ!ノックくらいしたらどうだ?」

飛び込んできた者に、正面から殺気を放つギルマス。

「うっ…!」

男は片膝をつき、脂汗を流しながら耐えている。

A級冒険者の殺気を浴びて、動ける一般人は存在しない。


「おい、赤スーツ、そやつ何か話があるのでは?暫(しば)し殺気を収めよ」


カイルが、ギルマスの肩に手を置き嗜(たしな)める。

身長差がある為、後ろから見ると、カイルが背伸び状態で腕を伸ばし、やっとギルマスの肩に手を届かせる努力が見えた。


「悪い…感情的になった…何事だ?」

謝罪し、殺気を鎮めるギルマス。

「っ、はぁはぁ…」

殺気を解かれた男は、肩で息をする。

「こちらこそ無遠慮(ぶえんりょ)に悪かった。それよりギルマス、魔物洪水だ!」

「魔物洪水?」

サエラは首を傾げる。

「スタンピードの事だ。旧い言い方だがな」

カイルがサエラに短く説明する。

「なる程、わかった」


「そのスタンピードの場所は?」

「この要塞都市の南東の山です」

「まさか!尖山(せんざん)の迷宮か!?」

「…はい!」


尖山の迷宮とは、要塞都市、首都サンゲイルの南東の山にあるダンジョンの事だ。

百年前に狩り尽くされ、廃ダンジョンとされていた。

放置している訳ではなく、定期的に調査は行われている。


この数十年、上層に魔物や魔獣の気配はなかった。

溢れる事はないと思われていた。


「まずいな、場所がここに近すぎる」

顎(あご)に手をやり、考えを廻らすギルマス。

「少しずつ、溢れる魔獣の数が増えてきているそうです」

「どれくらいのペースだ?」

「今は、分、三十体と言った所です…」

「直ぐに大地神(グランマザー)と黒の衣(ナイトコート)に連絡!緊急招集!」

「は!了解しました!」

この町に常駐しているクランの招集を、男に依頼するギルマス。

「下の受け付けにも伝言を頼む」

「分かりました」

男は転がるように部屋を出て行った。

「はぁ…なんて事だ…」

ギルマスはテーブル側の、小さい方のソファに腰を下ろし、頭を抱えて唸(うな)る。


「ん?あれ?」

カードが目を覚ます。

「なんだ?コレは?」

カードの元の身体の記憶であろうものが、突如頭の中に流れ込んでくる。


『今時、貴族だって強くなきゃ、誰も付いてこないさ』

『お前は用済みだ』

『残念だったわね』

『始めてくれ』

『料金分の仕事はするのよ。まずは、記憶を抜く、その後飛ばす』


五人分の声が聞こえる。


雑音が紛(まぎ)れる。


『……は…こ…む……ん…』

『い……こ……う………す……』

『…う………ぞ……じ………』


流れ込んできた声は、突然切れた。


息が荒い。熱い。

新鮮な空気を求めて、カードは荒々しく呼吸を繰り返す。

脂汗が流れる。顎(あご)から落ちる。


これは、デジャヴではない。追体験でもない。


異変に気付いたサエラとカイルが、カードの元へやってきた。


「カード、顔悪い」

酷い言い方のサエラ。

「顔色な!」


「どうしたカード、変なもんでも拾い食いしたか?」

酷い言い方のカイル。

「今起きたばっかなんだが!?」


「二人ともちょっと、こっち来て」

笑顔で二人を呼ぶカード。

「「?」」

二人は言われるがまま、カードの側に寄る。

ゆっくり身体を起こすカード。

「しゃがんで」

「うん」「分かった」

カードは、右手にサエラの頭、左手にカイルの頭を摑んで力を込める。


目一杯に。

万力の力で締め上げるカード。


「「痛い痛い痛い!ゴメン!離して!」」

涙目で許しを乞う二人だった。


これはカード自身の記憶だろう。

恐らく、記憶を抜かれただけではない。


飛ばす、と言っていた。何らかの方法で肉体を、何処かへと転送する魔法かなんかだろうか。


そして、飛ばされる時に別の何かが、カードの中に入ったのだ。

その何かが、“僕”だろう。


「体調がすぐれないところ悪いのだが…」

カードはサエラとカイルの頭を放す。

気を遣いつつ、カードに声を掛けるギルマス。

サエラとカイルは、カードの足元に伏して小刻みに震えている。

「えぇ、聞こえてましたよ。スタンピードですって?」

「…そうだ」

「協力しましょう。僕達は何をすれば?」

「すまないな、君達は町の防衛をお願いしたい。私達は尖山の迷宮を攻略する」

「了解しました」

「助かる」と言い、デスクの電話を取り、何処かへ連絡を取るギルマス。

直ぐに終わる気配はない。


カードは立ち上がる。

裸足である事に今更ながら気付く。

素足に床の冷たさが心地よい。


「直ぐに出発するか?」

「いや、ちょっと確認したい事が…」

「構わんよ。主の準備が出来るまで待とう」

立ち直ったカイルは、こめかみを揉みながら答える。

サエラは未だに足元に伏している。

「ありがとう」


パーティメンバーを探す所の話しではなくなってしまった。


一先ず、操術の確認をしなくてはならない。

これがうまく使えれば、デジャヴの時に皆に守ってもらう必要もなくなる筈だ。


スキル∶操術

対象一体を操る事が出来る。

事前に行動を登録する事で、自動に動くように設定出来る。


キーワード登録。

テキスト登録。


「うーん…取り敢えず…」

操術を自動にして、対象を自身に設定した。

次は、行動登録。

「テキストは難しそうだから…」

キーワード登録。

①意識を失うと同時に発動する

②魔獣・魔物・悪魔、殲滅(せんめつ)するまで攻撃

③敵意のある人物、亜人、行動不能にするまで攻撃・殺さない

④意識を取り戻したら解除する


「こんなもんかな?さて」

ブーツを履(は)き、ジャケットを羽織(はお)る。

「準備は出来たか?主」

「うん、そうだね。行こうか」

サエラがやっと起き上がってきた。

「うぅ〜…」

「やり過ぎだったら謝るけど、これからは、僕の事をいじりすぎないようにね」

二人に指を突きつけるカード。

「了解だ…」

「わかった…」

二人は言葉を絞(しぼ)り出した。


南東のダンジョンが溢れたのだから、南東から敵は来る筈だ。

「さ、行こう」

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