第16話 いつもの少年の朝いちばん
色々あって少し時間が進みます。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
いつものように女将さんに挨拶をして宿を出た。
朝日が差し込む路地裏はゴミ一つなく、清々しい風がそよいでいた。
「おはよう。カイ。今日も早いな」
「おはようございます。ワラスさんも朝から精が出ますね」
「おっはよ~。ねぇねぇカイ君。次はいつ来てくれるのかな?」
「えっと、そうですね。来週なら行けると思います」
「あ、カイ君。この前貰った薬草のお陰でお肌の調子が良いみたいなの。
余ってたらまた今度分けてね」
「は~い」
街の大通りに出ればあちらこちらから声を掛けられる。
どの人も前に冒険者ギルドを通じて依頼を受けた人だったり、商店で店番の依頼を受けた時にお客さんとして来てくれた人たちだ。
この街に来てからもう2年。
最初会った時はみんな、こんな小さい子供に仕事を任せて大丈夫だろうかって訝しんでいたけど、何度か依頼を受けていくうちにどんどん受け入れられてきた。
今では指名依頼みたいな形で呼ばれることもあったりするし嬉しい限りだ。
その人たちに挨拶を返しながら、冒険者ギルドの扉を開いた。
途端、外とはまた違った喧噪に包まれる。
「いらっしゃい、カイ君」
「おはようございます。ミーミィさん」
受付のお姉さんに挨拶しながら冒険者ギルドの中を見回す。
こうしてみるとギルドの中も前と少し雰囲気が変わった気がする。
最初に対応してくれてたおっちゃんは、今年の頭になんとギルドマスターになったらしい。
前みたく受付で息抜きが出来なくなったと時々ボヤいてるとミーミィさんに教えてもらった。
あと、僕以外にも早朝のこの時間に来る人が増えた気がする。
そうやってぼんやりギルドの中を見ていたせいだろう。
ミーミィさんが僕の目を覗き込むように聞いて来た。
「なに?何か気になる事でもあるの?」
「いえ。みんなもう来てるんだなって思って」
「ふふっ。あなたがそれを言うの?」
「え?」
「みんな、あなたに触発されて早く来るようになったのよ」
「そうなの?」
驚く僕がおかしかったのか、ミーミィさんが笑いながら教えてくれる。
「みんなね、あなたが毎朝毎晩欠かさずギルドに顔を出してはどんどん依頼を受けていく姿を見て自分たちも負けてられないって思ったみたいね。
特にほら。あっちに居るカウラさんとララさんなんて、のんびりしてたら君に追い抜かれる~って言って頑張ってるし、他にも」
「おはようございま~。あぁ!やっぱりカイ君先に来てる」
「リーリアが二度寝してたせいね」
そうやって元気に入ってきたのは同じ宿の先輩冒険者、リーリアさんとイリーナさんだ。
二人は今、この街で最も伸び盛りの冒険者で街の最年少Bランク冒険者コンビだ。
「おはようございます。リーリアさん、イリーナさん」
「まったく、ちょっとはお姉さんたちを待ってくれてもいいのに」
「あはは、ごめんなさい」
「まぁいいけど。それで、今日はどっちの日なの?」
どっちの日、というのは街の中の依頼を受ける日なのか、外の依頼を受ける日なのかってことだ。
この2年で無事に僕も見習いを卒業してEランク冒険者になっていた。
だから街の外での薬草採集や角ウサギなどの食べられる小型魔物の狩猟依頼も受けられるようになっている。
それでも長い事、見習いの依頼を受けていた習慣が抜けないのと、僕に来てほしいっていう依頼があるので今でもFランクの依頼も受けるようにしている。
「今日は外の日です。
暖かくなってきたので、この季節に採れる食用の薬草を採って来ようと思ってます」
「そっか。じゃあ私たちで周囲の魔物を討伐しておいてあげようか?その方が採集効率も上がるでしょう?」
「ありがとうございます。
でも大丈夫ですよ。街の近くに出る魔物くらいなら時間も掛からず倒せますから」
「ん~そう?でもねぇ」
「リーリアさん達は僕なんかと違ってもっと強い魔物の討伐依頼で引っ張りだこなんですから、そっちに行ってあげてください。
じゃあ、行ってきます」
「あ、ちょっと」
手を振って、ささっと冒険者ギルドを飛び出す。
リーリアさんは優しいんだけど、心配性なところがあるよね。
…………
「はっはっは。振られちまったな」
「うっさいわね。そんなんじゃないわよ。
分かってるでしょ?今のままじゃマズいのよ。」
「そりゃあ、まあな」
笑いながら話しかけてきたギルドマスターのゴルマンをキッと睨むリーリア。
その顔に呆れながらゴルマンが頭を掻く。
「だが、失敗する前に助けてたら成長しねぇだろ」
「それも分かってるわ。でも取り返しのつかないことになる前に誰かが教えてあげないと」
「そうかもしれん。だがそれを自力で乗り越えられないとどっちみち冒険者として大成することはない。そういうもんだ。
ま、あいつの場合いざとなったら働き口は幾らでもあるだろ。それこそ引く手数多だ」
「それは、そうだけどね」
「心配するなとは言わんが、過保護はいかんぞ。
俺達先達は、あいつが泣きついて来た時に助けられるよう準備だけしておいてやろうや」
「ええ」
そう言ってカイが出ていった扉を見送るのだった。




