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天罰戦線の殺神者  作者: 有栖
第六章『旧東京偵察戦』
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第20話『出撃』


-2527年10月10日-AGF極東支部第四階層-中央司令室-


全部隊への作戦通達から数時間。未明からの出撃であるため仮眠をとった紬は、出撃のために中央司令室へとやってきていた。


「紬君、レイ。改めて作戦の概要を説明する。今回の作戦は偵察作戦だ。低空を飛行するなどの方法をとって極力戦闘を抑え、東京にたどり着け。ヒト共に気づかれないのがベストだ。そして、東京の状況を確認してフェーを通して我々に状況報告をする。いいな?」


紬とレイが頷くと、燐は続けて話始める。


「ふたりでは無理な戦闘状態に陥った場合はすぐに撤退。また、神と出会った場合も即時撤退だ。生きて帰ることも目的だ。偵察で死んではいけない。そこの徹底だけは頼んだ。私か咲は必ず通信可能な状態でいるから、なにかが起きたらすぐに連絡するんだ。」


そう言うと燐は時間を確認し、一層厳しい表情となってふたりに告げた。


「時間だ。紬、レイ。武運を祈る!」


「はいっ!」

「いってきまーすっ!」


その返事を合図にしたように、ふたりの体はフェリスティナの転送によって、地上へと放たれた。


地上へ出た紬は秋の夜の冷たい空気を感じた。

その直後に重力に引かれるのを感じ、慌ててヴィトレイヤーを展開する。


「三千世界!!」


スラスターを吹かして空中姿勢を安定させ、レイの姿を探す。

人のいない地上の夜は、星と月明かりのみに照らされて遠くまで見渡すことはできない。

そんな夜闇の中、少し離れたところにスラスターの明かりがあった。


「紬くん、いこっか!」


その明かりの主はレイのヴィトレイヤー、ユリアⅢ型改であり、紬に通信を送ってきた。


「はい、行きましょう。フェー、進行方向にヒトは?」

「反応なしです!」


フェリスティナのレーダーで敵の存在がないことを確認し、スラスターを吹かして低空飛行を開始した。

そのすぐ後ろにレイも追随して進む。


かつて人間の都市だったものを下に見ながら、紬とレイは東京を目指してひたすら進んでゆく。


眼下に広がる人間の都市であったものは、どこを見ても破壊され、そこかしこから植物が生え、まるで廃墟のようになっている。そこには動物はいるようだが、ヒトの姿はない。


旧浜松市近辺まで進んだものの、ここまでヒトの反応がレーダーに映ることすらなかった。


「ヒトすらいませんね。」


「そうだねー。ずっと飛んでるだけだからなんかつまんない!」


レイは戦闘がないことに少し不満であるように頬を膨らませる。


「レイさんって戦闘好きですよね。どうしてなんですか?」


その様子を見てふと疑問に思った紬は、それをそのまま口に出す。

が、そのような内容は神災のときの出来事などに直結するため尋ねることはまずかったかと直後に後悔した。


しかしそんな紬の心境とは裏腹に、レイはあっさりとその答えを口に出す。


「戦ってるときは生きてるって感じがするからかなー。」


「生きてる感じですか?」


「だって、元々地上で生きてたのにお日様も見れずに地下にいて怯えながら目的もなくギリギリの生活をしてると、ほんとに生きてるのかわかんなくなるんだよね。でも、戦ってるときは地上を取り返すためなんだって目的のために動くことができる。そんな、自分が目的をもって生きてるんだってことを思い出させてくれる戦闘がアタシは好きなんだ!」


生きている感じがしない。

レイが言った言葉の意味を紬は考える。

神から逃げるために人自ら逃げ込んだ地下。そこで、神の影に怯えながら地上を夢見てその日を暮らす。明日があるかは神のみぞ知る。

確かに、生きていることを実感することや生きている実感をすることは難しいのかもしれない。

しかし、地上での戦闘は間違いなくあるかわからない明日を切り開く行為だ。

神に死を与えられるのを待つだけの受動的な日々より、自らの明日を切り開く戦闘。そこにレイは生きがいのようなものを感じているのだと、紬はそう思った。



おおよそ静岡県の真ん中に差し掛かったところで、フェリスティナが紬に声をかける。


「敵か!?」


紬が警戒体勢をとるものの、フェリスティナの口から出た言葉はそのようなものとは全く関係がなかった。


「向こう、向こうに富士山があるんですよね!日本一高い!」


フェリスティナによって操られたスラスターによって、紬の体がとある方角に向けられる。

夜であるから見ることはできないが、間違いなく富士山のある方向だろう。


「ああ…そうだな…。」


闇の向こうにあるであろう富士山を思い、紬は自分の入隊のきっかけともなっているあの日の事を脳裏に浮かべる。

自分の目的が神への復讐であることを改めて感じるために…。



日の出を拝む見ず知らずの人の笑顔、両親の笑顔、妹の笑顔。改めて思い出すとやはりフェリスティナに似ている。

人知を超えた出来事に対する困惑と恐怖。突如巻き起こった死の嵐。叫ぶ人々。焼き尽くされる人、泣き崩れる人、死に逝く家族、『白い服の人』。


「っ!?」


初めて見るはずの映像が、あの日の記憶と共に彼の頭に浮かび上がる。


両親の死に混乱する妹、錯乱する自分、『周りを満たす液体』、浮かびながら笑う神、『額に開く目』。



「なん…だ…?この記憶は……。」


自分の中に知らない誰かが混ざっているような感覚に紬は無気味さを覚える。


「紬くん、行くよー!早くしないと夜が明けちゃう!!」


「すぐ行きます!」


レイの呼びかけに慌てて応えてすぐにスラスターの出力を上げてレイの後ろを追う。


「今度は晴れたお昼に見れるといいですね!」


フェリスティナの声を無視し、紬は不気味な記憶を反芻する。


しかし、断片的過ぎるその記憶は深いところまでみようとすると霧のように消えてしまい、掴むことはできない。



任務が先だとそれを胸にしまいこみ、紬は先を急ぐ。

目的であるかつての大都市へ向けて。






***************


‐同日‐AGF極東支部第?層‐???‐


「覚醒の時は近いようだ。」


「イレギュラーもあるが、恙なく事は運んでいるだろう。」


「絶望と勇気を糧に我らが救世主は覚醒する。」


「そして箱舟は進み出す。」


「世界を知り、襲い来る絶望とともに箱舟は完成される。」


「大願成就の時は近い。」





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