第25話 聖女は少年を拾う
ここからカイ君は少しお休みして聖女様ルートです。
マルケス大陸は東西南北4つの大国によって治められていた。
大国と大国の間には巨大な山脈が存在するために、数百年に渡って人同士の戦争は起きてはいなかった。
いや、戦争をする余裕が無いという方が正しいか。
いつの時代からか大陸中に魔物が生まれ、また偶発的にダンジョンが発生し、道行く人類を襲うようになった。
また大陸の中央には深い森が広がり縦横無尽に渓谷が存在する。
そこは強力な魔物の巣となっている為、人族の間では魔境と呼ばれている。
更には150年周期で魔物を統べる魔王が誕生する。
魔王が居る間は他の魔物の発生も活性化する為、世界中で魔物の被害が増大する。
そして、魔王の誕生に呼応するかのように世界各地で「勇者」「聖女」などと言った曰く対魔王アビリティを発現する者が現れる。
これらはすべて女神様のご意思である、という者もいれば、この地を支配しようと目論む魔神のせいだという者もいるが、真相は誰も知らない。
東の大国、シルファナ王国第3王女として生まれたルインもまた、5年前に聖女のアビリティを発現させた一人だ。
預言者の話ではあと数年後にはほかの国に生まれているはずの対魔王アビリティ持ちの人たちと魔王討伐のために魔境へ挑むことになる。
現在は少数の護衛と共に国内を周っている最中だ。
「はぁ」
「お疲れですか、ルイン様。馬車を止めて休まれますか?」
「いいえ、大丈夫よミリィ。少し物思いに耽っていただけだから」
「そうでしたか。でもご無理はなさらないでくださいね」
「ええ、ありがとう」
王都から南西へと向かう馬車の中。向かいに座る侍女のミリィを見る。
彼女はとある伯爵家の3女で、ルインよりも3つ年上だ。
ルインが5歳の頃からの付き合いでもう10年になり、聖女のアビリティを発現した後も変わらず接してくれる、ルインにとって数少ない心の許せる相手だった。
「今日中にはトレイル辺境伯の領都に着けるのよね?」
「はい。昼過ぎには到着する予定ですよ」
にこにこと笑うミリィに頷いた後、窓の外を見るとはなしに眺める。
よく舗装された街道を囲むように森が広がっている。
昨晩の雨が嘘のように空は晴れ渡り、見る人が見れば絶好のピクニック日和なのだろうが、聖女として覚醒したルインには至る所に魔物の気配を感じてしまい再び顔をしかめた。
「やはり、魔物が増えているようね」
「そうですね。昨日泊った村でも魔物の被害が増えているというお話でした。
でもこれからルイン様達が元の平和な世界に戻してくださるのですよね♪」
「ええ。ですが今のままではまだまだ力不足は否めません。
私個人の力もそうですし、この大陸全てを救う為には、すべての国の協力を仰がなくてはなりません。
その為にもまず国内の協力を取りつけて行きましょう」
そうして話していると、前を走る護衛の騎士たちが警戒を呼び掛けた。
それと同時に馬車の速度がガクンと落ちる。
何事かと窓から道の先を観察すると騒ぎの原因と思われるものが見えた。
(あれは、人?それともゾンビ?)
血が滲みボロボロになった服を着た人影が動いているのが遠目に見える。
こんな日中からアンデッドが出たのかと警戒したが、魔物の気配がしないことからその考えをすぐに捨てた。
魔物でないなら人だ。そして動いているならどんなに傷ついて見えたとしても生きているだろう。
私は窓の外に居る騎士たちに声を掛けた。
「あの者の元に急ぎ馬車を走らせなさい!今ならまだ間に合います」
「お言葉ですが姫様。
あれは恐らくこの先の街の冒険者でしょう。姫様がお気を煩わせる必要はありません。
それにもしかしたら何者かが仕掛けた罠の可能性があります。そうでなくても病気や呪いを纏っている危険もあります。
まずは我ら数名で危険がない事を調査した後、急ぎ通り過ぎるのが得策かと存じます」
今にも死にそうな人が居るというのに全く心配する様子のない騎士を蹴り飛ばしたい衝動に駆られるも、ぐっと堪えた。
彼らはあくまで職務に忠実なだけだ。
「病気や呪いの類であれば私が治療します。
もしあれが私の命を狙う罠だとしても皆さんが居れば万が一もないでしょう?
さぁ、急ぎなさい」
「しかし……いえ。畏まりました」
躊躇と畏れの混じった返事。それも仕方がないか。
彼らからすれば私は聖女とはいえ箱入り娘。
私の事を常識知らずで手の掛かる子供と思っているのかもしれない。
そして何より、5年前のあの事件の噂を知っているなら、怒らせたら爆発する危険物と思っている可能性だって高い。
っと、思考がずれたわね。
気づけば馬車が倒れた彼の手前まで来ていた。
私は馬車が止まると同時に飛び出した。
「ルイン様!?お待ちください」
ミリィが慌てて後を追ってくるけど、今は無視だ。
私は倒れてうつ伏せになりながらも、なおも這い進もうとする男の子の手を取り、治癒魔法を掛けながら声を掛けた。
「しっかりしなさい、助けに来たわ!」
声を掛けるも碌な反応を返さない。恐らく意識が混濁しているんだわ。
そう思っていたら彼がこちらにゆっくりと顔を向け、口を開いた。
「たの…む。くすりを。職人、通りの……シェリスさんに」
それだけ言うと力尽きたように意識を失った。
「薬ってどれのこと?ちょっと、死んではだめよ!」




