第42話 そして少年は歴史を変える
それから丸一日かけてゾームさんと今後の計画について話し合いを続け、何とか『限りなく不可能に近いが、絶対とは言えない』というお墨付きをもらった。
もちろんそれまでに100回以上『絶対に無理だ』と言われたけど。
僕はゾームさんにお礼を言って館を後にすると、外は既に夕方だった。
「そういえば冒険者ギルドに寄らないといけないんだっけ。
だいぶ遅くなったけど大丈夫かな」
ギルドへと続く通りを走りながら周りのお店を見渡せば、早くも酒場などの夜のお店が賑わいだしていた。
この先、魔王の影響が高まる程、先日のような魔物の襲撃も増えてくるはずだ。
それらを撃退して街のみんなを守るためにも計画通りに進めないといけないな。
そんな事を考えながら冒険者ギルドの扉を開き、中に入る。
「……あれ?」
ギルドの中には大勢の冒険者が居た。
それはまぁ、時間帯的に一仕事終えて帰ってくる頃だから分かるんだけど、妙に静かなような。
普段なら酒盛りしている人達が何組も居るんだけど、それも居ない。
「こんばんは。あの、何かあったんですか?」
受付のミーミィさんに声を掛けると、ミーミィさんは笑顔で首を振った。
「いらっしゃい。みんなの事は気にしないであげて。みんな演技が下手なだけだから。
それより遅かったのね」
「すみません。領主様のところで打ち合わせをしていたら予想以上に難航してしまって。
それより、領主様からこっちで何か話があるって聞いてたんですけど」
「そうね。冒険者証を渡してもらえるかしら」
「? はい」
冒険者証を受け取ったミーミィさんは「ちょっと待っててね」と言って奥に行ってしまった。
手持ち無沙汰になった僕は後ろを振り返ってみんなの様子を見ようと思ったところで頭をガシッと掴まれた。
うっ、この掴み方は。
「ようカイ。こんな時間に出勤とはなかなかに大物っぷりだな」
「おっちゃん、ちょっと痛い」
「おっと、わりぃわりぃ」
がっはっはと笑いながらガシガシと僕の頭を撫でるおっちゃん。
こういうところも初めて会った頃から変わってない気がする。
あの時より背は10センチは伸びてるのに。
「と、処理が終わったみたいだぞ」
「お待たせいたしました。」
戻ってきたミーミィさんが冒険者証を差し出して、って。あれ?
「今日からカイさんはCランクの冒険者となります。
12歳でのCランク達成はギルド史上最年少の記録となっています。おめでとうございます」
「え……」
Cランク?
Cランクは討伐依頼の達成数を相当数上げないといけないんじゃなかったっけ。
そもそもDランクは!?
「なに呆けた顔してんだ。シャキッとしろ。
今回の件、ギルドとしてもそれだけ評価してたってことだ。
他にも依頼達成数だけで言えば十分すぎるほどだったしな。
という訳でだ。
おう皆。期待の新人、俺達の小さな英雄がCランクになったぞ!!」
「「オオオオォーー!!!」」
おっちゃんの合図で途端にギルド中から歓声が上がる。
って、さっきより人が増えていて、みんなの手にジョッキが渡っている。
あっちには女将さんや八百屋のおっちゃんまでいるし。
いつの間に。
「おめでとう、カイ君」
「おめでとう」
「これからも期待してるぞ」
「こっから危険な依頼も増えてくるからな。気を引き締めるんだぞ」
「くぅ~私たちも負けないんだからね!」
「街の仕事も引き続き頼むぞ」
リーリアさんを始め、顔見知りの人達を中心に次々と声を掛けてくれる。
以前Eランクに上がった時もみんながお祝いしてくれたけど、今回はそれにもまして凄い盛り上がりだ。
「聖女様に依頼して昨日夜までジンが冒険者ギルドに来れないように適当な用事で呼び出して貰えないか、とお願いしておいたんだが、まさか丸1日延びるとは思わなかったぜ」
ま、お陰でこっちとしても準備にかける時間が十分に取れたんだがな」
よく見れば垂れ幕まで作ってあるし。
「みなさん、ありがとうございます」
そう言って深く頭を下げた僕におっちゃんがため息をつく。
「カイ。お前まだ分かってないだろ。
今日ここに居る奴らは確かに気のいい奴ばっかりだけどな。
みんなこの2年で何かしらお前に恩を受けてるやつばっかりなんだよ。
だからこれはギルドが集めた訳じゃない。
お前の行動の結果が今この場を創り上げたんだ」
「、はいっ!」
「よし。じゃあここいらでカイに一言挨拶してもらおうか」
「「おぉ~」」
えーー!
そんないきなり。と言いったけど、僕の声は皆の歓声でかき消されてしまった。
うーん、上手く話せるか分からないけど、やるしかないか。
「えっと、みなさん。
今日は僕の為に集まってくれてありがとうございます。
僕は2年前。
10歳になるときにそれまでお世話になっていた家を出てこの街にやってきました。
最初はFランクの冒険者見習いということで街の雑用を中心に活動を行っていました。
まぁ、それは今もなんですけど。
でも、きっとそのお陰で、街のみんなと仲良くなれたと思ってます」
そう言うと、何人かがうんうんと頷いてくれる。
「先日、秘薬の材料を採りに森の奥へ行ってきました。
その時は色々と余裕が無かったせいで無茶をして、大怪我を負ってしまいました。
幸い聖女様に助けられたから良かったのですが、そのことを通じて、僕一人ではできることに限界があるんだなって痛感しました。
今回の魔物の襲撃だって、聖女様やここにいるみんなが力を合わせたから無事に撃退出来ました」
「今、世界は魔王の影響で魔物の被害が多くなっているそうです。
聖女様は3年後、力を蓄えたうえで魔王討伐に向かうと仰っていました。
聖女様が魔王を討伐出来なかったら、更に魔物が蔓延るようになります。
そうなったらこの街だって危ないかもしれない。
だから僕は。
3年の間に自分自身を鍛え上げ、仲間を募り、魔境だって踏破出来る最高のクランを創り上げます。
その為にはみなさんの力添えが必要になってきます。
だからこれから無理を言う時もあるかもしれないけど、どうかよろしくお願いします!」
そうして最後に深々と頭を下げて締めくくった。
いつの間にかギルド内はシンと静まり返り、誰も何も言わなかった。
……あれ?
もしかして何か間違えた?
そう思って頭を上げようとした時。
パチパチ……
パチパチパチパチパチパチ
「「おおおぉぉ!!」」
万雷の拍手と共に歓声が上がった。
「おうよ、やったろうじゃねえか」
「3年もあれば余裕よ」
「ここは俺たちの街だ。魔物なんかの好きにはさせねえ!」
「聖女様に頼らなくたって俺達だけでも魔王を倒してやろうぜ!」
「ばか、おまえ肉屋だろ」
「良いんだよ。サポーターだって一緒に頑張れば魔王討伐の立役者だろうが」
「よっしゃ、なら俺は旨い魚じゃんじゃん釣り上げて来てやるぜ」
「いや、お前の腕じゃ無理だろ」
「なにおー」
「がははははっ」
再びお祭り騒ぎになったギルド内を見渡して、僕は改めて頭を下げたのだった。
そして。
それから2年と半分。
僕は眼下に広がる魔境を眺めていた。
「マスター」
「あ、レナーシャさん」
赤い髪をサラサラと靡かせたかっこかわいい女性のレナーシャさん。
20歳くらいにも見えるけど実際には100歳を超える竜人族の戦士だ。
「何をご覧になっていたのですか?」
「魔境を。あの黒い霧の向こうに魔王が居るんですね」
「言い伝えではそのようです」
2人で魔境の奥を見れば、深い森と山を越えた先にまるで世界を拒絶するかのように黒い壁があった。
あの先は何が待ち受けているのだろう。
恐らく今の僕たちだけでは無事では済まないだろうという予感がする。
「他の皆は?」
「もう少しで予定していた量の採集が終わりそうです。
それにしてもこうしてこの大霊峰に人が踏み入れていることがいったいどんな奇跡なのかと自分がここに居なければ耳を疑ってしまいますね」
「僕としてはレナーシャさん達に出会えて、こうして協力して貰えていることこそが奇跡なんじゃないかって思いますよ。
お陰でここにも気軽に来れるようになりましたし、遅れがちだった計画が半年以上も前倒しで進められていますから」
「私達こそ、あの時マスターが村を救ってくださらなければ間違いなく絶滅していましたから」
「そうでしたね」
ほんと、この2年半は色々あった。
レナーシャさん達、竜人族と出会えなければ途中で挫折していたかもしれない。
とそこで周囲に散って採集に行っていた皆が帰ってきた。
「カイ君~。こっち終わったよ~」
「お疲れ様でした。リーリアさん。皆さんも。
じゃあ街に帰りましょうか。
今からなら日暮れまでに間に合いそうですし」
「って、それまた全速力ってことじゃん!」
「大丈夫ですよ。みんな予想以上に成長してますから」
今日ここに来ているのは冒険者25人と竜人族25人。
みんなBランク~Aランクだ。
戦闘力だけで言えばSランクに手が届く人も何人か居ると思う。
「じゃあレナーシャさん。よろしくお願いします」
「はい、お任せください」
次の瞬間、竜へと姿を変えたレナーシャさんを始めとした竜人族の背に乗って僕たちは空へと飛び上がった。
これにて第1部完となります。
後半色々盛り込みすぎたかなって思うので、第2部を描く前にそのあたりの補足も入れるかも。
第2部は少年の成長編&仲間作り編、かな。
それ以降は教会とひと悶着起こしたり南の国の勇者が事件を起こしたり、最後ちょこっと出てきた竜人族の村を救ったり(この頃にはカイは実力的にAランクを超えてますね)
どうしてそんなに急に強くなれるのか、とかも第2部かな。




