武闘大会に出よう
テズヴァイス公国、中央東に位置する島、ターマス。
それほど大きな島ではないが、首都サンゲイルが、五つはすっぽり入るだけの広さはある。
以前は闘技場の島として、大いに賑わっていたらしい。
◇
ターマスへ行く為には、船が必要だ。
どうすれば手に入れられるか分からない、記憶を失った青年は、ある人物を頼った。
「船の手配だな、任せろ」
そう男らしく宣言したのは、テズヴァイス公国、首都サンゲイルの冒険者ギルドのギルドマスター。深紅のパンツスーツを纏った女性だ。
そう言えば、ギルドマスターの名前を聞いてないが、今さら聞けない新人冒険者の灰髪の青年カード。
「助かります」
「お互い様だ。君には町を救って貰った。これくらい安いものだ」
「まぁ、やらかした事も考えると素直に悦べない賛辞ではありますけどね」
「全く、君は真面目だな。手配には時間が掛かる、三日後にギルドへ顔を出してくれ」
「分かりました」
◇
カード一行は、アビス対策本部のレン・マルクナスの依頼で、ターマス島の隣の島、ロドル島の扉へ向う事になった。
アビスとは、裏世界の事を言う。
異界やら魔界などと呼ばれる事もある。
こちら側と、あちら側を繋ぐ通路の様なものをアビスゲートや扉などと言う。
カードのパーティは、アビスゲートに向かったが、ダンジョン管理協会の人間に阻まれる。
現在、他のパーティが扉に入っている為、攻略は出来ないとの事だった。
攻略完了までには、一ヶ月ほど掛かるようだ。
扉の攻略は諦めて再び船を出した。
◇
カード一行は一週間をかけ、ターマス島へと降り立った。
因みに船員の手配も、ギルドマスターにしてもらっていた。
何不自由なく、行きの船旅を終えた。
「意外と大きな島なんだね」
記憶のないカードは、初めての場所に興味津々だ。
武闘大会への参加し、優勝する事が今回の旅の目標だ。
目的は優勝賞金ではなく、副賞のアイテム、《妖精の手鏡》だ。
そのアイテムは、自身の過去を見られると言う。
記憶喪失のカードには、是非とも手に入れておきたいアイテムだ。
「さて、まずは中に入ろうか?」
サンゲイル程ではないが、この町もぐるりと一周壁で囲われていた。
「おいも、参加するんかの?」
眉間にシワを寄せるブロイル。
「参加しない?」
茶髪金眼の少女、長身のスラッとした体系の少女、虎人のサエラは首を傾げる。
「ないじゃろ、弓じゃぞ?」
橙髪赤眼の青年、ハーフエルフのブロイルの現在のジョブはダークフェンサー。
三次職のダークフェンサーの得意装備は長剣だが、今は馴染んでいる精霊の弓を装備している。
「まぁ、こういう大会で、弓が勝ち上がった試しはないの」
興味なさ気に呟く、青銀髪紅眼の幼女の様な見た目のカイル。
実は彼女はフェンリルの亜種、スカイフェンリルの生き残りだ。
現在は人の姿に偽装している、年齢は82歳になる。
「そら、そうじゃろ…」
弱々しく呟くブロイルだった。
長い階段の先には、広場のように開かれていて、その先に一つの大きな門があった。
そこに、門番が一人立ちはだかっていた。
身長は軽く2mは超えていそうだ。
「こんにちは…」
一先ず門番に挨拶するカード。
「何用だ?」
野太い声を一言発するだけで、周囲を大人しくさせる威圧感がある。
「あ…この光景って…」
カードは膝から崩れ落ちた。
※追憶発動条件、門番と話す。
◆
フルグア機国、眠らない町ザガルスの入口。
時間帯は深夜。
「何故入れない?」
「先程から言っている。身分証を出せと」
門番は先程からこの台詞を繰り返している。
流石に嫌気が差してきた。
「この紹介状じゃ、ダメなのか?」
紹介状の名前の部分を、門番に見せ付ける男。
「入れられない」
「くそぅ…どうしたら?」
紹介状を握り締め、頭を抱える隠者。
「何か理由があるのか?朝昼ならば身分証なしでも入れるぞ」
「朝昼だと良くない…」
「何故?」
「…顔を見られる」
仕方なくフードを外す隠者。
「なる程」
その顔は、刃物で付けられた傷でいっぱいだった。
「この顔じゃ、町中はパニックだ。夜なら紛れられる。あそこにたどり着ければ、仕事ができる」
そう言うと隠者はフードを戻す。
隠者には、金が必要な事情があるのだろう。
しかし、ルールは曲げられない。
「仕事…か、どうだ?俺と門番してみないか?」
門番がとんでもない事を言い出した。
「え?」
兜を外す門番。
その顔を見て、思わず目を逸らす隠者。
自分の傷よりも、遥かに酷い傷だらけの顔だった。
「この仕事なら、顔は常に町の外に向いている。誰も怖がらせる事はない」
「申し出は有難いがね…この体型じゃ勤まらないんじゃないかな?」
両腕を広げ、自身の身体を披露する隠者。
「 まぁ、そうだな…筋トレは一緒にしてやれるが?」
すらっとした筋肉がほぼ付いていない身体を見て、一つ提案をする門番。
「お断りするよ」
即座に断り、首を振る隠者。
「人を守る仕事ってのは、案外、悪くないもんだぞ」
傷跡だらけの笑顔でそう言う門番。
「そら、そうだろうよ」
隠者も不器用に笑顔を作った。
他愛ない会話を長々と続けた二人。
気が付くと、既に夜は明けており、無事隠者は町に入る事が出来たのだった。
その頃には、自分の顔の傷など気にならなくなっていた。
同じ傷を持つ、同じ穴の狢。
『隠者と門番の記憶を一部解放しました』
記憶レベル13/1000
『スキルを一つ解放します』
スキル《金属化》。
身体を一部、または全身を金属化出来る。
自身の知る金属であれば、どんな金属でも選べる。
1秒毎にMP1消費。
◆
「あれ?」
目が覚めたカードは、状況を確認する。
最早慣れたものだ。
辺りが騒がしい、何やらまた、絡まれているようだ。
サエラ、カイルと対峙している男が一人。
背丈も横幅も大きな、禿頭の男が何やら息巻いている。
「てめぇら程度のランクで大会に出ようなんざ百年早ぇよ!俺様はB級だぞ!」
あからさまな、ランクマウントである。
男に話し掛けられて、恐らくサエラが自身のランクを話してしまったのだろう。
カイルならそんなミスはしないだろう。
カード達はC級冒険者だ。
冒険者になって、一月も経ってないと知ったら、この男はどのような反応をするのだろうか。
門番は黙って成り行きを見守っている。
サエラとカイルは、戦闘態勢に入っている。
ブロイルは後ろで静かに見守っているが、いつでも動けるように片手に弓を持っている。
「サエラ、カイル、下がって」
カードの言葉に従い、大人しく下がる二人。
周りに人集りが出来てしまっている。
「てめぇがこのパーティのリーダーか?」
「まぁ、そうなりますかね?」
「腑抜けた野郎だな、叩き直してやるよ!」
男が抜剣する。
「面倒くさいなぁ」
この場で男を戦闘不能に追いやるのは簡単だが、やはり、悪目立ちはしたくない。
躊躇なく、男はカードの頭目掛け剣を振り下ろす。
「金属化・スチール」
金属化のスキルは、金属の種類を決められる。
男に怪我をさせないように、カードは強すぎない金属を選んだつもりだった。
別に金属化しなくとも、カードのHPや頑丈さなら、何もしなくとも何ら問題ないのだが、少し灸をすえてやろうとしたのだ。
そう、ほんの少しだけ。
男の剣は甲高い音と共に激しく弾かれ、半ばから折れた。
「!!?」
飛んだ剣が石畳に跳ね、情けない音を鳴らす。
手が痺れ、唸りを上げる男。
「てめぇ!馬鹿にしてんのか!」
「馬鹿にしてるのは、どっちだ?」
静かに凄むカードに気圧される男。
「だ、大体冒険者なんて、ランクで見るもんだろうがよ!」
「少なくとも僕は、ランクやジョブで、人を見たり決めつけたりしない」
直ぐ様反論するカード。
「狭量な世界観じゃの」
カイルが追い討ちをする。
周りのギャラリー達がざわめき出した。
「う…、武闘大会に出るんだな?」
風向きが悪くなるのを感じ、話の方向を変える男。
「そうだな」
面倒臭そうに、頭を掻きながら答えるカード。
「ならば、その舞台で叩きのめしてやる!」
ビシッとカードを指を差す男。
「それなら問題ない。受けて立とう」
カードは、真正面から落ち着いた声で言い返す。
「…」
黙った男は、踵を返して去っていった。
「何だったんだ?」
◇
手続きをして門の中に入るカード一行。
ひしめき合う人々。
「人で溢れている…」
「凄い熱気だな」
「お、おう…」
カードとブロイルは、この雰囲気に馴染めない。
「おろおろするな、弱々しく見られるぞ」
流石のカイルは、違法闘技場を経験しているだけあって、堂々としている。
サエラの方は、元々全く何も気にしていない。
ターマス島の南西に位置する闘技場。
武舞台は五つあり、中央に一つ、それを囲むように四つの武舞台がある。
突如、大音量のアナウンスが響き渡る。
『間もなく予選を開始します!受付で配られた番号の武舞台へと移動して下さい!』
「やっとか!」
「よし!やってやる」
「さて、楽しみだねぇ」
など、周りから様々な反応が聞こえる。
集結する猛者ども。
場の雰囲気は、“予選”の一言を聞いた事で一瞬で変わった。
ピリピリと張り詰めた空気になる。
『ルール説明をします!』
予選は単純なルールだ。
各武舞台に30人程が上がり、バトルロイヤル方式で、一人が勝ち上がる。
計五人が本戦に進める。
前大会の強者の四人が、各武舞台中央でオーラを放つ。
「さて、今年はどうなるかね?」
「去年と一緒じゃね?」
「四強か」
「【力王】クオバ・シケーダ、【打王】シオ・オード、【ソルジャー】ラウダロス・ドライヴ、【皇帝剣】ルセイブ・オートヒか」
「だろうな」
「いやいや、まだ、分からんさ。意外なダークホースってのはいないと詰まらんだろ?男のロマンってやつだ?」
「違ぇねぇ」
観客席の一画に、おっさん達の低い声の笑いが響いた。




