第27話 メイドはお供をする
辺境伯領に向かう道中で助けた少年カイは、馬車が領主館に到着しても目を覚ます気配はありませんでした。
最初道端に倒れていた姿からは、既に死んでいてもおかしくないと思っていましたが、ルイン様の治癒魔法とトロール並みの生命力によって一命を取り留めたようです。
現在は浄化魔法をかけたお陰で服はボロボロのままですが、それ以外は目立った外傷も汚れも無くなっています。
ルイン様はまた、先触れで客室を一つ多く借りれるように伝えていました。お優しい事です。
案の定、この少年をそこで寝かせるようです。
「申し訳ないけれど、どなたか彼の看病をお願いできないかしら」
「それでしたら、私が担当させていただきます」
「あなたお名前は?」
「ミレルと申します」
「ではミレルさん。どうぞよろしくお願いいたします」
「そんなっ、お顔を上げてくださいませ」
いつもの事なのですが、ルイン様は館のメイドにも普通に頭を下げます。
王族であり、更に聖女でもあるというのに、他者を見下さない姿勢は尊いとさえ思えますが、それを見て貴族の中では怒る者もいますし、慣れていない相手に行うとこうして恐縮されてしまいます。
まぁ今回の訪問は長居することもないし大丈夫でしょう。
「辺境伯との会談の時間までまだ時間がありますし、行きましょうかミリィ」
「はい、ルイン様」
街中でも目立たない服装に着替えた私たちはすれ違う人たちに挨拶を交わしつつ館を後にします。
普通であれば「長旅でお疲れでしょう」とか「御用があれば私が行きますので」などと言って休ませるのでしょうが、生憎とルイン様はそれをよしとしません。
曰く「この先、他の勇者と共に魔王に挑む時にゆっくり休んでいる余裕はないでしょう」と。
まだ魔王に挑むのは何年も先の予定ですのに今からその準備と覚悟を持たれているとはご立派です。
ルイン様と私の他には護衛の騎士が6名いらっしゃいます。
どの方も多少剣の腕は立ちますが、隊長のヒューズ様以外は国から派遣されただけの貴族の次男三男です。
国の命令があればいつでもルイン様を裏切るだろうと私は見ています。
いざとなったら私一人でもルイン様をお守り致します。
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、上へ下への大騒動です。
何か問題が起きているのかしら。
いえ、もしかしたらここの人達はこれが普通かもしれませんね。
「やっぱり探しに行ってくるわ!」
ただ、そう言って入口、つまりこちらに突っ込んでくる女性剣士が一人。
受付の方に声を掛けながら走るものだから私たちにぶつかりそうになりました。
「っと、ごめんなさい」
「お待ちなさい」
そのままギルドを出ていこうとする女性を止めるルイン様。
決して大きな声を出した訳でもないのに、その声には誰もがつい従ってしまう不思議な力があります。
これが人徳というものでしょうか。
「あなた今、探しに行くって言ったかしら」
「え、ええ」
「それはもしかして薬草の臭いをさせた少年だったりしますか?」
「!?あなた、カイ君がどこにいるか知っているの?」
ルイン様に掴みかからんばかりに迫る女性。
焦っているだけで敵意は無いことから踏み込もうとする足を寸でで止めた。
「名前までは分かりません。
ですが、背嚢を背負って全身から薬草の臭いをさせた私より少し背の低い少年であれば私たちがこの街にくる途中で保護しました」
「間違いないわ。それでカイ君は今どこに?」
「領主館で休ませてあります」
「無事なんですね? よかったぁ」
そう言ってほっと息をついた。
どうやらあの少年はよっぽど大事に思われているようですね。




