第35話 現場で少年は動き出す
おじさんと一緒に建物を出た。
後ろを振り返れば、この街で1,2を争う大きさの屋敷があった。
うーん、部屋の造りや廊下の広さ(そもそも廊下がある事)から、そうじゃないかと思っていたけど、僕が休ませてもらっていたのは領主様のお屋敷だったみたいだ。
(あれ?そうするとあの部屋にいた人たちも領主様とかになるのかな?)
そんな疑問を抱きつつ、用意させていたらしい馬車に乗り込むおじさんに続いて僕も乗り込む。
まさか街の中を移動するのに馬車を使うことになるとは。
馬車が走り出すと共におじさんが話しかけてきた。
「そう言えば自己紹介もしていなかったね。
私は治癒ギルドのマスターをしているラーズルムという」
「カイです。Eランク冒険者です」
「ふむ。カイ君は薬士のアビリティ持ちかい?」
「いえ、アビリティは持っていません」
「なに、そうなのか。では薬の知識はどうやって学んだんだ?」
「村に住んでいたバーラさんに教えて貰いました」
「なに、バーラ様にか!!!」
驚き腰を浮かすラーズルムさん。
やっぱりバーラさんってかなり凄い人だったみたいだね。
「あの人が弟子を取るとは。
そうか。
今は時間が無いからな。良かったら後で詳しく教えてくれ」
「はい」
そうこうしている内に、馬車が止まった。
降りた先にある白い建物は多くの人でごった返していた。
「誰か来てくれ!手が足りない」
「クソ、ポーションはまだか!?」
「魔力もそろそろ限界だ」
「追加だ。若いのが先走りやがった!」
「馬鹿野郎が。命の危険がある奴以外は適当に転がしておけ」
床には大勢の負傷者が寝かされており、その間を職員が走り回っている。
負傷者の7割は街の警備隊で残りの3割は冒険者たちだ。
パッと見、重傷者は少なそうだけど、爪などで切り裂かれた傷口からは今も血がにじみ出ている。
この状況を見たラーズルムさんも血相を変えた。
「おい、これはどうなっている?
なぜ負傷者がこんなに増えているんだ!?」
「ギルマス!いつお戻りに!?」
「いまだ。それより状況を説明しろ。魔物の襲撃は治まったんじゃなかったか」
「それが黒犬に触発されたのか、ゴブリンどもまで活発になったらしくて街の東側へ抜けようとしたんです。
東門から警備隊が出撃して何とかゴブリンは追い返したんですが、その横っ腹を黒犬に襲撃されてこのありさまです。
今は冒険者も総出で防衛線を構築しているそうです」
「なんてこった」
街の外、東側は畑や牧場などが広がっており、そちらは簡易な柵でしか覆われていない。
普段なら数匹程度の魔物が近づく事はあっても大軍で押し寄せることは想定していないから、防衛が間に合わなかったら大惨事だっただろう。
「それよりギルマス。ポーションが足りません。
治癒ポーションだけじゃなく、魔力ポーションも底を尽きかけています。
どうも錬金術師の多くが呪いの被害に遭っていたらしく、術師の呪いは冒険者ギルドから秘薬が手配されて治ったものの、工房はいまだ閉鎖されたままで生産が追い付かないそうです」
「なんてこった。くそっ。
とにかく今あるポーションは重傷者を優先しろ。ゴブリンと黒犬ごときに殺させるな」
「分かってます!でも、黒犬に襲われた人たちの多くが呪いの影響で止血も儘なりません」
「薬草は?」
「ありますが、即効性が無い分、気休めにしかなりません」
「くそっ」
憤るラーズルムさん達の後ろで考える。
使われている薬は通常タイプのようだ。
もっと即効性に重点を置いた処方にすればあの傷の治療も多分できる。
でも、僕一人じゃ全員の治療なんて間に合わない。
1時間以内に処置をしないと危険な人だけでもまだ10人以上いる。
どうすれば……
『多くの方と手を取り合って助け合わなければなりませんよ』
はい、聖女様。
「ラーズルムさん。
薬の調合を僕に任せてもらえませんか?」
「いやしかし。君も知っているだろう。薬では即効性に欠けるのだ」
「バーラさんから教えて貰ったやり方ならだいぶ早く効かせられます」
「なに、そうなのか!……分かった。君を信じよう」
バーラさんの名前を出したのが良かったらしく、僕の言葉を信じてくれた。
「その代わりお願いがあります」
「なんだね?」
「町中の薬草を集めてください。あと僕の泊まっていた宿の倉庫にも大量に薬草があるのでそれも一緒にお願いします」
「分かった、手配しよう」
「あと患者のトリアージをお願いします。特に傷と呪いで処方する薬も大きく変わりますので」
「それは私が受け持とう」
「ほかに調合室と、調合が出来る人を何人かと、荷物の運搬のための人員を用意してください」
「うむ。
おい、ビー!ゲライとガーバングを至急呼んできてくれ」
「かしこまりました」
「ラーラは彼を第1調合室に連れて行ってくれ」
「はぁい!」
ラーラと呼ばれた女性に連れられて建物の中へと向かう。
さぁ、ここからは時間との勝負だ。




