第26話 聖女は少年を調べる
心音を確認すれば弱くなってはいるが何とか持ちこたえている。よかった。
私は魔法を掛けながらざっと彼の全身を確認していく。
魔物の爪で切り裂かれたと思われる傷が全身を覆っているけど、思ったより出血は少ないみたい。
幾つかは傷口がふさがりかかっている。
生命力が高い……いえ、これは薬草を全身に塗り込んでるのかしら。
あとは、背嚢が不自然なほどに無傷ね。
自分が傷だらけになりながらもこれだけは守った?
なら恐らくさっき言っていた薬はこの中に入っているのだろう。
あと酷い臭い。
小さい頃に一度だけ飲まされた解毒薬の臭いを思い出すわ。
治癒魔法の光が消えると同時にすぐ後ろで控えていたミリィが声を掛けてきた。
「ルイン様。彼の様子はいかがですか?」
「ええ、大丈夫。呼吸も安定してきたし、一命は取り留めたわ。
それより彼を馬車に乗せるのを手伝って」
「畏まりました。それにしても凄い臭いですね」
ミリィは可愛らしい見た目によらず、武術も嗜んでいる。
あの細腕のどこにそんな力がと思ってしまうほど、軽々と男の子を持ち上げると馬車の中へと運び入れた。
走り出す馬車の中、改めて彼の様子を観察する。
「まずは背嚢ね。彼が瀕死の重傷を負ってまで守ろうとした薬があると思うんだけど」
背嚢の中には幾つかの野外活動で使用する道具と、数種類の薬草、あと竹製の水筒が1つ。
薬草を一つ一つ鑑定していくが、どれもありふれた傷薬や解毒薬用の薬草だった。
ならこの水筒か。
まずは水筒の蓋を開けずに外から鑑定魔法をかけてみる。
「っ、これは!?」
「いかがなさいましたか?」
「……ガルクの花の秘薬だわ」
「まさか。なぜそんなものをこの少年が?」
「恐らく、自力で採取して調合したんだと思う」
ガルクの花の秘薬。
秘薬のランクで言えば第4級。通常の解毒薬とは違い、秘薬は第4級であっても最低金貨数枚の価値があり、ほとんどの病気に対して効果を発揮する。
更に希少性で言えば、ガルクの花の秘薬は第2級並みに出回る事がない。
それはガルクの花が切り立った森の奥の崖の中腹にしか咲かないこと、また、その崖にはスラッシュモンキーと呼ばれる魔物の巣があるから採取することが難しいことが理由の一つ。
更にガルクの花は摘んだ後、処理しなければすぐに萎れてしまうらしい。
なので時間停止型のアイテム袋にしまうか、摘んだその場で調合するしかない。
前者はそんな高価なアイテム袋があるならもっと割の良いことをするし、後者の場合は秘薬を調合出来る人物を現地に連れていく必要があるが、魔物の跋扈する森を奥深くまで踏み込む危険を冒す人はいない。
でも彼は恐らく後者。薬草師のアビリティが発現した冒険者なのか、それとも……。
「ルイン様、こちらを。どうやらこの少年はこの先の辺境伯領で活動するEランク冒険者のようですね。名前はカイ」
「そう」
ミリィは私に冒険者証を見せてくれた。
これで少なくとも冒険者ギルドに問い合わせれば疑問は解決できそうね。
なら後はこの臭いを何とかしてしまいましょう。
「神聖初級魔法『浄化』。あとは風系初級魔法『操風』」
彼の全身に付いた汚れや臭いを取り去り、馬車の中に充満していた空気を入れ替える。
「ふぅ。これで一息つけるわね」
「はい。それにしてもルイン様。この人の仲間はどうなったのでしょう?」
「なかま?」
「そうです。装備から考えて彼は戦士系でもなければ魔導士系でもなさそうです。
仮に斥候系と考えても、ここは魔境のすぐ近くです。
直接戦闘が得意ではないアビリティの人が一人というのはありえないでしょう」
「確かにそうね。でも彼のこの様子を見るに、仲間が犠牲になって彼を逃がしたと見るのが妥当ではないかしら」
彼ですらここまで傷だらけなのだから、仲間たちはすでに無事ではないでしょうね。
そうしている間に街に着いたようだ。
軽い検問の後、馬車は領都の中へと入っていった。




