第13話 少年は掃除を終わらせる
シェリスさんから渡された板はただの木の板に持ち手を付けただけの簡単なものだ。
まずはそれを排水溝の壁に沿って動かすと泥のような手ごたえが返ってくる。
続いて救い上げるように持ち上げるとしっかりとヘドロが取れた。
それを横の鉄でできた台の上にべちょっと落とす。
この頃にはもう鼻が慣れてしまったのか、臭いはあまり気にならないので、延々とこの繰り返しだ。
そうして台の上にヘドロの山が出来上がった頃には、ほとんどヘドロが取れなくなった。
ため池の水は、相変わらず濁ったままで、中は見通せない。
うーん、一応言われた内容は達成できたと思うんだけど、すっきりしないな。
何かないかなと思って周りを確認すると綿毛草が生えていた。
これは使えそうだ。普通に自生しているだけみたいだし、数本拝借してしまおう。
綿毛草というのは猫じゃらしに似た草なんだけど、それ以上に穂先が綿みたいにふわっとした1メートルくらいの草だ。
その茎を半分くらいのところで切って穂先をため池へと浸す。
「生活魔法で水を操ってっと。おっ、予想以上に上手くいったな」
ため池に残っていた淀みが綿毛草に吸着することで、ぐっと水が澄んでいく。
綿毛草を引き上げれば、綿毛だったところがヘドロの塊になっていた。
それもヘドロの山の横に置いておく。
改めてため池を見れば池の底が見えるくらいまで綺麗になっていた。
「よし、ここまで綺麗になれば良いよね。じゃあ、シェリスさんを呼んで。
っと、その前に多分体に臭いが染みついてるから『浄化』。……あ」
生活魔法で臭いや汚れを取り払ったら、その余波でため池の一部も綺麗になっていた。
振り返って反対を見ればヘドロの山もぬめりが無くなっている。
おかしいな。今使った生活魔法にそこまでの効力はなかったはずなんだけど。
「って、そうか。汚れの原因が魔石だから、魔力に反応しやすいのか。
だから綿毛草にもあんなにヘドロが付いたんだね」
「ご名答~」
「え、だれ?」
突然の声に振り替えると、気だるそうな女性が店の裏口から顔を覗かせていた。
「ベルよ。シェリス達の母親で錬金術師で依頼主ってところね。
ポーション作り終えて休憩しようと思ったら店の裏から魔法の気配がしたから覗いてみた訳」
「なるほど、僕はカイです」
「ええ、表の話は聞こえてたから知ってるわ。
それよりもあなた、さっきの魔法は光属性の中級魔法、かしら。
その年でそんな高位魔法が使えるってことは退魔師とか聖騎士とかのアビリティ持ちなのね」
退魔師?聖騎士?
またよく分からない言葉が出てきたけど、僕がそんなのな訳がない。
それにさっきの魔法は誰にでも使える単純なものだし。
「さっきの魔法はただの生活魔法ですよ」
「はぁ?生活魔法がそんな強力な訳ないんだけど。もしかしてずば抜けて魔力が高いってことなのかしらね。あと考えられるとしたら何年も熱心に使い続けてきたかね。
「あ、それなら5歳から使い続けてますから」
なにせバーラさんは綺麗好きだ。
薬を作るうえで自分自身が汚れていると薬に悪影響が出るって言って、最初に教えられた魔法の一つがさっきの『浄化』だ。
使えるようになってからは、毎食事の前、採取後、調合前後と最低でも1日に7回は自分に向けて使っていた。
多分そのおかげで上達したんだね。
ベルさんはまだ納得していない顔をしていたけど。
「まぁ良いわ。ひとまず依頼はもう達成で大丈夫。むしろ期待以上の事をしてくれたから多少色を付けてもらえるようにするわね」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、また2,3か月もすると汚れが溜まってくるから依頼を受けてくれると助かるわ」
「分かりました。その時は優先的に受けるようにしますね」
お礼を言ってお店の前に戻ると、ホルル君とシェリスさんが店番をしていた。
「お、お兄さんもう帰るのか?」
「うん、次の依頼もあるしね」
「そっか、大変だな」
「あ、カイ君待って。多分服や体に臭いついてるから、そのまま行ったら嫌がられ……あれ?クンクン。全然臭くないわね」
シェリスさんが首を傾げながら僕の肩口の臭いを嗅いでいた。
ん、ちょっとくすぐったい。
「さっき浄化の魔法を自分にかけておきましたから」
「へぇ、浄化魔法。器用ね。私も覚えようかしら」
「いいと思いますよ。そんなに難しい魔法でもないですし。
っと、じゃあ僕はもう行きますね」
「ええ、今日はありがとう」
「じゃあな、お兄さん」
僕はホルル君とシェリスさんに手を振ってお店を後にした。
ふぅ。最初の依頼ではこれから大丈夫なのかと心配になったけど、今度は無事に終わってよかった。
この調子で次も終わらせよう。




