第19話 すごい
午後。
レイはフェリクとアシェを連れて、王都の市場へ出かけた。
ヴィクターは心配そうに見送った。
「お気をつけて」
レイが頷いた。
アシェは外套を羽織り、帽子を深く被っていた。
耳も、尻尾も、しっかりと隠していた。
「……どう?」
「目立たない」
レイが淡々と答えた。
フェリクがアシェを見た。
「お前、しっかり隠せよ」
「わかってるわよ」
「この街では本当に気をつけろ」
「うん」
アシェが頷いた。
その目には緊張が滲んでいた。
しかし、同時にわずかな興奮もあった。
夢に見ていた、王都の市場。
それを見られる。
市場は賑やかだった。
色とりどりの店が並んでいた。
果物、香辛料、布、装飾品。
商人たちの声が飛び交っていた。
「新鮮な果物だよ!」
「南方産の絹だ!」
「サングラディアの最新魔石!」
人々が行き交っていた。
貴族の使用人らしき身なりの女性。
ローブを着た魔術師らしき男。
商人。冒険者。家族連れ。
様々な人が思い思いに店を見ていた。
香辛料の匂い、焼き菓子の甘い香り、革製品の独特の匂い。
色々な匂いが入り混じっていた。
「すごい……」
アシェが帽子の下から、声を漏らした。
「これが王都の市場……」
目が輝いていた。
スラムの露店とは規模が違っていた。
売られているものも、人々の身なりも、すべてが新しい光景だった。
アシェの尻尾が外套の下でわずかに揺れた。
レイがそれを見て、目の奥が和らいだ。
「歩こう」
「うん」
三人で市場を歩き始めた。
アシェが香辛料の店で立ち止まった。
「これ、見たことない香辛料……」
レイが見た。
「このにおい、すごいわ」
「ご両親に買って帰るか」
「いや、高すぎるわよ」
「私が出そう」
「いいわよ」
アシェが慌てて首を振った。
「なんであんたが出すのよ」
「私はいま金を持っているぞ」
「持ってればいいってわけじゃないでしょ」
アシェが苦笑した。
「あんたって本当に変な子ね」




