第21話『旧東京』
-2527年10月11日-地上-東京都県境付近-
進むこと数時間。紬とレイは旧東京の県境直前までたどり着いていた。
そこで一旦地面に降り、燐と通信してをしている。
「はい、ここまで通った街には異常はありませんでした。どこも廃墟、ヒトもいなかったです。」
『そうか。と、なるとやはり東京には何かがあるとしか思えんな。ヒトがどこから現れるのかなどの謎が解けるやもしれん。そちらの準備ができたら東京に入ってくれ。くれぐれも気をつけて。』
「了解しました。」
通信を切り、紬は一息つく。
「紬くんどうする? もう行く?」
「そうですね…。フェー、日の出まであと何分?」
「日の出ですか?うーんと…。あと15分くらいですかねー。」
「そうか…。だったらもう行きましょう。日が登る前にはある程度偵察を終えてしまいたいですから。」
その言葉にレイは頷き、スラスターを起動した。
「行こう、東京!!」
レイのその言葉を合図にふたりは旧東京に侵入した。
かつては夜になっても街灯やビル、車のライトで煌々と照らされていたらしい東京は、今や夜の帳が降ろされてそこを照らすものは夜空に浮かぶ月と星だけだ。
低空を飛ぶふたりの目には道路に放置された車や自転車が飛び込んできて、そこに確かに人が存在していたということを感じさせられる。
そして、今はもうそれを使う者はいないということも。
しばらく進んでビル群に差し掛かったふたりはこの偵察で初めての異様な光景を目撃することとなった。
それを目撃したふたりは、近くの建物の屋上に降り立ち、夜闇の中で目を凝らす。
「なんだろう…あれ…。」
「白い塊…?」
紬とレイが見ているものは、ビルに張り付くようにして存在している大量の白い塊。
それぞれが人間ほどの大きさで、びっしりとビルの外壁を埋め尽くしている。
「ヒトの反応……。」
フェーが何かに気がついたようにボソッと呟き、その声には驚愕の色が浮かぶ。
「ヒト…ヒトですっ!あの白いの全部からヒトの反応が!!」
「ヒト…なのか…。あれが…。」
空が少し白み初め、遠くのビルの姿も見えるようになる。
そして、それらのビルすべてにびっしりと白い塊がついているのだ。
「近づいてみよう!」
レイがそう言ってスラスターを吹かす。
「えっ、レイさん!?」
「アタシたちの役目は偵察だよ!あれがヒトならよく見とかないと!!」
レイに引っ張られるように紬も近くのビルの白い塊へと近づく。
近くで見るとそれはまるで繭のようで、中が少し透けている。
薄い明かりの中で目を凝らして中を見ると、ヒトらしき影が膝を丸めて座っている。
「これは…。ヒトはこういうふうに造られているのか…?」
紬は動揺しながらも、周りのビル群を見回す。
これと同じことがすべてで起きているのなら、数万ものヒトが今この東京で眠っていることになる。もしも、これらが同時に生まれ、襲いかかってきたらという想像をして、紬は冷や汗を流す。
「レイさん、別のビルも確認しつつ隊長に通信を送りましょう。」
紬達は東京上空を飛行しつつ燐に通信を送る。
「――と、いうわけで数万のヒトが東京のビルで製造され、その出撃の時を待っているようです。」
『ふむ…。』
紬の口から聞かされる報告と、フェリスティナを通して送られてくる東京のビル群の現状に、燐は腕を組んで考え込む。
『十中八九東京は現在神の拠点となっているようだな。今すぐに破壊できるだけ破壊しろと言いたいのは山々だが、どこに神が潜んでいるかわからん。刺激する前に撤退しよう。帰ってくるまでが偵察任務だ。油断するなよ。』
燐との通信が切られ、紬はレイの方を見る。目が合ったレイは頷いて、体を撤退する方向へと向ける。
「フェー、索敵は任せたぞ。」
「お任せ下さいっ!」
フェリスティナの力強い声と共に、紬とレイはスラスターを吹かして東京からの離脱を開始する。
と、少し進んだところでフェリスティナが声を上げる。
「レーダーに動体反応あり! 後遠方に神と正体不明のヒトと思われる反応です!」
「遠く…。ヒトならまだしも神との交戦はまずいから、気づかれてなければこのまま離脱しよう! 」
紬とレイはスラスターの出力をさらに上げ、一気に離脱を試みる。
グングンと速度が上がり、あと少しで東京の県境を抜けられるというところで紬は、背後から嫌な気配を感じて目線をそちらにやる。
「っ!?四番!」
腕と脚に追加の装甲を顕現させ、急速で左斜めに飛行軌道を逸らす。
そんな彼の肩、追加した装甲を抉りながら2mほどの巨大な黄緑色に輝く光線が横をすり抜ける。
気づかずにそのまま進んでいれば、間違いなく捉えられたであろう軌道であった。
「紬くんっ、大丈夫!?」
レイの慌てた声が紬の耳を打つ。
「ええ、大丈夫です!このまま抜けましょう!フェー、損害は?」
「追加装甲が少し消滅しただけなので問題ないです!」
フェーの損害報告に紬は安心したように息をつき、いっそう速度を上げてその場を離脱するのだった。
チラリとビームの出どころを探った紬は、遠くで黄緑の光が輝いたように見えた。
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「おい、外れてんじゃねえか。」
どこかのビルの中で、座っている男が窓際にいる男に声をかける。
「この距離の狙撃でやられるくらいならとっくに死んでるさ。」
気だるそうな声でその手に持っていたライフルを空気に溶かして消す。
そして、かわりにポケットから煙草を取り出すし火をつけて紫煙を燻らす。
声音とは裏腹に、その表情には満足げなものがあった。
男はひとつ息を吐いて座っている男の方に向き直り、問いかける。
「そんなあんたはこんな所で油売ってていいのか?なんかすることあるとか言ってたろ。」
その言葉にバツが悪そうな顔をして座っている男は立ち上がり、窓の方へと歩き出す。
「不手際であいつに逃げられて探してんだ。この世界のどこに逃げたのか皆目検討がつかねえんだよな…。」
「そうかよ。せいぜい計画とやらに支障が出ないようにな。だいぶ大詰めなんだろう?」
冷ややかな言葉を浴びせられて男は男は舌打ちをし、窓に手をかけ外へ飛び出すと額のあたりから光を放ち、その姿を消した。
「ふん……。」
残された男は煙草の煙を吐き出しながらぼさぼさの頭を掻き、ふたつの機影が遠ざかっていった方を見つめていた。




