第9話 いつもついてきた
男爵家の外をレイは一人で歩き回った。
ダルゴアの中心部。市場。冒険者ギルド。
これまで住んでいたエリアに歩いてけるので、道に迷うことはなかった。
いつもと同じように、色々な人に話しかけた。
「失礼だが、その仕事はどのくらいやっているのだ」
「そうなのだな。それは知らなかった。面白いな」
しかし、ある日のことだった。
人通りの多い大通りを歩いていると、フェリクが不安そうに辺りを見渡しながら立っていた。
後ろから声をかける
「フェリク」
ビクっと跳ねたフェルクが振り向いて
「お、おまえどこいってたんだよ」
「何か探しものか?」
「いや、ちげぇよ」
「ではなぜここにいるのだ」
「たまたまだ」
フェリクは顔を背けた。
「それより、お前は一人で街を歩くな。絶対にトラブルになる」
「そうだろうか」
「そうだ。見てればわかる」
フェリクはそう言いながら、ちらりとレイを見た。
「まったく……俺には関係ないのに」
そう呟いて、歩き出した。
「着いてこい」
「なぜだ」
「うるさい。着いてこい」
レイは頷いた。
「わかった」
「わかりました、だ」
「わかった」
「……お前は本当に」
フェリクが言葉を止めた。口の端を上げた。
「まあいい」
それから、フェリクはレイの後をついてくるようになった。
「お前は一人で歩くとトラブルになるからな」
それがフェリクの口癖になった。
レイが市場に行けば、フェリクがついてきた。
レイがギルドに行けば、フェリクがついてきた。
レイが知らない路地に入ろうとすれば、フェリクが止めた。
「やめろ。そっちは危ない」
「なぜ知っているのだ」
「この街の力関係くらい把握してる」
「なるほど。それは知らなかった。面白いな」
「面白がるな」
しかし、フェリクは毎回ついてきた。
文句を言いながら。ため息をつきながら。
それでも、ついてきた。
ある夕方。
二人で屋敷に戻る道を歩いていた。
フェリクがぽつりと言った。
「お前、楽しそうだな」
「うむ」
「何がそんなに楽しいんだ」
「自分と違うものは面白いな」
「違う?」
「色々な人がいる。色々な話がある。それは楽しい」
フェリクがレイを見た。
「母親が死んだばかりなのにか」
レイが少し間を置いた。
「母上は今を生きて目の前の人を助けるために生きていた」
「うむ」
「だから、私も、今を生きて目の前にいる人と話す」
フェリクが黙った。
しばらく歩いてから、小さく言った。
「……変なやつだな」
「そうか」
「でも」
フェリクが顔を背けたまま続けた。
「悪くはないかもな」
これがフェリクとの始まりだった。
口だけ達者でビビリで小物で文句ばかりで。
しかし、いつもついてきた。
「お前は一人で歩くとトラブルになる」
そう言いながら、いつも隣にいた。
レイには、まだ、わからなかった。
この口だけ達者な少年が、後に、自分の人生を、変えることになるとは。




