第4話:〔マルチステージショット〕
ゴブリンこと名をターピスが見た部屋には動くもは1つも無く、誰も居なかった。
「はッ?」
「何故ッ…誰も居ないんだ?あの人数が音もなくこの部屋から出ることはできないッ!それに出口はひとつッ!俺が今いるこの扉だけだッ!」
「考えられる可能性は……テレポートしかないッ…でも誰が………。ハッ!」
「モルガンッ!?やつの仕業なのかッ!?」
一方サクマ達は…
「ここは……どこだ?」
全員が立ち上がり辺りを見渡す。光源がある訳でも無いのに妙に明るい部屋で壁は石でできている。恐らく城内。しかし扉は見当たらない。そして先んじて部屋を探索していた狼人は何かを見つける。
「この紋章は…コザック隊率いる王国、パーレルの紋章ッ!」
その言葉に多数のヒトは狼狽える。
”嘘っ!そんなぁぁ”
”見つかっちゃったの?”
この部屋にいる半分近くのヒト達は皆パーレルと言う国の出身らしい。
「クソッ!はやくこの部屋を出なければ!」
狼人は再び部屋中を動き回った。机の裏や壁の隙間。何かギミックが無いかと探し回る。
しかし…
「何も…無い…」
焦りと怒りを抑えつつ狼人は椅子に座る。
「あぁ…せっかく命賭けて逃げてきたと言うのにッ……どうして……こうなるんだッ…」
〔……。それぞれ皆にも事情は有るもんだな。〕
「すまないがアキ…こうなった原因はどうしても…俺は…お前のせいとしか思えない。」
「突然現れて、見知らぬ格好に見知らぬスキル。属性を知らなければ、いきなりここにテレポートされた…」
「例えお前の仕業じゃあ無いとしても、俺はお前が原因だと疑う…。」
「嗚呼。女神様。どうか。この身をお救い下さい。」
やっぱり皆は女神の事を信じきってるね。
〔ああ。この世界はあのノレシファーが創造した訳だからな。全てを生み出した存在は敬わずにはいられないだろう…〕
………。
この場に沈黙が流れる。そんな時、
コロコロ…コロコロ…
あの音が鳴り出した。
「またこの音か?」
コロコロ…コロコロ…
この音と同時に部屋の中央に突如、屈んだ人が現れた!
「…ッ!?お前は!」
その男はゆっくりと立ち上がる。
「んんーん…半分のヒトは初めまして…もう半分は…」
「久しぶり。」
「私は……パーレル直属哨戒軍コザック隊第一団長ドラグノフ バレル……だ」
「パーレルから逃げ出した臆病者を始末したい所だがぁ……何やら見知らぬ格好をしたヤツがイル……。私はソイツがとてもとても気になる。」
「噂だが…ハンドセルにソイツと同じ格好をした大魔王の魂を持つ転生者が出たと言う話を聴いたぁ…」
〔なッ!?〕
「話によると女神様から罰を受け、力を消された後、魔物が住まう森に捨てられたと言う……」
〔おいおいおいおい…まずいぞこれは。〕
「この話が本当だとしたらぁぁ…とぉんでもない事だなぁぁ……!」
「さて。話を変え…何故キミ達がここに居るかだ…。キミ達の半分は我が王国パーレルから逃げ出した臆病者。長年追っていたがまさかあんな所に隠れていたとはなぁぁ……認識阻害のスキルがかけられていてわからなかったヨ……」
「それともう半分もどうやら何処かの国からの逃亡者のようだな……まぁ良い。今は何故ここに居るかの話だったなぁ。答えは実に簡単。キミ達を殺す為だ。」
「逃亡者は生かしてはいけない。それが戦時中ならもってのほかだ。これが我が王国のルゥール。」
狼人が反論しようとするが…
「そっちがその気ならこっちだって__」
ドラグノフは遮る。
「さて……さてさてさてさて。時間がもったいなイ。キミ達の返事を聴いてる暇は無いんだよぉ。」
「………はぁ。」
右手の親指を上に立て人差し指中指は相手に向け伸ばす。薬指小指は曲げる。こうして銃の形を作る。これを以降、銃手と呼ぶ。そして指の銃口を狼人に向ける。
「私が良くやるこれは、あくまでスイッチだ…精神的スイッチ。撃ってやるという意思を固めるためのスイッチ。」
「別にこのポーズをしなくとも放てるが…どぉぉも締まらないんだよぉ、気持ちが…」
「………。何が言いたい?」
「このポーズを向けた者は必ず殺すと言う事だ。」
「まぁ今すぐにでは無いけどね。」
そう言い、指先の照準をサクマに向ける。
〔なにィ!〕
サクマは直ぐさま人差し指を構える。
「ほぉ…私と同じタイプのスキルか?やはり、とてもとても気になる…!」
「キミがぁ……本当に魔王の転生者だとしたら…」
「んんーん……興奮…するなぁ…もちろん性的な意味では無く…身が!心が!高まると言う意味でッ!」
「名前……確か……アキと言ったな?」
「私は今からアキと闘う。キミ達は邪魔しないようにィ…」
「そんなの関係ない!俺が止め__」
狼人が前に出ようとした時、どこからともなく足元の床にとんがった鉛玉がめり込んだ。
「クッ!」
「キミには見えなかったのかぁ?壁の穴。そこからいつでもキミ達を撃ち殺せるぅ…下手に反撃されたら後々面倒だからね。事前に準備させてたんだぁ…」
「さてさて……。場は整った。闘いを始めよう。」
その言葉と共にドラグノフの指先から鉛玉が現れサクマに向かって飛んでいく。
それにサクマは……
「む…!」
上半身をずらし避けた。
「まさか弾丸を避けるとは……反射神経が良いのかぁ…」
放たれた弾丸は壁に当たり爆発するが壁にはヒビが入らない。サクマは指先を相手に向け、エネルギーを溜める。
「スタープローブッ」
指先から放たれたエネルギーはドラグノフの額目掛け突き進んでいく。
しかし、ドラグノフは銃手の人差し指と中指の根元。つまり開かれている手のひら部分でそのエネルギーを受ける。
額に持っていった手のひらにエネルギーが吸収されていく。
〔なんとッ!?〕
〔やはり人間が相手となると簡単にはいかないな…〕
「さて。キミのお陰で装填が完了したぁ。今度は私の番だ。」
再び指の銃口をサクマに向ける。
「バレットボア。」
その言葉と共に弾丸が発射される。今回の弾丸はさっきよりも早い。だがサクマはそれを避けたッ。まるで動きがわかっているかのように。
しかしドラグノフはただそれを見ている訳ではない。弾丸を放った時、既に動いていた。サクマが弾丸に集中力を割いてる間、身体能力向上スキルをかけ、サクマ近くまでに接近していた。
〔サクマ!すぐ側までに来ているぞッ!〕
カレンの言葉に懐からナイフを取り出す。
「ほぉ。私に白兵戦を持ち込むとは。」
右手で握ったナイフを下から突き上げる。しかしドラグノフそれを簡単に避ける。背後にまわりサクマの背中を前蹴りで蹴飛ばした。
よろけるも受身を取りドラグノフの方を片膝をついて向くも既に銃手を構えていた。
「バレットボア」
放たれた弾丸にサクマは咄嗟にナイフを捨てアボートスラストを打ち出す。見えない壁に弾丸はスピードを落とすも、溜めが甘かったのかそれでも勢いは強いまま。とは言え弾道がズレたお陰でサクマには当たらなかった。
「ふむ…リカバリーはできているが動き一つ一つが甘い。力を失ってるとはいえ魔王の動きとはとてもとても思えないなぁ…」
「だが先程使ったスタープローブとやら、あれはどおぉ考えても無属性…この世に存在しない物。そんなものを使えるのなんて魔王としか言えない。んんーん…不思議だぁ…」
「私的な理由でますます気になってきた。国の命令は二の次だぁ…。」
再び銃手を構えサクマに向ける。そして放った。
サクマは右に転がり回避をした……
かのように思われていた矢先、サクマの右腹に銃弾が貫通していた。
「えっ?」
弾丸は貫通し後ろの壁にぶつかっていた。穴の空いた腹からは新鮮な血液がポタ…ポタと垂れ落ちる。
「アキ…キミの観察力は凄まじい。私はバレットボアを撃つ時、トリガーを引くように親指を曲げてから撃つ。キミはその動きを見て事前に弾道を予測し避けていたぁ…」
「だけども…今のはハッタリだ…キミが気づいていたのを私は気づいていた。だからフェイトをしたってコト。」
「さてさて。ここからどうする?アキィィ。」
ゆっくりと立ち上がりサクマは震える手で来い来いと挑発する。
「ここで挑発するか……おもしろい。」
自身に再び身体能力向上スキルをかけ走り出す。
サクマはその場で左手を軽く握り、圧力を溜め込む。そして…
「アボートスラストッ」
すぐ側まで来ていたドラグノフに対して空気の壁をぶつける。
「溜め込んだ力がこれ程とはッ!?」
身体能力を上げようが突如として繰り出される見えない壁には対処しようも無く…後ろへとよろけてしまう。その隙を逃さずサクマはロケットショットの構えをとる。
右足を引き、拳を握り、エネルギーを溜め、腰を落とす。
「ロケットショットッ!」
拳は胸目掛け突き進んでいく。それにドラグノフは避けず。真正面で迎え入れる形に立つ。迫り来る拳に怯むことなく、両手でそれを挟み込む。
「キミのそれは純粋だぁ。不純物のない純粋なエネルギィィ。だからなんにでもなれる。」
「もちろん。私の武器にもね。」
「ドレイン・バレル」
拳のエネルギーがドラグノフにより吸収されていく。
〔まずいぞサクマ!どんどんMPが吸われていく!早くその手を引っ込めろ!〕
クッ!無理だ!右手どころか左手も足も動かない!体を固定されているようだ!
〔固定だと!?〕
「んんーん。すごい…キミのエネルギーは凄まじい!」
〔ハッ…!そうだサクマ!固定だ!固定を利用しろ!〕
はぁ!?
〔オマエの拳は今固定されている!ならば発射の為の土台には十分じゃあないか?〕
…。あ!
〔わかったな?そういう事だ。アボートスラストの容量で射出し、スタープローブのように突き進む〕
〔使い終わった燃料は切り捨てろ。〕
~ニュースキル。『マルチステージ・ショット』~
「第2エンジン…点火ッ…!」
固定されたサクマの拳からエネルギーが射出される。
ズゾゾゾッ…。ゆっくりだが確実に着々と放たれたエネルギーはドラグノフの胸目掛け突き進む!
しかしドラグノフ動けない。ドレインバレルの欠点には自身も身動きを封じられる事。それ故動けない。
「ムゥッ!!」
ドレインバレルを解除した時には遅い。射出されたエネルギーは既に、胸にめり込んでいた。
「ぐおおぉッッ!私はパーレル直属哨戒軍コザック隊第一団長…ドラグノフ バレルだッ!この名は伊達じゃあないッ!」
「サーマルケージ!」
両手を上げ胸に近付ける。両手のひらから光が歪んで見えるのか、透明な薄い膜が胸とエネルギーの隙間にヒラリと入り込んでいく。
すると真っ直ぐ直進していたエネルギーは、進路を変えだし右側に進んでいく。それと反対側にドラグノフは身体をずらしエネルギーから離れる。
「キミの攻撃…1度放ったらどうやら進路を変えられないようだ。迷いなく真っ直ぐ進むのは良い事ではあるが…少しは景色を見た方がヨイ。」
〔クソッ!手数が違いすぎる。〕
「まぁ…少しは焦ったよ…隠し球を持っていたとは驚きだ。」
話を続けながら破れた服を脱ぐ。
「ダガ。私はそう簡単に殺られる程弱くないんだ…」
そして露になる鍛え上げられた筋肉。その割には細い身体。引き締まっている。
「見てくれ。私の筋肉を。この世界ではスキルがあるからこんなに鍛えてもたいした意味は無いんだぁ…どんなマッチョであっても補助スキルによるバフをかけられたガリガリの人間に負けてしまう。」
「それでも私は鍛え続ける。それが私の美学と言うヤツだ。」
〔聞けば聴くほど、何を考えてるのか分からなくなるな。〕
「さてさてと。第2ラウンドの始まりだ。」
ドラグノフは拳を強く握りしめ顎の前に持っていく。右足を肩幅に広げ後ろに下げる。その踵を上げつま先は相手に向ける。
〔まさかアイツ肉弾戦を仕掛ける気かッ!?これは分が悪いぞ!オマエは非力なうえ、重症を負っているッ〕
〔一定の距離を保ってスタープローブを放てば問題ないッ〕
………。
〔サクマ?〕
サクマも同じく拳を強く握りしめ顎の前に持っていく。右足を肩幅に広げ後ろに下げる。その踵を上げつま先は相手に向ける。
〔サクマ!何を考えてる!?わざわざオマエも同じ事をする必要なんて無いッ!〕
共感したんだ。あの人に。
〔は?〕
例え意味が無くても…無謀だとしても…やると決めた事をやり通す。その意志にッ!
それにボクは男だッ!情けなくても、ビビりでも1人の男ッ!
ずっと…憧れてたんだっ__!
〔……。そうか…成長したなサクマ。なら…〕
〔レッスン2だ。今のオマエは程よく強欲さが身についてる。その強欲さが傲慢に変わらないうちに、成長させるんだ。〕
〔アイツが言った言葉を思い出せ。景色を見ろと…。そうアイツは言った。〕
……つまり?
〔レッスン2は『見渡せ』……だ。〕
〔オマエの前進力は凄まじい。絶対に進んでやると言う意志を感じる。だがそれはあまりにも直進過ぎる。だから周りの景色を全て見ろ!〕
〔何も…見落とすな!〕
景色を……見る?
周りを見渡せばこの闘いを見守るヒト達。壁の穴から覗く者。コチラを見つめるドラグノフ。そして、
さっきボクが放ったエネルギー。
進路を見失ったのかフワフワと浮かんでいた。
ハッ!閃いたッ!
あれを…
利用するッ!
「覚悟を決めたようだな。」
ドラグノフはステップで近付き軽めのジャブを2回放つ。
ひとつは避けもうひとつは肘でいなす。
クッ…
軽めのジャブのはずなのに当たった肘が痛む。
サクマはドラグノフから視線を離さずエネルギーへとゆっくり近づく。
再びドラグノフの攻撃。今度は左半身を捻り勢いを付け拳を放つ。サクマはそれを右手でパシッと受け流す。すかさずドラグノフの右フック。
大振りだ。よけれるッ。
怯む事なく最小限の動きで拳をさける。次いで左足に重心を置き、右の膝蹴り。これは避けられず食らってしまう。
「ウグッッ……」
耐えろ!耐えろ耐えろ!
少し後ずさり歯を食いしばり痛みと吐き気に耐える。
しかしドラグノフ、攻撃を辞める気は無い。上げた右脚を前に置き…グルリと反時計回りに回転し、後ろ蹴りを打つ。
サクマは迫り来る足を右手で上を左手で下をガッシリと掴み、腹に当たらないように抑える。だが勢いは収まらず吹き飛ばされてしまう。
しかし…しかししかし!飛ばされたことにより…エネルギーの元まで辿り着いたッ!
「む?それは…エネルギィィ?」
「はぁ…はぁ…そうだ……真っ直ぐしか進めないボクが放ったエネルギー。」
「この時はまだ気付けなかった、ただ真っ直ぐ進むだけじゃあいけない……軌道に乗るんだ…軌道にさえ乗れれば効率よくさらに未来へと行けるッ!」
「前世のボクはそれに気付けなかった。」
「だけども今のボクは違う。カレン…そして!アナタのお陰で気付けたッ!」
「ボクはもう…進み方を間違えないッッ」
人差し指をゆっくりと、漂うエネルギーに近付ける。
チョン…と。指が触れたその刹那。エネルギーが指を始点として身体中に行き渡り、全身にエネルギーがまとわりつく。
その名も
~ニュースキル。『オービタル・ドライブ』~
「第3エンジン…点火だッ!」
ドラグノフは探りのジャブを放つ。サクマは一瞬の拳をガッシリと掴み、身体ごと引き寄せる。
「ナヌッ!」
掴んだ手を離し素早く拳を握る。身に纏うエネルギーの軌道に合わせ拳をぶっぱなす。みぞおちに拳をめり込ませ押し通す。
「ぐうぅっ…!」
ドラグノフは怯む。それはサクマも同じだった。
「はぁッ…はぁッ……」
エネルギーに身体が追いついていないのか、呼吸を荒らげる。
〔もって後30秒だな。それまでに決着をつけろ!〕
床を踏みしめ走り出す。体力を消耗するも自然と身体が軌道に乗ってくれる。身体の流れに合わせ動いてくれる。
ドラグノフは構えを直し、受けの姿勢を取る。サクマは大ぶりのフックを放つ。当然それを受け止められるが…
押し切る。
あの筋肉、体格を持ったドラグノフが後ろに押されている。
「力が増しているのかぁッ?」
ジャンプで後ろに下がり距離をとり、首を回し、手首を捻る。しかしサクマ。相手に詰め寄り拳を下から放つ、アッパーを繰り出す。それに上半身を反り避ける。そのまま上がった腕を掴む。身動きが取れないようにガッシリと。だがサクマはもう片方の手でドラグノフの腕を握り返す。
そのまま後ろに巴投げの要領で投げ飛ばす。受け身を取り素早く立ち上がるが、既に遅い。
サクマは既に右足を引き、拳を握り、エネルギーを溜め、腰を落としていた。
「ロケットショットオォォッ!」
ドラグノフはすぐに拳を握り、パンチを繰り出す。
そして激突。拳と拳。
しかし、サクマは身体に纏うエネルギー全てを拳に集めていた。それ故サクマの拳は突き進む。
「ウオオオォォッッ!!」
「グヌゥッ!」
ドラグノフ押し負ける。
放たれたサクマのエネルギーにドラグノフはぶっ飛ばされた。
ゴトン…!
ぶっ飛ばされたドラグノフが落ちた音。そしてサクマは力尽き倒れる音。2つの音が重なりこの部屋に響く。
「はぁ…はぁ…キミの…勝ちだ…!」
"団長!"
壁の中から声が聴こえる。
「んんーん。久しぶりだ…こんなに楽しいと思ったのは…」
倒れたままドラグノフは語る。
「もとより…軍人なんかやりたくなかったんだぁ…でも誰かと闘えるのならいいかなと思った。だけど実際闘って最初に感じたのは、」
「楽しくない。それどころか憎しみ、醜ささえ感じた。同じ闘いのはずなのに…あんなにも違うとは。」
「……。…?」
「アキ?」
「寝ているのか…」
ドラグノフは立ち上がり、周りを見渡した。
「そこのぉ…エルフの子…アキを治療してやってくれぇ…」
「ム?」
ドラグノフは周りの視線に気付く。狼人含め全員がドラグノフを警戒の目で見ていた。
「安心しろぉ…キミ達はもう殺さない…上に報告はしないし、奇襲もしない。」
全員が驚く。
「アキに感謝するんだな…軍人になって私に失っていた物を取り戻させてくれた。あとここで聞いた魔王がどうのこうのの話は忘れろ。アキは魔王なんかじゃあ無い。」
「出口はあのパーレルの紋章の下に作っておく。そこから出れば元の部屋に戻れる。」
「あ…それと徴収の件だが長の男はフェイカンに渡してたらしい。ソイツを見つけ次第私らが回収する。」
「それじゃあ…また今度。」
そう言葉を残し、ドラグノフは片膝ついてしゃがむ。するとコロコロと音が鳴り出し消えていく。
サクマが目を覚ますと、例の秘密基地の部屋だった。
「あ!アキさんが起きました!」
看病をしてくれていたリーウが叫ぶ。その言葉に狼人がコチラに来る。
「すまなかったなアキ。色々と言ってしまって。」
「まぁ怪しさ満点でしたから、疑ってもしょうがないですよ。」
「そうか……」
次いでゼプトがやって来る。
「助かったよ…アキ君。あんたのお陰で死なずに済んだ。」
「たっぷりと御礼させてくれ。」
ここでターピスが声をあげる。
「とは言っても明日にはモルガンが来るかもしれないんだぞ。」
その声にゼプトはこう答える。
「そこのところは安心してくれ…御礼として最大限の補助をする。」
〔補助か…〕
「その説明の前にアキ君の目的はなんだい?」
「ボク……倒したい相手が居るんです。けどソイツはとても…とてもとても強い。だから色んな所を冒険して強くなりたいんです。」
「そうか…ならそうだなぁ…」
「次はワンターンに行くといい。ここから北の方角にある国だ。だがただ行くだけじゃあ駄目だ。戦時中だからな。そう簡単に入れてはくれない。」
「そこでだ。あと数時間後、つまり日が昇る前にワンターンへと向かう輸送馬車がここを通る。そこの荷物に紛れるんだ。」
「どうやって?」
「大丈夫だ。そこの操縦者はワシの知り合いだ。話をつけておく。それと一応のライセンスも渡しておく。これはその交易商団の登録証だ。後でアンタの名前に上書きしておく。もし何かあった時はこれを見せな。大抵は何とかなる。」
〔おお。〕
「ありがとうございます。でもどうしてワンターンに行くと良いんです?」
「あそこはここと同じように世間からのはぐれ者がわんさかおるんだが、その中にアストロ・フーと言う人物がおる。ソイツはアンタが使う無属性スキルについて研究していたもんでな…ソイツに会えばさらなる無属性スキルを獲得できるかもしれない………と言うわけだ。」
「へぇ〜」
〔なるほど…悪くないな。今オマエが持ってるスキルはどーも使いずらい物ばっかだからな。これを機に新たなスキルを手に入れよう。〕
「わかったようなら…早速準備をしよう。」
ゼプトは木箱を漁り出す。
「えーと……ある程度の食料…そして通貨。」
「これをポーチに入れてと……。ほら受け取ってくれ。」
とある模様付きのポーチを手渡す。
「このポーチはワシが作ったものでな…収納容量が高いだけでなく。射出機能がついているんだ。」
〔はぁ?〕
「少し見ておくれ。」
ゼプトは腰に装着し巾着口を前に向ける。そしてポーチをぐにっと押すと中から通貨が飛び出してきた。
〔おお?〕
「凄いだろう?」
「は…はい……。」
腰から外しサクマへと渡す。受け取っててすぐ、腰へと装着しナイフやらをしまい込む。
「収納する時配置には気おつけな。ちょうど真ん中辺りに置くと射出ができるんだ。」
「はい。」
………。
……。
…。
そこから数時間後、色んな話を聞きつつサクマは飯を食い、服を新調してもらい万全の状態で輸送車が来るのを待っていた。
ガラガラガラガラ……
「お!来たぞぉ!アキぃ!」
ゼプトはサクマを呼んでから輸送車の操縦士に話をつけに行く。その時後ろからターピスが声をかけてきた。
「アキ。もしモルガンと遭遇してしまったら、とりあえず容姿を褒めろ。」
「え?」
「アイツは高身長でナルシストで傲慢で天邪鬼な女だ。容姿を褒め、話に肯定し、いい気にさせたら直ぐに逃げる…。それと弱いフリも欠かすな。アイツは弱いヤツに興味はない。正直、それしか対抗手段はない。」
「わ…わかりました。」
ちょうど良く話し終わったゼプトがサクマのもとにやって来た。
「良しアキ。乗っても大丈夫だ。ただ荷物には気おつけてな。それとライセンスだ。向こうでアンタは交易商団の一員と言うになってる。」
「はい。ありがとうございます。」
ライセンスを受け取り荷台の扉を開け中に入る。暗くギチギチに詰まってる荷物の中から座れそうな場所を探す。
お。ちょうど良さそうなスペースがあるじゃん。
「よいしょっ…と。」
「ん?柔らかいクッションが敷いてある?」
それに操縦士が声をあげる。
「クッション?あったっけなぁそんなの…まぁそれなら使っても大丈夫だ。」
「良し。じゃあ閉めるぞ。」
バタリと音を立て扉が閉められる。壁越しに声が聴こえる。
「出発するぞぉ!」
その声と共に輸送車が動き出す。
ガラガラガラガラ……
ふぅ…なんやかんやあったけどスキルを2つも獲得出来たね。
〔ああ。マルチステージショットにオービタルドライブ。後者を発動させるには前者のスキルを経由しないといけなそうだがとても強力なスキルだ。使いこなせるように鍛えないといけないな。〕
そうだね。
〔ここからワンターンに着くまで数時間以上かかる。その間眠っておけ。〕
わかっ__
その時。
「あーー!もう限界!」
突如座っているクッションが声をあげモゾモゾと動き出した。
〔なんだ!〕
サクマは立ち上がりクッションを見つめるとボンッ…と音と煙をあげる。煙が晴れるとなんとそこにはタヌキのような耳と尻尾を持った獣人が居た。見た感じミーナよりも幼い。性別は分からない。
「な…ナニ!?誰?」
こっこの子質量保存の法則を完全に無視してるっ!
〔今に始まった事では無いだろ。〕
「それはこっちのセリフー!いきなり入ってきたと思ったらぼくの上に座ってー!」
「せめて座るんだったら、座ってもいい?って…声かけてよねー」
「は?え?え…えと…座っても良い?」
「良いよー!……じゃなくてー…おにーさんは誰なのー?」
〔なんだコイツ。〕
「サク_じゃなかった…アキ…です…」
「アキって言うの?ぼくはね、ポロンって言うの。」
「なんでポロンはここに居るの?」
「ぼくはねー。ワンターンに行かないといけないのー」
「どうして?」
「ぼくたちの、一族が代々受け継いできたイデア・チャートがワンターンの兵隊さんに盗まれちゃったのー」
「このままだとー。悪いことに使われちゃうから早く取り戻しにいかないとだめなのー。」
〔良く喋るヤツだな。〕
「それでおにーさんはナニしに行くの?」
「ボクは人物を探しに。」
「だれー?」
「アストロ・フー。」
「え!」
〔ム?もしかして知っているのか?〕
「カッコイイ名前だねー」
「そうだね。」
〔…。〕
「てか…そろそろ立ちっぱなの疲れたから座りたいんだけど……」
「えー?ここ1人分のスペースしかないよー?」
「じゃあ…クッションに戻ってもらって…」
「ええー。やだー……あ!そうだおにーさんの上にぼくがのるー!それなら2人座れるよー」
「…わかったよ…」
サクマが座りその上にポロンが乗っかる。
「おにーさん大きいねっ」
「そう?」
「そう!」
「それじゃあボクは眠るね。」
「えー!お話ししようよー」
「しょうがないなぁ」
この時の2人はまだ気づいていなかった。脅威がすぐ側まで迫ってきていると言う事に。
続く-




