第3話 目が大人みたい
「……」
私が目を開けた。
黒い髪が汗で額に張り付いていた。透き通った薄い色の目がゆっくりと、母を映した。
母が私を見つめていた。
涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
「レイ……?」
私は母を見た。
新しい体で、新しい母を、見ていた。
何が起きたのか、わからなかった。
しかし、目の前の女性が必死に自分を呼んでいることはわかった。
「レイ……レイ……!」
母が私を強く抱きしめた。
涙が止まらなかった。
私は母の胸の中で目をじっと開けていた。
赤ん坊なのに、まるで大人のような、静かな目で。
母がしばらくして、ふと笑った。
涙の中で笑った。
「この子の目……なんか大人みたい」
それから、また、私を強く抱きしめた。
「でも、生きてる」
「生きてる」
「ありがとう、レイ」
「生きてくれて、ありがとう」
私はこうして、二度目の人生を始めた。
百年前、ハクレンとして死んだ私が
今度は、レイという名で、生きていく。
母上の、息子として。
物心がつく頃には、百年前の記憶は、すべて自分のものとして、抱えていた。
百年前のことも、王として生きた日々も、最後の戦場も。
しかし、それを母上には伝えなかった。
母上は私をただの自分の息子として、愛してくれていた。
その愛情を汚したくなかった。
だから、私は、レイとして生きた。
百年前の私と、今の私は、ひとつの魂だ。
ひとつの記憶だ。
ただ、体が、変わっただけ。
名前が、変わっただけ。
無愛想で無表情でしかし母上だけが私の口角と眉の微細な変化から、感情を読み取ってくれた。
「あなたは本当に変わった子ね」
母上がよく、そう言った。
「でも、私の息子よ」
「それで、十分」
そう言って、私を抱きしめてくれた。
母上は知らない。
私の中に百年の記憶があることを。
しかし、それは関係なかった。
母上が私を生かしてくれた。
そして、その魂は、今、レイという名で、母上の前にいる。
それで、十分だった。




