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そういうところですよ、聖女様。  作者: 石動なつめ


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恋とはどんなものかしら? 上


 という事でカウフマンと恋仲だというフリをする事になったノエルだが、スタート間もなく大きな壁にぶち当たっていた。

 内容はもちろん恋仲――というか恋についてだ。

 ノエルは恋をした事がなかった。しかも誓言の聖女になってからずっと、娯楽の制限をされているので、恋だの愛だのなんて聞きかじりの知識程度しかないのだ。

 これは困った、どうしよう。誓言の仕事の合間の休憩時間、それに気づいたノエルは難しい顔で「ううむ」と唸っていた。

 すると向かいの席でマカロンを食べていたカウフマンが少し首を傾げる。


「ノエルさん、どうしましたか?」

「恋について考えておりました」

「恋ですか?」

「はい。世の恋人達は普段、どのような過ごし方をしているのかなぁと」

「ふむ?」


 恋仲のフリをするにあたって、ある程度の知識は必要である。

 なるべくボロを出さないためにも――カウフマンに全部フォローされてもそれはそれで何だなかなぁと思うので――多少は知っておきたいと思ったのだ。

 一応、ノエルもいくつかは考えている事がある。だいぶ昔にカウフマンを拝み倒して借りた恋愛小説に、恋人が手を繋ぐ描写や、見つめ合うと素直にお話が出来ないというような描写があった。たぶんあれが正しい恋仲の作法の一種だ。

 しかしながら、そこから得た知識はあまりに少ない。明らかにレパートリー不足である。アルヴィンとエミリアの前で披露しようものなら、一回か二回でストックが尽きるだろう。

 それはさすがにまずい。そんな事をカウフマンに話すと、


「世の中の恋人がそういう事をするのは、ごく短い期間だけですよ。熱しやすく冷めやすい、それも恋です」


 と身も蓋もない答えが返ってきた。

 ふふ、と笑う彼にノエルは半眼になる。


「さすがにそれでは困るのでは?」

「まぁ困りますねぇ」


 まったく困った素振りもなく、しれっとカウフマンは言った。

 まぁ、人生の先輩が言うのだ。それは確かにそういうものなのだろう。しかしそれでは本当に困るのだ。


「カウフマン様の恋って、そんな感じだったので?」

「私ですか?」

「はい。私、恋だの何だのにはまったく縁がないので、出来れば恋とはどんなものかご教授いただきたいです!」


 ノエルが軽く手を挙げて頼むと、カウフマンが何とも言えない顔になった。

 いつも何かを聞けば、一言も二言も多いがちゃんと答えてくれるカウフマンだ。なので今回もと思っただけなのに、何だかいつもと反応が違う。


「カウフマン様、お顔が面白い事なっていますよ」

「私の顔を面白いと言うのはノエルさんくらいですよ」

「いつもはどう言われているので?」


 興味本位で聞くと、にっこりと輝くような笑顔を言葉の代わりに返されてしまった。

 何だか眩しさを覚えて、ノエルは手で目を守る。

 その様子が面白かったのか、カウフマンはくつくつ笑う。


「しかしこの顔が面白いのならば、私は普段ノエルさんからどんな顔に見られているのやら」

「イケメンとかいう奴だと思いますよ。皆さんそう仰っていましたし」

「フフ、それは光栄ですね。ちなみにノエルさん的にはどうですか?」


 周囲に聞いた評判をそのまま伝えると、カウフマンはそう聞いてきた。

 まぁ確かに整った顔をしているなと言うのはノエルも思う。でなければ女性から黄色い声援を受けたりしないだろう。

 顔は良いし、役職持ちだし、稼ぎも良いし。口と性格の悪さに目を瞑れば、カウフマンはイケメンの部類だ。


「恐らくイケメンなのではないかと」

「なるほど。ではそこから『恐らく』を取りましょう。それが恋です」

「恋愛経験は皆無ですが、何か違う気がしますね!」

「ハハハ」


 一瞬信じかけたノエルだったが寸でのところで踏みとどまった。危ないところだった。

 ノエルがジト目になっているとカウフマンは、

 

「ですが完全に違うというわけでもありませんよ。世間一般の容姿の評価はともかく、好きになったらその人が誰よりも素敵だ、と思うのが恋ですから」


 今度は柔らかい――優しい表情でそう教えてくれた。

 まるで誰かの事を思い出して話しているというような、そんな顔だ。

 こういう表情はノエルは見覚えがあった。誓言を求めてやって来た人々が、大切な人の病や怪我が治った時にする顔だ。

 相手を慈しむ、そんな表情である。ノエルは誓言の仕事をする時に、人のそういう顔を見るのがとても好きだった。


「カウフマン様、お顔が」

「おや、面白いですか?」

「いえ。今のお顔は綺麗だなと思います。私が好きなお顔です」


 素直にそう思ったので言えば、カウフマンが面食らった顔になった。


「す、好き、ですか?」

「はい。誓言を受けにいらっしゃった方のお顔と同じです。良いと思います」

「ああ……なるほど。少々判断に迷いますが、ありがとうございます」


 若干動揺した様子のカウフマンだったが、ノエルの言葉を聞いて苦笑してそう言った。ついでに「そういうところですよ、本当に」と呟いている。

 何がだろうかとノエルが首を傾げていると、


「おーい! ただいまー! 買い出ししてきたぜーい!」

「ただいまー! ただいまー! ついでに忍び込もうとしていた人を捕まえてきたよー!」


 と、外出していたクラナカンとクロテッドが帰って来たーーのだが。

 何やら不穏な言葉が聞こえた気がして、ノエルとカウフマンは「えっ?」と聞き返した。


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