第22話「7本目」
-2527年10月12日-AGF極東支部第五階層-理事長室-
旧東京偵察戦から無事帰還した紬は1日体を休め、極東支部の理事の元へと作戦の報告にやってきていた。
「以上が、旧東京地区の現状です。」
紬の報告を聞き終え、名古理事は腕を組んで考え込む。
「報告から鑑みるに、やはり旧東京がヒトの巣であることは間違いないであろうな。各支部と話し合って攻撃作戦をするかを決めるとしよう。ご苦労だった、神楽紬。」
「はい。あの、名古理事」
紬は、ふと名古の座っている椅子の後ろにある扉が気になったため、思わず声を出す。
「――その扉はどこに続いているんですか?」
その質問をした瞬間に名古は目を細めて静かな、しかし重みのある声で言い放った。
「お前は知らなくていいことだ。報告が終わったならば出ていけ。わたしはまだすることがある。」
「し、失礼しました…。」
その声音から明らかな拒絶と静かな怒りを感じ、紬は慌てて理事室を出た。
そして、扉を閉める直前にもう1度気になったものを見る。
「あの扉、階層エレベータの奴と同じような……?でも、極東支部は5階層までしかないはずだよな…。」
その紬の呟きに答えるものはいない。
-2527年10月14日-AGF極東支部第四階層-中央司令室-
「ヒトの動きが少し活発になってきましたね。」
司令室で偵察以降極東支部の出撃状況を眺めて紬が呟く。
「数も少ないから向こうも偵察のつもりだろうがな。あのくらいの数なら空偵隊で事足りるさ。」
偵察の日以降、剣士型や、番人型のヒト数体編成が極東支部上空に毎日来るようになった。それの迎撃のために毎日のように空偵隊の出撃が続いている。
つかの間の穏やかな日々は幕を下ろしまたヒトや神を警戒することとなったが、以前と変わったことが確かに存在する。
いつ攻め込むか、どのように地上を取り戻すか。旧東京の偵察によって明らかになった地上の実状からその議論を行えるようになったことだ。
それは紛うことなき大きな1歩であり、極東支部全体の士気は上がっていた。
「そういえば紬くん、フェーの検査が終わったようだ。第三階層まで迎えに行ってやってくれ。」
「ああ、そういえばそうでしたね…。了解しました。」
撤退の際に傷ついた武装の検査のため、フェリスティナごと三千世界を研究所にあずけていたのだ。
そのことを思い出し、紬は少し億劫そうに第三階層へ向かうのであった。
同日-AGF極東支部第三階層-VL第1研究所-
研究所へ到着した紬は受付で身分の確認を受けて奥の会議室に通された。
椅子に腰掛けてフェリスティナを待つ間に、紬はかねてからの謎について考えていた。
「三千世界の背中の7本目…。あれはなんなんだろう…。」
今回の検査のついでにその件に関しての調査もお願いしていたため、そこでなにかわかればいいなと思いながら待っているとドアが勢いよく開いて女の子が飛び込んできた。
「紬さーーーんっ!お久しぶりですっ!!」
その勢いのままガバッと抱きつかれ、紬は目を白黒とさせながらグイグイと引き剥がそうとする。
「たかが数日ぶりだろ!離れろっ!!
」
そんな2人の様子を見て、研究所の職員はコホンと咳払いをする。それをきき、紬はフェリスティナの頭をペシッと叩いて黙らせた。
彼女は不満そうな顔を向けつつもしぶしぶ紬の横の椅子に腰掛けた。
「検査の結果ですが、異常はありません。消滅した部位も回復していました。もういつでも実戦に出すことが可能だと思われます。」
その報告を聞いて安堵した紬は、別の問いを職員に投げかける。
「よかったです。それで…。例の件に関してはなにか…?」
「七つ目に関しましては、こちらではなにもわかりませんでした。」
「そう…ですか。」
少し落胆した顔をしつつも、紬は内心その結果で当然だとも思った。
以前、三千世界そのものであるフェリスティナに聞いても本人がわかっていなかったのだから。
ぴったりとまとわりついてくるフェリスティナを振り払うようにずんずん歩き研究所を後にした紬に、彼女が紬の腕をギュッと掴みながら問いかけてくる。
「ねえねえ紬さん!今からどうするんですか??」
上目遣いと目を合わせないようにしながら、紬は少し考え込む。
「ロベルトさんの畑に行ってみようかな。」
悩んだ時は体を動かすにに限る。
そう考えた紬はその足でロベルトの畑へと向かっていた。
「こんにちはーっ!!」
畑に着くと、紬よりも先にフェリスティナが大きな声で挨拶をしながらロベルトの方へ駆けていく。
彼は手に持っていた鍬を起いて彼女の方を見て、後ろから入ってくる紬に気がついて2人の方へ歩み寄ってくる。
「よう、どうした。」
「少しお手伝いさせてもらえないかと思いまして。」
紬の申し出にロベルトはフッと笑い、畑を一瞥する。
「それじゃあ、そこら辺の草むしりでも頼もうか。」
ロベルトの言葉に頷き、紬とフェリスティナはしゃがんで草をむしり始めた。
1時間ほど無心で草を毟っていると、周りはもう毟るものがない綺麗な状態になっていた。
「ご苦労さん。」
軽く息をはいて一息ついた紬に、ロベルトが声をかけてペットボトルの水を差し出してくる。
「ありがとうございます。」
立ち上がってそれを飲み、乾いた喉を潤す。
「なにか悩みでもあるのか。」
ロベルトが唐突に問いかけてきた的確な言葉に思わず噎せる。
「ケホッ…。わかりますか…?」
「ああ。丸わかりだ。俺が聞けることなら聞くが?」
そう言われ、紬はロベルトに悩みを打ち明ける。いつまでたっても抜けない7本目のことを。
それを聞いたロベルトは腕を組んで考え込む。
「今使えないということは、まだその時ではないということだろう。お前の技量は神との戦闘を経てずいぶん上がってきた。それで使えないということは、今がその時ではないということだろう。自分と自分の機体を信じろ。それが先へと繋がっている。特に、お前の機体は―――」
ロベルトがチラッと畑の隅でホースを使って無邪気に水で遊ぶフェリスティナを見る。
「あのフェリスティナなんだから。」
つられて紬もフェリスティナの方を見ると、彼女もそれに気がついたようで紬に向けて大きく手を振る。
それを見て紬の顔は少し綻んだ。
「そうですね。これまでここでやってきたことと、あのバカを信じることにします。」
自分の方を見て笑っている紬を見てフェリスティナは首をかしげて、手を口に添えて叫ぶ。
「なにか言いましたかー?紬さーん!!」
「なんでもねえよーっ!」
紬も同じようにそれに答えて先程よりもいい笑顔を浮かべる。
心につっかえていたものがスッと落ちた気がした。




