第38話 内々に少年は褒め称えられる
その後。
冒険者と警備隊による合同討伐は死者も出ず、大きな問題もなく終了した。
強いて何かあったと聞かれたらダンジョンに篭っていたらしいAランク冒険者達がちょうど戻ってきたことくらいか。
「くっそ~、祭に乗り遅れた~~」
街の事情を聞いたリーダーの人が言った言葉がこれだったらしい。
こっちはあれだけ大騒ぎだったというのに。
でも帰り道にゴブリンキングを仕留めてきていたらしく「お土産」と軽い感じでギルドに報告していた。
恐らくゴブリンが大量発生していた原因がそれだったんだろう。
お陰で誰も何も文句は言えないみたいだ。
あと、前線に出ていた人たちや錬金術師を中心に罹っていた呪いは元凶が倒されたことで無事に解除された。
その人たちは今、体力回復に努めていて、症状の酷かった人たちでも2日も寝ていれば元気になるだろうとのこと。
そして1週間が過ぎた今日。
僕は領主様のお屋敷に呼ばれていた。
門のところに辿り着いて改めて見上げるとその大きさに驚く。
そうして居たら門番をしていたお兄さんに声を掛けられた。
「きみが噂のカイ君ですね?」
「あ、はい。そうです」
この人とは初対面だと思うんだけど、なんで僕の事を知ってたんだろう。
「領主様から連絡は頂いております。
ご案内しますので、どうぞ。小さな英雄様」
「はい?」
小さな英雄様って何?
確かに僕の身長はまだまだ小さいけど。
英雄?聖女様の事なら分かるけど。
首を傾げる僕がおかしかったのか、お兄さんは小さく笑って事情を説明してくれた。
「前線で活躍した人だけが英雄ではありません。
君の治癒ギルドでの活躍は弟から聞いています。
警備隊で働いているあいつも、あの時怪我をして担ぎ込まれた一人でして、君が居なければ大勢の犠牲者が出ていただろうと、大袈裟な身振り手振りで説明してくれました」
「そうだったんですね。
でも僕がやったことなんて薬を調合したくらいで、呪いの解呪は聖女様ですし、瀕死の人たちを救ったのは回復魔法を使っていた人たちです」
「それでも弟が君に助けられたことには変わりありません。
どうもありがとうございました」
そう言って改めて僕の方を向いて頭を下げるお兄さん。
そっか。
あの時、無我夢中で自分に出来ることをやっただけだけど、それでちゃんと誰かを救うことが出来てたんだな。
こうしてお礼を言われて改めて実感が湧いてきた。
玄関に辿り着いたところで、案内がメイドさんに交代し、そのまま屋敷の中を案内される。
コンコンッ
「カイ様をお連れしました」
「通しなさい」
両開きの扉が開き、中に入るとそこは以前聖女様と入った部屋とは全く違いがらんとした大広間だった。
床には絨毯が敷かれ、部屋の奥に聖女様とおじさんが2人居るだけだった。
「カイ、こちらへ」
「はい」
聖女様に呼ばれてみんなの前まで進む。
すると今度は中央に立っているおじさんが話し始めた。
「ふむ、略式であるから礼儀作法は気にしなくてもよいな」
「それでよろしいかと」
「ではカイ。此度の争乱において多大なる貢献をした者として褒美を与える。
本来であれば正式な場で表彰すべきだが、こちらの聖女の言もあり、こうして略式で行うことを許してほしい」
「は、はぁ」
貢献?褒美?
「ふむ。どうやら自分の行ったことの重大さが分かっていないようだ」
「そのようですね。聖女様の仰る通りです」
「ふふふっ」
よく分からないけど、ほかの皆には話が通っているらしい。
「ゾーム書記官。掻い摘んで報告を」
「はい、では分かりやすいように簡潔に。
カイ殿。まず誰よりも先だって解呪のための秘薬を用意されたそうですね。
それによって23名の錬金術師が復帰しました。お陰で討伐戦の際に十分なポーションを用意することが出来ました」
「え、でも。僕の作った秘薬は3人分。多くても5人分のはずですけど」
「では余程呪いが弱まっていたか、秘薬の効果が高かったかどちらかでしょうね」
「そうなんですか」
それは思わぬ幸運だったな。
そう思ったんだけど。
「続きまして近年お茶に使われている薬草についてです。
治癒ギルドと錬金ギルドに確認致しました。
このお茶を飲むことで健康になることはもちろん、肉体抵抗および精神抵抗が向上することが分かりました。
1回の効果時間は数十分程度ですが、継続して飲むことで恒常的に抵抗力が付く可能性があるという事です」
「つまりは今回、魔物の呪いに対しても抵抗力がついていたという事だ」
「ただこれはこちらとしても想定外の事でしたが、魔物側としても同じだったことでしょう」
「あの呪いは吸命の呪い。呪った相手の生命力を奪い自分の糧とする呪いです。
ですからその呪いの効き目が悪かったためにある種飢餓状態になったのでしょう」
という事は予定より弱っていたということかな?
「そのせいで奴らは怒って攻め込んできたんだ」
「は?」
「本来は呪いの力だけで街の住民の生気をほとんど食らう予定だったのに何かに邪魔されたんだ。
だから力づくで奪う為に直接手下を引き連れてきたんだよ」
「じゃあ、魔物たちが街を襲ったのは僕のせい?」
僕が以前、商店街のおばちゃんたちの肩こりが大変だって言ってたから紹介した薬草茶のせいで、今回大勢の人が怪我をする羽目になったんだ。
それさえ無ければ魔物も襲って来なかったし、街も聖女様が呪いを解いて終わりだった?
「ふむ、勘違いしているようだが、我々は感謝しかしていないよ」
「そうね。あの薬草茶が無ければ私でも手の施しようが無かったでしょう。
それに向こうから攻めてきてくれたから魔法の1発で直接ボスを倒す事が出来たのですよ」
「あれが手下の黒犬だけに攻めさせていたとしたら長期戦になるところでしたな」
「そしてその攻撃によってできた負傷者たちも本来なら呪い影響もあって約1/3が死んでいても不思議ではなかったという事だ。
それがほとんどが命を取り留めている。君の作った薬のおかげでな」
「つまり君は、事前に呪いへの対策を行い、魔物をこちらの有利な位置に誘導し、犠牲も最小限に抑えたんだ。本来なら街の英雄と称え大々的に表彰すべきなんだがね」
「それをすると別の問題が起きる可能性がありますからね」
別の問題?
魔物も無事に討伐出来てもう終わりなんじゃないのかな。
予定外に長くなったので、なぜ内々になのかは次に。




