第25話「堅い守り」
余裕の表情で紬のいる方を見つめて笑みを浮かべているアマテラスに、燐が剣を手に斬りかかる。
「私たちを忘れてもらっては困るぞ。」
それを、右手の先に作った透明な障壁で軽々と受け止めて彼女は嗤う。
「奴以外、妾の敵ではないわ。」
手を軽く振って燐の剣を跳ね上げると、纏った着物の裾を翻しつつ回転蹴りを叩き込む。
飛龍の腕装でそれを受けるも、燐はあまりの衝撃に吹き飛ばされる。
「羽虫共が。格の違いをわきまえよ。」
そう言って自分の周りを囲む守護隊を見回すアマテラスに、燐は悔しそうな顔をしつつ、ロベルトとアイコンタクトする。そして、背後にいるアリシアとレイに指でサインを送り、ブースターの出力を上げて一気にアマテラスに向けて突撃する。
そのサインが意味するのは、この守護隊の常套手段。
アリシアの人形とレイの弾幕で相手を釘付けにし、燐とロベルトが接近戦を仕掛ける。
燐は、アマテラスに向かいながら紬の方を一瞬見て、再び彼女に目を向けるのであった。
──君が来るまでの時間は稼ぐさ。
紬は、凌一の亡骸を抱え、アマテラスの方を睨みつけていた。
「お前は…絶対に俺が倒す……。」
そう言って手に力を込め、フェリスティナに呼びかける。
「フェー、凌一をアンダーフォートのどこか安全なところに転移させてくれ。」
「……わかりました。」
心中を慮ってか、落ち着いた声で彼女は応え、すぐさま紬の手の中の凌一を転移させる。
「ロベルトさんの畑の近くに転移させました。」
「わかった。それじゃあ……。」
改めて頭上で守護隊と戦う神を見据え、言う。
「仇をうつぞ。」
「はいっ!」
そう言うと、紬は敵の元へと一気に飛び出した。
「飛ばして行く。」
光学迷彩で姿を消しているアリシアは一言呟き、大きく手を広げる。
「人形達の行進」
彼女の幻影解放に呼応するように、正面に数10体の人形が現れる。
「狙撃手は散開してレイの援護。騎士と格闘家は体調とロベルトを援護して。」
その指示に呼応して、人形達は動き出す。その様子をアリシアは息を殺して見守るのであった。
「アリシア、飛ばしてるねっ!」
アマテラスの周囲をランダムに旋回しつつレイは呟く。
「アリシアの人形がいるなら全力には早いから……。まずはウォーミングアップだよっ!」
アマテラスに向けた手の先から、多数の光線が断続的に放たれる。
一部は動きを妨げるように、一部は直撃を狙って。
同じような狙いでアリシアの狙撃手が射撃をしているのを見て、レイは満足そうな顔をする。
その弾幕の隙。用意された道をロベルトと燐は飛ぶ。
前を駆けるアリシアの人形に隠れるようにどんどんアマテラスに迫る。
「ええい、鬱陶しいぞ!」
アマテラスに直撃するレーザーは、全て障壁に受けきられ、彼女にダメージはない。
「羽虫が騒ぐな。」
そんな彼女に、次々とアリシアの騎士と格闘家が殺到する。
「天岩戸。」
横に手を広げた彼女の周囲に障壁が現れ、人形はそれに激突して動きを止める。
それを確認し、広げた腕を胸の前で交差させて体を反らしつつ大きく広げる。
すると、弾けるように障壁が吹き飛び、人形が吹き飛ばされて姿を消す。
「もらったっ!!」
その障壁が消える一瞬を待ち構えたように、ロベルトが斧をアマテラスに向けて振り下ろす。
「惜しいな。」
アマテラスの手には祭祀用の剣がいつの間にか握られており、それで軽々と斧を受け止める。
「私も混ぜてもらおうか!」
せり合うロベルトの様子を見つつ、燐がアマテラスに斬りかかる。
それも、もう1本の剣で受け止められる。
「ロベルトッ!」
燐の声に彼は応じ、ふたりはアマテラスから一旦距離をとると、同時に突っ込み、斬りかかる。
『おおおおおっ!!』
ふたりの気合が響く中、苛烈な連続攻撃をアマテラスは踊るように剣で受け流す。
金属同士がぶつかる音が響き渡る中、その中に復活したアリシアの人形とレイのレーザーも混じり、徐々にアマテラスの動きに余裕がなくなってくる。
「人形共が厄介じゃな。」
遠くからビームを放ってくる狙撃手と、まとわりつくように攻撃してくる騎士や格闘家を見て、彼女はひとつの方向をちらっと見る。
「黒子はそこかっ!」
両手を振って障壁をつくり、燐とロベルトを遠ざけると、さきほど見つけた方向に向けて手を翳す。
「天ノ御柱」
その手の先から生えるように現れた光の柱が、真っ直ぐ、高速でアリシアのいる方へと向かう。
「嘘っ!?」
アリシアは、咄嗟に体を捻るも、ブースターを打ち抜かれて地面に向けて落ちていく。
「アリシアッ!?」
レイが咄嗟にそちらに向かって全力で飛び、地面近くで受け止める。
アリシアが撃ち抜かれた瞬間に、彼女の人形はその姿を消す。
「カカッ…。まずは1匹。」
嘲笑を浮かべるアマテラスに、下の方から雷の弾丸が迫る。
慌てた様子もなくそれを障壁で受け止めると、先ほどの嘲笑から一転。獲物を見つけた捕食者のような目になり、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「来おったか。」
その言葉に反応するように、紬が彼女の前に飛び出し、雷の剣で斬りかかる。
それを障壁ではなく、自身の剣で受けてアマテラスは言う。
「あやつは残念じゃったのう。大人しく貴様を殺しておれば、妾に殺されることなどなかったものを。」
「黙れえええええっ!!」
紬の力のこもった一撃も軽く受け止めると、少し力を入れて紬の剣を跳ね上げ、虫でも払うように手を振って障壁で彼を押し返す。
「まあもっとも、貴様が死ぬことに変わりはないんじゃがな。」
そう言って嗤う彼女に、怒気を孕みつつ突撃しようとする紬を燐が制す。
「落ち着け紬くん。がむしゃらにやって勝てる相手ではない。」
「……はいっ。」
ひとつ深呼吸をする紬。
すると、通信が入る。
「アリシアは撤退させたよ!気を失ってたけど怪我は大丈夫。アタシはもう戻れるから援護射撃するね!」
レイの声に燐は安堵し、改めて自分たちをみて嘲笑を浮かべるアマテラスを見て呟く。
「さあ…。どうするかな……。」




