第41話 少年は誓いを立てる
ゆさゆさと体が揺れる。
「……イ。カイ」
誰かが僕を呼んでいる。
この声は……
「んんっ」
「目が覚めたわね」
「あれ、聖女様?」
「まったく……神託の儀で居眠りする人なんて初めて見たわ」
呆れた顔で僕を見下ろす聖女様が居た。
どうやら僕は眠ってしまっていたようだ。
だとしたらさっきのはただの夢だった?
……いや。そんなことは無い筈だ。
その証拠に身体の奥に力がみなぎっている。
あの時飲ませて貰ったお茶の効果がまだ残っているんだ。
「はぁ。まだ夢の中なのかしら。そんなに素敵な夢を見たのかしら?」
「あ、はい。ミュー様にお会いしてきました」
「ミュー様?誰かしら……まぁ良いわ。
兎に角、カイ。
神託の結果は出ました。
出ましたが『薬仙』という聞いたことも無いアビリティです。
薬と付いていることから薬師の一種だとは思いますが。
何はともあれ、対魔王アビリティではないようなので一安心ですね」
対魔王アビリティか。
そんなものに縛られる必要は無いと教えて貰った。
僕のアビリティが良く分からないものだって、どうでも良いのかもしれない。
だって、やりたいこと、やるべきことはそんなものでは変わらないからだ。
だから。
「聖女様。
僕は聖女様に命を救われた時から、どうすれば聖女様に恩返しが出来るかずっと考えていました。
聖女様が魔王討伐に向かうまでにまだ時間があるのですよね?」
「え?ええ。教会の預言者曰く、今から3年後に機が熟すそうで、その時に他の『勇者』達と共に向かうことになるでしょう」
3年。3年かぁ。
間に合うだろうか。いや、間に合わせるしかないんだな。
「分かりました。
なら僕はそれまでに聖女様が魔王を倒し、無事に戻ってこれるように準備をしておきましょう」
「「…………え(は)?」」
僕以外の3人の目が点になる。
それはそうか。あまりに脈絡が無かったしね。
僕だって突然こんなこと言われたら幻覚薬でも飲んだんじゃないかって心配になる。
でも僕としては至って本気だ。
恐らく何もせずに3年経った場合、無事に魔王を倒せたとしても、満身創痍で魔境から帰ってくることは叶わないだろう。
国、正確には教会かな、は聖女様達を死地に向かわせておいて自分たちは安全な場所に引きこもっている可能性が高い。
それなら魔境に接した地に生きる僕たちが力になるしかない。
「確かに僕には聖女様みたいに魔物たちを魔法の一撃で壊滅させる力はありません。
魔王どころか魔境の魔物とだって戦っても勝てないでしょう。
ですが幸い薬品関係でのサポートは出来ます。
今回の経験から、他の人の力を借りれば1000人規模の治療を請け負うことも可能です。
3年でAランク並みの実力を持った冒険者100人にBランク、Cランクの冒険者900からなるクランを創り、魔王までの道を切り開く。
そうすれば後は聖女様が魔王を倒してくださり、皆で凱旋出来る事でしょう?」
「出来るでしょうって、カイ。そんな事出来る訳がないでしょう」
「なぜですか? 難しいとは思いますが、不可能ではないはずです」
「Aランクの冒険者は国内に100人といないはずです。大陸中をかき集めても居るかどうか。
仮に居たとしても、全員がカイの思いに賛同するとは思えません」
「居なければ育てるまでです。
そもそも僕自身まだEランクなのですから」
「育てるって」
そんな荒唐無稽な話を始めた僕を3人は呆れたような困ったような目で見ている。
まるで聞き分けの無い弟って感じかな。
まぁ実際問題、Eランクの僕が声高らかにこんなことを叫んでも子供の戯言にしか取られないだろう。
せめてBランクは無いと誰も見向きもしないだろう。
だからまずは自分自身で実績を創りつつ、志だけでも賛同してくれる人達を集めて行こう。
きっとリーリアさん達なら僕の話を聞いてくれるはずだ。
他にもベルさんやシェリアさん、街の人達にも協力を仰ごう。
そうやって今後の事を色々考えていたら聖女様がため息をついてこう言った。
「はぁ、分かりました。今は何を言っても無駄なようですね。
ではカイ。私と幾つか約束をしてくれますか?」
「はい、なんなりと」
「まず第1に、先日のように自分の命を粗末に扱わないこと。必要に応じて他者の力を借りる術を覚えなさい。
続いて3年間の大まかな計画を立て、具体的な数字を出し、定期的に進捗を報告すること。
計画の立て方についてはこのお二人に相談するのが良いでしょう」
「うむ、我々で良ければ力になろう」
「そして最後に、今から1年以内にBランクに昇格してみせなさい。もちろん先の計画を達成した上でです。
それが出来なければ今回の話は無かったことにしなさい」
「お待ちを。たった1年でBランクなど、過去に『勇者』のアビリティを持ったものしかおりません」
「無茶は承知です。ですが3年でカイの求める状態になるにはこれでも遅すぎるくらいです。
どうですか。それでもカイはやりますか?」
じっと聖女様が僕の目を見つめる。
その力強い眼差しは一切のごまかしを許さないだろう。
僕は静かに、しかしはっきりと頷き、それらの条件を受け入れるのだった。




