表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/25

第24話 逃げなかった

ヴィクターが立ち上がった。


服についた埃を軽く払った。


それから、レイの方を向いた。


「本当に本当にとんでもない御方ですよ、レイ様は」


レイが頷いた。


「世話になった」


「いえ」


ヴィクターが頭を下げた。


レイがそれから、フェリクとアシェを見た。


フェリクはまだ地面に座り込んでいた。


足が震えていた。


アシェはフェリクの隣で震えていた。


涙の跡が頬に残っていた。


レイが二人に近づいた。


「立てるか」


フェリクがレイを見た。


しばらく、何も言わなかった。


それから、ゆっくりと、口を開いた。


「お前、何やったんだ」


「少し押したんだが」


「押しただけ……?」


レイが頷いた。


「お前の押すって、そういう押し方じゃないだろ」


「そうなのか?」


「人がふっとぶほど押すって、普通じゃないだろ」


「そうなのか」


レイが首を傾げた。


「普通の押し方、というのを知らなかった」


「お前は本当に……」


フェリクが深く、息を吐いた。


それから、ふっと笑った。


苦笑のような、しかし、安堵のような、笑いだった。


「……助かった」


「うむ」


「ありがとう」


レイが小さく頷いた。


アシェがレイを見ていた。


何も言わなかった。


ただ、見ていた。


レイがアシェに手を差し伸べた。


「立てるか」


アシェがその手を握った。


ゆっくりと、立ち上がった。


声が震えていた。


「あんた、王子に押しただけ、って」


レイは黙って聞いていた。


「あんたバカぁ……」


アシェが泣きながら、笑った。


「本当にバカ」


「そう言われるな」


「ありがとね」


アシェの尻尾が外套の下でわずかに動いた。


それはふさふさと、揺れていた。


「あんたがいてくれて、よかったわよ」


レイが目の奥をわずかに和らげた。



ヴィクターが咳払いをした。


「皆様、ここは人目につく場所でございます」


レイが頷いた。


「公爵様にご報告を」


ヴィクターが先に立った。


レイ、フェリク、アシェがその後を歩いた。


フェリクはまだ足が震えていた。


しかし、歩いていた。


アシェは外套を深く、被り直した。


帽子も、深く、被った。


しかし、その尻尾は外套の下でまだ揺れていた。


公爵家の屋敷へ、戻る道。


夕暮れの王都を四人が歩いていた。


魔石ランプの街灯が夕日に紛れて、淡く灯り始めていた。


通行人は何も知らず、歩いていた。


しかし、レイたちの世界は変わっていた。


フェリクがぽつりと言った。


「俺、王子に逆らったぞ」


レイが頷いた。


「俺、王子の命令を断ったぞ」


「……」


「……俺、逃げなかった」


「うむ」


フェリクがレイを見た。


「逃げなかった」


レイがもう一度、頷いた。


「逃げなかったんだぞ、俺は」


フェリクの目から、涙が溢れた。


しかし、それは苦しい涙ではなかった。


アシェがフェリクの肩を軽く叩いた。


「あたしは王都にいちゃいけない汚物だけどね」


「そ、それはしょうがなかったんだ」


「わかってるわよ。本当にかっこよかったわよ、あんた」


「な、なにを」


フェリクは顔を真赤にした。


「あたしも、バカだったしね」


アシェが苦笑した。


「気を緩めた、罰よ」


「お前のせいじゃない」


「ううん」


アシェが首を振った。


「あたしの、せい」


「違う」


「あんたたちを巻き込んだ」


「違う」


フェリクがはっきりと、言った。


「お前のせいじゃない。差別する奴らが悪い」


アシェがフェリクを見た。


それから、ふっと笑った。


「あんた、ほんと、変わったわね」


「うるさい」


フェリクが顔を背けた。


しかし、その耳がまた更に赤くなっていた。


レイは二人の少し後ろを歩いていた。


その目の奥がわずかに和らいでいた。


夕日が王都の街並みを赤く染めていた。


魔石ランプの光が徐々に強くなっていく。


その光景の中を四人が歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ