第29話 聖女は呪いの治療を行う
部屋に入った途端、うっすらと瘴気が迎えてくる。
なるほど。これは吸命の呪いだわ。
これに罹った人は熱病に似た症状を出しつつ衰弱して死に至る。
治すには呪いの元凶の魔物を倒すか、神聖魔法を使うか、秘薬を使うしかない。
呪いの中には高位の神聖魔法による解呪しか効かないものもあり、残念ながら今の私では使えない。
そういう意味でも持ってきた秘薬で効果がありそうなのは幸いだった。
「こんにちは。薬を処方するので変わって頂けますか?」
「う、うん」
寝台の横で一心に看病を続けている少年に声を掛けて場所を替わる。
今も呪いの影響で荒い息をしている少女(多分シェリスさん)の胸の上に手を当てる。
「『診察』」
神聖初級魔法で健康状態を確認。
よかった。幸いこの呪いはかなり症状が抑えられているようね。
あの女将さんと呼ばれた女性の処置が適切だったのでしょう。
寝台の横を見ればコップに半分ほど、濃い緑色をした液体が入っていた。
「そちらのコップに入っているのは?」
「ああ、これかい?薬湯さ。その子が目を覚ましている間に何度か飲ませて上げていたんだ」
「そうでしたか」
気になった私は残っている薬湯に『鑑定』を行う。
体力回復、気力回復、体調安定化、解熱など、いわく万能薬に近い効能があるようだ。
これは間違いなくかなり高位の薬師が用意したに違いない。
私は持ってきた竹筒から秘薬を1滴、呪いに苦しむ少女の口に垂らした。
これで拒絶反応とかが出なければ、一口分ずつ飲ませて様子を見ていけばいい。
「これは!!!」
まだほんの1滴しか垂らしていないにも関わらず、みるみるうちに呪いが解けて熱も下がり呼吸も安定し始めた。
「『診察』」
呪いが完全に解けている。体力もほぼ完全に回復してる。
ガルクの花の秘薬にそれほどの効能はない。これではまるで上級秘薬並みだ。
この竹筒のおよそ1/3くらいを飲ませてやっと呪いだけが取り除ける程度のはずだ。
いったいどうして……
「ルイン様?」
「はっ。いえ大丈夫です。
この子の呪いは解けました。もうしばらくすれば意識を取り戻すでしょう」
お礼を言ってくる女将さんや少年に「私はただ薬を運んだだけですから」と断ると、すぐに錬金術師の家を後にした。
「リーリアさん。案内ありがとうございました。
それでもう一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいよ。あなたはシェリスの恩人だ。何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。
では、この秘薬をギルドを通じて他に同じように苦しんでいる人たちに飲ませて上げてください。
恐らく症状の重い人でも5滴も飲ませれば効果が出ると思いますので慎重に」
「そりゃ願ってもないことだけど、良いのかい?
さっきのあの効果から見てかなり高価な薬なんでしょう?」
「ええ。そうなのですが、これは私達のものではなく、カイさんのものですから。
あの子ならそうすると思いませんか?」
「そうか。そうね、たしかに。それなら遠慮なく」
そう笑って秘薬を受け取ったリーリアさんは風のように走っていった。
やはり戦闘系のアビリティ持ちの身体能力は目を見張るものがある。
あれで身体強化の魔法を使っていないというのだから。
っと、そんなことは今は良いわね。
「ミリィ、私たちは領主館に戻ります」
「はい、ルイン様」
呪いはあの秘薬があれば十分に治療できるだろう。
なら私は私にできることをすべきだ。
ただの表敬訪問の予定だったのに、やることが増え過ぎね。




