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第23話 公爵の身内

その一言で世界が動き始めた。


王子がゆっくりと、起き上がった。


鼻血が口の周りまで流れていた。


唇を震わせていた。


「貴様……」


声が震えていた。


しかし、それは恐怖ではなかった。


怒りだった。


これまでの人生でこれほど屈辱を受けたことはなかった。


それも、自分と同じ体格の、子供に。


「貴様、何者だ」


王子が立ち上がりながら言った。


「私はレイだ」


レイが淡々と答えた。


「先ほどから、聞いている」


「それ以外、特にない」


「ふざけるな」


王子が絹のハンカチを取り出した。


鼻を押さえた。


ハンカチがすぐに赤く染まった。


「貴様らをまとめて……」


その時。


「お待ちください、王子殿下」


凛とした声が響いた。


通行人の人垣をかき分けて、一人の男が現れた。


ヴィクターだった。


ベルナード公爵の、筆頭執事。


ヴィクターは市場のどこかから、急いで駆けつけてきたようだった。


レイたちが市場に出かけることを心配して、見守っていたのかもしれない。


ヴィクターが王子の前に進み出た。


そして、地面に両膝をついた。


両手を地面につけた。


額を地面に押し付けた。


土下座だった。


公爵家の筆頭執事が王子の前で土下座した。


「王子殿下、誠に申し訳ございません」


ヴィクターの声が地面に響いた。


「ベルナード公爵の筆頭執事のヴィクターと申します。こちらの少年は公爵の、ご親族の者でございます」


王子の動きが止まった。


「公爵?」


「はい」


「ベルナード公爵?」


「左様でございます」


王子の顔がわずかに青くなった。


ベルナード公爵。


王国の三大公爵の一人。


王族にも、堂々と意見できる、王国内屈指の権力者。


差別主義の派閥である王族と、反差別主義のベルナード公爵。


両者の関係は複雑だった。


ここでベルナード公爵の親族と、王族の第一王子が市場で衝突した。


公にできない、政治的な衝突だった。


ヴィクターが額を地面につけたまま、続けた。


「主人はすぐにお詫びに参る所存でございます」


「公爵が……」


「お時間をいただければ、必ずや、王子殿下のもとへ」


王子がしばらく、黙った。


それから、深く、息を吐いた。


ハンカチで鼻血を押さえながら。


「……公爵の身内なら、仕方ない」


低い声だった。


「だが、無罪では済まないぞ」


「もちろんでございます」


ヴィクターが頭を上げた。


「お裁きは王城にて、お待ちいたします」


「ふん」


王子がレイをじろりと、見た。


「貴様の名前は覚えた、レイ」


レイは王子の目をまっすぐ見ていた。


「このままで済むと思うなよ」


「……」


「二度と、この王都に足を踏み入れるな」


レイは何も答えなかった。


王子が顔を背けた。


取り巻きに合図を出した。


「行くぞ」


「はい」


取り巻きの一人が革製の首輪を慌てて懐にしまった。


慣れた動きでしかし、今度は逆方向に。


王子の一行が立ち去っていった。


通行人も、波が引くように、散っていった。


その場にレイ、フェリク、アシェ、ヴィクターだけが残された。

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