第3話:〔アボートスラスト〕
地図をもらい忘れてしまった。
〔どうするんだ?戻ろうにも戻れないぞ。〕
まぁ道なりに歩くかな。この道ある程度は舗装されているしこのまま歩けばどこかの村には着きそうだよ。
〔そうだな。その間に自分のステータスでも確認しておけ。〕
うん。
「ステータスオープン」
ふむふむ。レベルは19か。思っていたよりは上がってるね。
〔最初に倒したフェイカン。そして何体も居た蛇型の魔物。アイツらはヤケに強かったしおそらく下級の魔物ではなかったのだろう。〕
スキルは…ロケットショットとスタープローブの2つだけか…
両方ともデメリットがあるからどうも使いづらいんだよな。
〔この世界には補助スキルもあるんだ。技を使えなくても自身を強化して殴る事もできる。〕
まぁ…取得方法が分からないんだけどね。
〔恐らくだが…それに関した行動をすると取得出来るんじゃないか?〕
どゆこと?
〔例えばオマエのスタープローブ。あれはそのスキルを発動させる為の条件……指先に意識を集中させる事だな。それを満たしていたから取得できた。〕
〔ロケットショットもそうだオマエが前へと突き進むと決意を固めたから使えるようになった。〕
……。んー……なんだか少しばかり理論がおかしい気がするけど確かに有り得そうだね。なんせここは異世界。何が起こるか分からない世界。
〔ああ。試しに、モンスターを狩ってレベル上げをしつつ技を習得しよう。〕
そうだね。
サクマは森へと入り込む。そこは妙に薄暗く気味が悪い森だった。
〔サクマ。この辺に出てくるモンスターはスライム、ゴブリン、シャドウウルフ…等だ。まぁ油断しなければ負ける事は無いが気は抜くな。〕
いつでも対応できるように左人差し指にエネルギーを溜める。周りを見渡しながらモンスターを探す。
ある程度の開けた場所に来た時、カレンが何かを見つける。
〔サクマ!右方向黄色い華の近く!ゴブリンが潜んでいるぞ!〕
了解!
左腕を右手で支え、狙いを定めてエネルギーを放つ。
「スタープローブ!」
しかし
〔避けたッ!〕
ゴブリンは素早く木の上に飛び乗った。
〔くるぞ!サクマ!〕
ゴブリンはナイフを構え飛びかかってくる。
「スタープローブ!」
次いで中指でエネルギーを放つがナイフで流されてしまう。
〔なんだ!?避けるでも受けるでも無く。流したぞ!エネルギーを!〕
ナイフを振り上げ切りつけてくる。
「くっ!」
直ぐさまに後ろに下がり避ける。ゴブリンはその場に着地してサクマを睨みつける。
〔コイツ…ただのゴブリンじゃあねぇ…!〕
……もしかしてハイゴブリンとかいうヤツ?
〔いや…ハイゴブリンはデカイ角2本があるはず。コイツにはその角がない!普通のゴブリンだ。見た目はな。〕
じゃあ一体なんなんだよ。
〔分からないが、あの動きはとても野生で会得できるものじゃあない!誰かに教え込まれたとしか……〕
…む!来た!
ゴブリンは姿勢を低くし走るが故に辺り一面の草に隠れ、目視がしにくい。
〔草の流れ!そして音を感じろ!〕
サクマは下がりながら草の流れを見張る。
「ここだ!スタープローブ!」
しかし当たらず。
ゴブリンが迫り、ナイフで右足を切りつけられた。痛みに一瞬怯むが背後を取られるのはまずいと判断し前方へと転がりつつゴブリンがいるはずの後方に身体を向ける。
正面!右、左、上、下!確認するがどこにも居ない。
隠れたか?
その時。
ザシュッ……後ろから左足をナイフで切られてしまう。
「姿勢がッ」
両足を切られたサクマは、立てずに地面へ倒れ込む。
〔どのくらい動かせる!?〕
む…無理だ、動かそうとすると物凄く痛い!
〔転がった隙に後ろに回り込んだとは思えない……いくら素早いとは言えな…〕
やッやばいよカレン!
痛みのせいで集中できない!スタープローブが使えない!
〔くっ!どうしたものか……いつ再び襲ってくるか分からないしサクマも技を使えない。〕
その時ふとサクマは見つける。
カレン…これってミーナの父親が持ってた薬草じゃない?
名も無さそうな雑草に紛れ幾つか目立つ草が生えていた。
〔む!ワンチャンあるぞ!少し取って確認しろ!〕
腕を伸ばし薬草をむしり取ると、説明画面の様なものが出てくる。
~エコー草。持続回復アイテム。そのまま食しても回復効果が見られるが、効率が悪い。~
〔おぉ!これなら何とかなるかもしれない!そのまま口に放り投げろ!〕
え!これを!?そのまま!?
〔バカか!?躊躇ってる場合か?〕
わかったよ…
食べやすいように薬草を握りつぶし口の中へ入れる。なるべく舌に触れず噛むがそれでも苦味が口の中に広がる。
ゴクリ………はぁ…なんだか足が癒されてる気がする。
〔良し!動けるようになるまでゴブリンの攻撃を耐え抜け!〕
そんな事言われてもどうするんだよ!両足が使える状態でもかなりの力の差がある!
〔何かおかしいと思わないか?〕
え?
〔あのゴブリン。見た目は普通の癖にやたらと強い……なのに、オマエの背後にまわった時、急所は狙わず足を狙った。〕
〔……ただオマエを殺すだけなら他を狙うはずだ………〕
つまり……
〔ああ。他に狙いがある。単に生け捕りにするだけかもしれないが…恐らく、オマエを試している。〕
〔生け捕りなら薬草を食わせる時間は与えないからな。〕
何故ゴブリンが?
〔俺の発言を思い出せ……〕
あ!そうえば…誰かに教え込まれた……そうキミは言っていたッ!
〔ああ!その誰かは何故!サクマを試しているのか分からないが…これはチャンスだ!サクマ!〕
わかった!
力を振り絞り何とか立ち上がったと同時に、前方の木影からゴブリンが飛び出してきた。
〔来るぞ!〕
「ふぅ………スター……プローブ!」
エネルギーを放つ。しかし弾かれてしまう。ゴブリンは高く飛び、胸目掛けナイフを突き刺してくる。サクマは身体を横にし、左へと避ける。
そのままゴブリンは地面に着地するかのように思われたが、もうひとつの手に握っていた石ころをサクマ目掛け投げつけてきた。
右目に直撃。サクマは右目を抑えながら呻く。それを待っていかのように、右の死角からゴブリンが突撃してくる。
すぐさま右を向くが既に遅い。ゴブリンの拳は頬にめり込んでいた。
顔面へのパンチは重く、顔の動きにつられ身体全体も動いて飛ばされてしまう。
「ぁぁッ……ぅぅ!」
〔サクマ!〕
「はぁ……はぁ……」
近くの木にもたれ掛かり、呼吸を整える。
「はぁ…………はぁ……はぁ…はぁ」
サクマは考える。動きが素早いだけでなく、手数も多いゴブリンをどうするかと。
カレン…あのゴブリンって良く、真正面から飛んで突き刺すように来るよね…
〔そうだな。ゴブリンの身体は身軽で小さい。仮に掴もうとしてもナイフで切られてしまう。これは相手からしたら厄介この上ない。〕
だけど空中で軌道を変えることはできない…!
〔ああ…生身の肉体にブースターなんて物は着いてないから……〕
だから…吹かしてやるんだよ。ブースターで…!
〔…ほぅ…〕
ボクのロケットショット…溜めが甘かったりすると威力は対して無くて、押し出す力だけが強いでしょ?だからこれを利用するッ
サクマは右手を隙間が生まれないようにしつつも軽く握る。そして拳の中にエネルギーを溜め込む。
~ニュースキル。『アボート・スラスト』~
いける!
丁度タイミング良くゴブリンが突撃して来た。相手に勘づかれないようにスタープローブを放つ。
当然エネルギーは弾かれる。そしてゴブリンは飛び上がる。だがさっきまでとは違う。
これは本物の殺意。遊びは終わりだと言わんばかりの剣幕でナイフを構える。
サクマは落ち着き、タイミングを見図る。
今!
サクマは右に避けた同時に拳を構える。それに合わすようにゴブリンはナイフを投げつけて来た。
拳を放つと同時に手を開く。
「アボートスラスト!」
ブォォンと開いた手のひらから目に見えない圧力の壁が空気を押し出していく。ナイフ、そしてゴブリンはその見えない壁にぶつかり無防備にぶっ飛ばされる。
〔決めろ!サクマ!〕
「ロケットぉ…」
右足を引き、拳を握り、エネルギーを溜め、腰を落とす。
「ショッ__!」
〔なにィィ!〕
〔ゴブリンがッ!〕
「居ないぃッ!」
そこに居るはずのゴブリンがどこにも見当たらない。ナイフだけがその場に落っこちている。
ぶっ飛ばし過ぎたか!?いやそんな事は無い!なら逃げられた?だとしても落下までには時間がかかッ__
グサッ
は?
横腹を
刺されてしまった。
左を見るとそこにはナイフを持ったゴブリンがいた。
しかし目の前にはナイフはある。
ゴブリンは…
最初から……
2体居たッッ!
〔サクマ!ロケットショットを地面に放て!〕
〔はやく!〕
言われるがままに地面へと拳を放つ。
すると地面の土砂や枯れ葉が吹き飛び、粉塵爆発に近い衝撃が広がり、ゴブリンは目を瞑る。
〔サクマこの隙に下がれ!〕
腹に刺さったナイフを手で抑え、ゴブリンから離れる。
「はぁッ……はぁッ……」
ある程度離れた場所で木にもたれかかる。
あの時……ボクが転がって後方を確認した時後ろから切られたのも、さっきのゴブリンが居なくなり横腹を刺されたのも……2体居たからだ!
吹っ飛んだゴブリンをもう一体のゴブリンが助け出し、ボクが狼狽えてる間に刺したッ!
………。
クソッ!
………。
サクマは横腹を見つめる。
〔サクマ。この世界では刺さったナイフは抜かなければならない。〕
わかってるよ。
……でも……怖い……怖いんだよッ!!
〔大丈夫だ。今のオマエなら十分にやれるさ。さっき足を切られても耐えていただろう?〕
〔少しづつだがオマエの心に勇気が実ってきている!〕
はぁッ………はぁッ……
やる……やってやる!
ゆっくりとナイフを握る。
そして慎重にそのナイフを抜き出す。
「ふぅッ…ふぅッ…!」
………
「ウゥッ!……ぅぁッ!」
………
「ああぁぁぁ!!」
ナイフを抜き出す事に成功したがまだ終わった訳ではない。止血をしなければならない。
〔サクマ。オマエの服で止血しろ。〕
取り出したナイフで服を切り取る。
このナイフ……よく手に馴染むし、切れ味も良好だ……
そして切り取った服を繋ぎ、傷口を縛り上げる。
「ぐぅッ!」
歯を食いしばりながら結ぶ。
〔薬草を食っときたいところだが生憎その薬草はあのゴブリンがいる所だ。まずは倒さないとな。〕
ナイフを右手でギュッと握り、ゴブリンがいる方向を見る。
………
良し…まだ居る。
見た先には、辺りをキョロキョロしているゴブリンが2体。
〔覚悟を決めたようだな。〕
ああ。
ザッと音を立て左足を前に出す。それに気付いた2体のゴブリンはナイフを構え、走り出す。
サクマはナイフを握る右腕を支えに左手でスタープローブを放つ。
ゴブリンは、またかと呆れるかのようにナイフで弾こうとする。
その隙に、
サクマは右足をズサッと前に出し、
右手のナイフの刃先を相手に向け、空へと投げ上げる。
左手を隙間が生まれないようにしつつも軽く握り…残った全エネルギーを溜めるッ
「アボート……」
そして顔辺りまでナイフが落ちてきたと同時に、ナイフへと…
「スラストォッ!」
放つ。
バレーボールのスパイクを行うかのように叩かれたナイフはサクマ自身の力に加え、極限まで圧縮されたエネルギーの圧力により、瞬間的に音速に近い速度でゴブリン目掛け飛んでいく。
いくら訓練されてるゴブリンだろうが音速に近しい速度で飛んでくるナイフは避ける事が出来ず首元を貫通する。
「はぁ……はぁ……」
サクマはアボートスラストの勢いに肩を脱臼しかけた上力が入りにくい状態に陥った。
「残るは1体!」
「だが…左腕はもう使えない……。右手でスタープローブを使いたいが…MPもさっきので使い切ってしまった……」
一方残ったゴブリンは殺られた仲間のナイフを拾い、次なる攻撃に備えていた。
〔サクマ。今のであのゴブリンは少しオマエの事を警戒し始めた。もう一度さっきの技を繰り出されるかも知れないと…〕
〔だからだ。オマエがMP切れだという事を悟らせるな。〕
気丈に振る舞えばいいんだね?
〔そうだ。それと恐らくだが死角から迫ってくるだろう。さっきの技を放てない死角からだ。〕
〔常に自分の背後…そして木影等を警戒しろ!〕
わかった!
〔良し!ならば投げ飛ばしたナイフを拾いに行け!〕
サクマは大胆にも一直線にナイフを拾いに走り出す。それを見たゴブリンは草木が生い茂る中へ入り込む。
〔おお。大胆な事する様になったな。〕
ザッザッザッと草を踏みしめ走る。ナイフが突き刺さった木まで約5メートル。スタープローブが使えない分、聴覚へと集中力を集める。
残り2メートルまで迫ったその時、右側から音が聞こえた。
む!何か投げてきた。
咄嗟に上半身を曲げ、前傾姿勢となる。サクマの頭上にはとんがった石ころが通り過ぎていった。それと同時にナイフを構えたゴブリンが飛び出してくる。
「まずいッ!」
姿勢を崩しながらも目の前にある石を拾いすぐさまゴブリン目掛け投げつける。それと同時に脇腹の傷口が広がり血が滴る。しかしゴブリンはそれを弾く。
だがそれで良い。その一連の流れでサクマは転がってナイフの元に着き、拾い上げていた。木を背にゴブリンを見つめる。
………
……
…
〔来るぞ!サクマ!〕
ゴブリンはいつもと同じように真っ直ぐ走ってくる。しかし今までとは何かが違う。その異変を察知したサクマはズサッと右足を前に出す。
その動きに!ゴブリンはサクマの左側に回り込む。
ゴブリンは警戒している。もう一度あの音速のナイフが飛んでくるかも知れないと。それ故ゴブリンは警戒する。完全に音速の技を放つと確信していた。だがそれが仇となった。
「っハッタリだぁぁ!」
屈みながら近づいてきたゴブリンにナイフを思いっきり突き刺す。
「ぐぎゃぁぁぁっ!」
今まで聞いた事のないゴブリンの悲鳴に怯まず、刺さったナイフを動かし切り裂く。血飛沫が辺りに飛び散りゴブリンは地面へと倒れる。
「はぁ…はぁ…ボクのぉッ……勝ちだァっ……」
緊張が解け力が抜けたサクマは地面へと座り込むと同時に痛みを緩和してたアドレナリンが切れ強い苦痛を感じる。
〔サクマ。ゴブリンが何かを持ってるかも知れない。少し探ってみろ。〕
手始めに目の前のゴブリンを見てみると腰に袋を装備していた。中を覗いてみると、黒い干し肉と飲み水が入っていた。
〔お。食料は貴重だぞ。拾っておけ。〕
もう一体のゴブリンにも同じ物が入っていたがもうひとつ何か気になる物が入っていた。
ん?これは………宝石?
〔なんだ?ルビーの様な色をしているが……〕
まぁよく分からないけど売れば高くなりそうだね。
〔そうだ…ナイフも2本拾っておけよ〕
うん。
2本のナイフを拾い上げまじまじと見るとMを模した禍々しくも美しい紋章が入っていた。
Mから始まるヒト……もしくは国かギルドの生産物って事かな?
〔さぁ?分からないがこのナイフ、出来が良いから今後も使えそうだ。〕
だね。
〔さて。オマエは再びボロボロになってしまった。ひとまずはあの薬草で最低限の治療はしておけ。〕
少し移動し、薬草を沢山採取する。ただこのまま食うのは嫌なので、さっきゴブリンから拾った干し肉と合わせて食べる。
……まぁ……味は悪くないかな……
〔うし、あとは効果を待つのみだ。とりあえず長距離歩けるなら次の村を目指そう。その道中で他の薬草があったら拾っておけよ。〕
わかった。
そこから数時間、途中で休みを入れながらも歩き続けた。道中で魔物と戦ったり、薬草らしき物を何種類か拾ったりした。
そして日も暮れていき、景色が暗くなってくる頃、1つの村を見つけた。
「お!カレン、あそこに村の明かりがあるよ!」
この頃には薬草の効果が効いてきて、走ってもある程度問題無いぐらいには治ってきた。
〔む!待てサクマ!どこかの哨戒隊らしきヤツらが居るぞ!〕
身動きを優先した銀の鎧を纏った兵隊が数人。馬に乗ったお偉いさんらしき人物が1人、村の人間と話をしていた。
サクマは建物の裏に隠れひょこっと覗いて話を聞く。
村の長らしき人物と馬に乗った人が話をしている。
「ですから…お金はもう渡しましたよ!」
「んんぅ?貰っていないが?」
「あなた方とは違う部隊のヒトに渡したんです!」
「その部隊わぁ……ホントに我らコザック隊の人間かぁ?」
「そうです!あなたと同じ紋章をしていました!」
「んんーん。別隊のヤツから徴収した話は聞いてないからなぁ…もしかしたら、フェイカンの仕業じゃなあないかぁ?」
「そんな!何故フェイカンがお金を欲しがるんです!?」
「それは知らんが、はやく今回の金品そして食料をくれないかぁ?これは国からの徴発令だぞぉ?」
この男は舐め腐った口調でネットリと喋る。
「そんな事言われましても…これ以上はあげれません!何度でも言いますが、村には子供達が沢山いるんです!」
「はぁぁぁ……何故この村が敵国に襲われないか知らない訳ないだろおぉ?」
「わかってますよ…あなた方が守ってくれてるんでしょう?」
「そおぉだ。我らコザック隊が直々に守ってやってるんだぁ…」
「はやくしないとぉ……」
男は右手で銃の形を作り人差し指を長の額に押し当てる。
「守るの辞めちゃうかもなぁぁ……」
「……!そんな脅しは通用しませんよ!」
男は人差し指を近くの樽に向け、こう呟く。
「バレット・ボア…」
すると人差し指からエネルギーでは無い、確実な弾丸が射出され、樽に直撃したと同時に爆発も起こる。
「くっ!」
「さてぇ……あの樽みたいにワ…なりたくないよなぁ…?」
あいつ!
〔落ち着け!サクマ!助けに行こうなんて考えるなよ!〕
〔オマエはボロボロなのに加えて相手は人間!しかも数人!とても勝てる相手じゃあない!〕
……。
「おや?そこのにいさん……」
!
突如として後ろから声を掛けられたサクマは後ろを振り向く。そこには年老いたお爺さんが居た。
「はは、そう警戒しなくても大丈夫だよぉ…あんた見た感じ…旅人だろ?ここいらはあの兵隊さんに目をつけられててね…良く金品を取りに来るんだよ……」
「おっと!……こんなに話してる場合じゃあない……着いてきなぁアイツらに見つからない場所を教えてやるよ…」
〔サクマ。この爺さんは大丈夫そうだ。〕
サクマは言われるがまま、この謎のお爺さんについて行く。建物と建物の隙間をいくつか通るとひとつの草木生い茂る場所に着いた。使われなくなった物置のようだ。
そしてお爺さんは壁に置かれているホコリを被った大樽をいくつか退かすと隠し通路が現れた。
「ここ良く頭ぶつけるから気を付けなぁ」
隠し通路の中は下へと続いており何段か階段を下るとひとつの扉があった。
「ワシだぁ。連れも一人おる!」
すると扉が開かれ、中を覗くと様々な種族が居た。
恐らく狼の耳と尻尾が生えた狼人ってやつ?それにまだ若そうなエルフ。あれは……ゴブリン?…にしては人間に近い。
そんな事を考えてると爺さんが話しかけてきた。
「ここは、はぐれ者や戦いに疲れた者達が集まる憩い場所……。まぁ故郷のヤツらからしたらただ逃げ出した逃亡者じゃがなぁ……」
「………。ワシの名前はゼプト。昔は良くものづくりをしていた。」
「……そうだなぁ……ここの全員を紹介って訳にはいかんから、目立つヤツだけ紹介しよう__」
その時、一人の狼人の男が声を出す。
「そもそもソイツは誰だ?ここらの大陸の者とは思えないし…信用して良いのか?」
「ワシもわからん…」
「はぁ?」
「だが敵では無い事は確かだ。見てわかるだろう?横腹と脚の傷に、左腕がほぼ動いておらんのに、指だけがピクピク震えておる。」
「誰かに襲われたんだろう?」
「……はい……さっきゴブリンとたたかっ__」
話の途中でサクマは例の人に近いゴブリンをちらっと見る。そしてソイツはサクマの視線に気づきこう話す。
「んぁ?別に気にしてねぇよ…俺とアイツらは別だ。」
サクマは視線を戻し話を続ける。
「それでそのゴブリン2体と戦ってこうなってしまいました。」
例のゴブリンが再び口を開く
「たかがゴブリンでそこまでなるか?」
「…なったんですよ…そこまで!……そのゴブリン…動きが洗練されてて、攻撃をナイフで受け流されて……」
「ん?もしかしてそのゴブリン、Mが記されたナイフを持っていたか?」
「え?はい。これですか?」
サクマはポーチの中から2本のナイフを取り出し、相手に見せる。
「まじか……。…!待て!……もしかしてお前!赤い宝石を拾ってないよなぁ!?」
「今…持ってます。」
その言葉に目を見開きサクマに近付く。
「バカが!その宝石を今すぐ捨ててこい!」
「その宝石にはなぁ!追跡機能がついてる!お前の場所が常にモルガンに監視されているッ!」
「明日には来るぞ!モルガンがッ!」
「えっ!え?」
サクマは戸惑う。
「よこせ!俺が捨ててくるッ!」
宝石を奪い取り、階段を駆け上っていた。周りの人達はザワザワと騒ぎ出す。
爺さんが口を開く。
「…モルガンってのは…魔王の娘とまで呼ばれた女だ。幾つもの非人道的な行い。縫い合わせた跡のある身体。魔物の育成……あげたらキリがない…」
「ともかくあんたが戦ったのは鍛え上げられたゴブリン。ソイツを倒したってのは中々の事だ。だがそのせいでモルガンに目をつけられた。」
「詳しくは分からないが、ヤツは恐らく強い者を探している。戦いを楽しんでるのか、スキルを実験したいのかは分からない。」
「まぁ…目を付けられた以上、死ぬかもしれないと言う事は覚悟しておけ。」
〔……。とんでもないヤツに目を付けられたな。〕
「だが少しでも生き残る可能性を上げる為、ワシらが手助けしよう。まずはそうだな…リーウ!コイツに治癒スキルを!」
杖を持った若いエルフは怯えながらサクマに近づく。
「え…えとその…貴方の名前は?」
「アキです…」
「アキ…さんですね…わかりました。では治療します」
「ヒール…!」
リーウと呼ばれたエルフのスキルによりサクマの腹と脚の傷が徐々に回復していく。
その間に狼人の男がサクマに質問を投げる。
「お前どんなスキルで例のゴブリンを倒したんだ?一体だけでも並大抵の冒険者じゃあ勝てない相手だ。」
「スタープローブとアボートスラスト…です」
「……。聞いた事ないスキルだな…属性はなんだ?」
「属性?」
「あ?炎…氷…闇だとか…光だとかあるだろ…」
カレン…ボクのスキルって属性なんだと思う?
〔光が1番近いが、そんな光属性ぽくは無いしなぁ…多分…無属性とかだろう?〕
無属性か…
「どうした…アキ?」
「あぁ…すみません……。多分属性は無属性だと思います。」
「無属性だぁ………?」
「……。この世に無属性スキルは存在しない。必ず何かの属性に属している。」
「お前。嘘をついているのか?」
「いや…そんな事は…じゃ…じゃあ今見せましょうか?」
「…そうだな。見せてもらおうか。」
狼人はその場を離れ、1つのコップを持ってきた。
「もう捨てようと思っていたコップだ。お前のスキルがどんな物かは知らないが、コレで試してみろ。」
「わかりました…まずはスタープローブを。」
治療していたリーウは後ろに下がる。
右手を突き出し人差し指をピンと伸ばしそれ以外の指は軽く曲げる。握りはしない。軽く曲げるだけ。そして全意識を人差し指の先っぽに集中させる。
「スタープローブ!」
その掛け声と共にエネルギーが放たれた。コップは粉々には割れずに真っ直ぐの穴があいた。
「ほぉ……貫通力が凄まじい…」
その時ゼプトが声をあげる。
「おお!なんだいそれは!確かに闇でも光でもない…無属性だ!純粋なエネルギィィ!」
「無属性は実在したッ!……それじゃあもうひとつのアボートスラストとやらを見せてくれ。」
ゼプトの圧に押されながらサクマは構えをとる。
サクマは右手を隙間が生まれないようにしつつも軽く握る。そして拳の中にエネルギーを溜め込む。
「アボートスラスト!」
開いた手から放たれる圧縮された空気の壁はコップを吹き飛ばす。
「おおお!」
この世に存在しない事象にゼプトは興奮するが他の者はそうはいかない。
「……。見慣れない格好に…存在しないスキル…それに属性を知らない……ほんとにお前は何者なんだ?」
〔サクマ。慎重に話せよ。まだお互いの事は未知数だ。前回はミーナだから何とかなったが、今回はそうはいかんぞ。〕
うん。わかってる。
その時、この場にとある音が響く。
コロコロ……コロコロ…
「む?コップか?」
狼人は屈み床を見渡す。しかし周りには何も無い。
「気のせいか?」
コロコロ……コロコロ…
「いや…やっぱりナニカが転がってる音がするッ」
「あぁワシも聞こえる。転がる音が。」
ゼプトも屈み床を見渡す。だが何も無い。
コロコロ……コロコロ…
音は止むこと無く延々となり続ける。
何かおかしい事を察知したのか他のヒト達、全員も屈みだす。
だが無い。何も無いッ。転がっている物なんて無い。
そんな時宝石を捨てに行ったゴブリンがようやく階段を降りてきた。
「はぁぁ…危うくコザック隊に見つかるとこだっ__」
「ナッ!?」
「誰も…」
「居ないッ!?」
ゴブリンこと名をターピスが見た部屋には動くもは1つも無く、誰も居なかった。
続く―




