第30話 聖女は領主と会う
領主館に戻ると護衛騎士の一人が出迎えてくれた。
彼は6人の護衛騎士の中で唯一私の過去を正しく知っている人だ。
あの災厄の中で私と共に生還出来た数少ない生き残り。
謹厳実直。不言実行を絵に描いたような人だ。
「お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました。
何か報告はありますか?」
「はい、3点ほど。
まず、トレイル辺境伯が聖女様が戻り次第、面会したいとのことです。
続いて、現在街で熱病が流行しているという情報があります。
最後に、聖女様がお救いになった少年ですが、未だ眠り続けているとのことです」
「そうですか。どうもありがとう」
伯爵の話は恐らく熱病、正しくは呪いについての話でしょうね。
カイ少年が起きるのは恐らく明日以降でしょう。
「では、伯爵には今から伺いましょう。
あとメイドのミレルさんに少年宛に言伝をお願いします。
『シェリスさんの治療は無事に終わりました』と」
「は!承知致しました」
「あと先ほど街の西側でボス魔物が発生したという情報を得ました。
街の警備隊やギルドと連携して詳細の調査と対策を進めておいて頂けますか?」
「は。早急に手配致します」
「よろしくお願いいたします」
私に一礼して立ち去るのを見送り、私たちは伯爵の居る執務室へ。
部屋に入ると30半ばの精力的な顔をした伯爵が迎えてくれる。
「これはこれは。お会いできて光栄です。聖女ルイン」
「こちらこそ、会える日を楽しみにしていましたわ。
この街の興隆の噂は他の街でもよく聞きますもの。
よほど良い治世をなされているのでしょう」
「そう言って頂けると嬉しいですな。
さ、お茶を用意させますのでお座りください」
15,6の私に対しても礼儀正しさを失わずに真摯に対応される。
なるほど、噂通り貴族社会にはあまり見かけない良い方のようですね。
そうして席に着くと程なくしてお茶が運ばれてきた。
ただそのお茶は普段飲む紅茶とは全く違い、酷く濃い緑色をしている。
「このお茶は?」
「薬草茶です。この1,2年街で大流行してましてな。
味は少し渋いですが、美容と健康に良いらしく、私自身これを飲むようになってから目の隈が取れて助かっていますよ」
「そうでしたか」
「あとこれは冷めると苦みが増しますので、熱いうちにどうぞ」
口を付けてみると、確かに独特の苦みがあって美味しいとは言い難い。
でも不思議と飲んだ後は気分が落ち着き、もう一口飲もうと思っている自分が居る。
ほっと息をついたところで、本題に入りましょう。
「さて。本日こちらに訪問させて頂いた理由をお話する前に、先に今起きている問題についての話がしたいのですがいかがでしょう?」
「ほう。さすがですね耳が早い。それは私にとっても願ってもないことです。
このタイミングで聖女様がこの街を訪れてくださったのは、まさに女神さまのお導きでしょう」
「そうかもしれませんね」
実際にはこの街以外にも多くの場所で同様の被害が起きている可能性もある。
この身一つでは全てを救うことが出来ないのは当たり前なのだけど忸怩たるものがある。
そんな私の思いは幸い表には出なかったようで、伯爵が話を続けた。
「では現在報告を受けている事をかいつまんでお伝えしましょう。
まず冒険者ギルドから、西の森でボス魔物が発生したとの報せが入っています」
「どのタイプの魔物かは分かりますか?」
「森に黒犬が大量発生しているそうです。ですので黒犬の上位種または特異体ではないかとのことです」
「そうですか」
「続いて、市内で謎の熱病で倒れたという報告が7件入っております。
いずれも今のところすぐに命に関わるほど重くは無いとのことです。
恐らくですがボス魔物が何か関係しているのではないかと見て調査させています」
ほぼ間違いなくシェリスさんと同じように呪いに罹っているのでしょう。
ただ、たったの7件……少ないすぎる。
報告の上がっていないものを考えれば3倍の20件以上とみても、この街の規模から考えたら少ない。
ボス魔物が思ったより弱いのか、呪いに特化していないのか、それとも。
「そうそう。つい先ほど街に出た時に、熱病に倒れている少女を診察してきました」
「おぉ。そうでしたか。それで熱病の原因などもお分かりになられましたかな?」
「ええ。お察しの通り、ボス魔物の呪いでした。ボス魔物を倒せばすぐに解けるでしょう」
「それは朗報です。これ以上被害が増える前に討伐隊の編成を急がせましょう」
「そうですね。あと呪いを解くための薬も冒険者ギルドに預けてきたので、症状の重い人はそちらに問い合わせれば助けられるでしょう」
「素晴らしい。して、その薬はまだお持ちですか?」
「残念ながら量も少なく私が作った薬でもありませんので、全て預けてきました」
私が作ったのではないと言ったタイミングでピクリと伯爵の眉が動いた。
何か心当たりがある、と言う事でしょうか。
「私が居る間は私の魔法でも解呪は出来ますので対応致しますよ」
「ありがとうございます」
その後、2,3近況などを話し合った後、今日のところは解散となった。
明日からは呪いの治療をしながら、ボス魔物の対策も考えないといけないでしょうね。




