第32話 ゆめみる少年は目を覚ます
ようやくカイ君おめざめです。
本当はボスを倒すまで寝かせておこうというルートもあったのですが。
ぼんやりとした景色の中、ぼくは父さんと一緒に食事を摂っていた。
……あぁ、これは夢だな。
そう思いつつ、やさしいえがおを向けてくれるおとうさんを見かえした。
『カイ。
世界中の不幸を無くすことは女神様にだって出来ない。
でもね。
幸せを増やすお手伝いなら私たちにだって出来るんだよ』
『どうすればしあわせをふやせるの?』
『そうだね。まずは自分自身が幸せであること。
そのうえで、身近な人を幸せにしてあげるんだ。
困っている人が居たら手を貸してあげなさい。
悩んでいる人が居たら話を聞いてあげなさい。
そしてもし、自分が助けて貰ったら、その何倍も助けてあげなさい。
何があっても笑顔と感謝を忘れてはいけないよ』
『うん!じゃあまずは、おとうさんをしあわせにすればいいんだね』
『はっはっは。そうだね。
でも私はもう十分に幸せにしてもらったからね。
今度は他の人の事も幸せにしてあげよう』
『ん~、でもバーラさんもガックさんもじぶんのことはだいじょうぶっていってたし……。
あ。じゃあ、ぼくはめがみさまをしあわせにする!
だってめがみさまはいつもちかくにいて、みんなをしあわせにしてくれてるんだよね。
だからいつもしあわせにしてもらってるぶん、めがみさまをいっぱいしあわせにする!』
そう言ったぼくを、父さんはやさしくなでてくれた。
……
…………
………………
それはたしか、僕が5歳の時の記憶。
懐かしいな。久しぶりに夢に見た気がする。
そうして目覚めの微睡みを堪能……っ、出来るなんておかしい!
「!?」
その違和感に一瞬で覚醒した僕は慌てて飛び起きて周囲を確認した。
場所は、どこかの建物の中。見たこともないほど立派だ。
その部屋の寝台の上で、ふかふかの布に包まれて寝ていたらしい。
(……僕はどうしてこんなところに?)
よく見れば自分の服も見たこともないものに変わっているし、体のどこにも異常はない。
誰かに助けてもらったということだろう。
少なくとも命の危険はなさそうだと結論を出した僕は改めて周囲を確認する。
僕が普段付けている装備一式は、扉のそばに纏めて置いてあった。
その中の一つ、背嚢を見た瞬間、記憶が蘇った。
(そうだ。確か秘薬を求めて森に入ったんだ)
なんとか秘薬を手に入れた後は、魔物の襲撃から逃れて手持ちの傷薬で手当てをしつつ街に向かっていたはずだ。
だけど街にたどり着いた記憶がない。
現状と照らし合わせると、街に戻る途中で誰かに助けられたと言ったところだろう。
そう結論を出しつつ背嚢の中を確認する。
秘薬は……ない、か。
そこまで確認したところで、控えめに扉をノックする音と共に誰かが入って来た。
「あら、お目覚めになられたのですね。良かった」
そう言って笑顔を向けてきたのは、僕より年上の女性。
身なりからしてこの屋敷のメイドだろう。
「あの、僕はどうしてここに?」
「それは聖女様が傷だらけのあなたを連れてきたからです」
「聖女様?」
「残念ながら詳しい事は私も聞かされておりません。
この後すぐに聖女様にあなたが目覚めた事をお伝えしてきますので、詳しくは聖女様が教えてくださるでしょう。
お顔を洗って、こちらに着替えてお待ちください。
それと一つ伝言を預かっています。
『シェリスさんの治療は無事に終わりました』
とのことです」
「そうですか。ありがとうございます」
「では私は聖女様にあなた様が目を覚まされたことをお伝えして参ります」
そう言って着替えと思われる服を渡しつつテキパキと動いた彼女は部屋を出ていった。
はぁ、すごいな。実に無駄のない動きだった。
それにしても聖女様って誰なんだろう。
って考えても分かる訳ないか。
まずは渡された服に着替えて、って。この服も相当良いものだと思うんだけど、僕なんかが着ても大丈夫なのかな?
若干不安を抱きつつも、言われた通り着替えて待つと、程なくしてまた扉がノックされた。
「はい」
「失礼しますね」
「!!?」
入ってきた女性を見て、僕は言葉を失った。
そこに居たのは、思い描いていた女神様そのままの女性だった。




