新しい護衛 上
あれからアルヴィンがやって来る頻度はぐっと下がった。以前は三日に一度だったのが、七日に一度になったのだ。
まぁそれでも婚約者でも友人でもないノエルが王族とお茶をするなんて、回数としては多いのだが、ひとまずノエルはホッとしている。
ついでにカウフマンのイライラも減ったので、そこも良かったなぁとノエルはしみじみ思った。
さて、そんなある日の事だ。
ノエルはカウフマンからとある人物の紹介を受けた。
「私の護衛ですか?」
「そうです。以前に私が、ここ最近賊が出ているというお話をしたのは覚えていますか?」
その言葉にノエルはピシリと固まった。
すっかり忘れていた。確かそんな話をされた気もする。
ノエルはスッと笑顔を浮かべ「もちろんです!」と答えると、カウフマンから即座に「ダウト」と言われた。
嘘の看破が早過ぎる。
「いえ、だって、色々ありまして……。というか賊ってクラナカンさんの事かと思ったので……」
「まぁ近い事は近いですね。その賊は吸血種を名乗っているのですよ」
「カウフマン様の言い方だと、実際にそうかは微妙なんですね?」
「その通りです」
カウフマンは頷いた。
彼の話では、ここ最近、吸血種を名乗る賊が現れ、近隣の街や村を荒らしているのだそうだ。
根深い差別を受けている吸血種達だ。もしかしたら長年の積もりに積もった怒りや恨みをそういう形で発散している可能性は、確かにある。
しかし目撃証言を集めると、その賊達は血を使って行使する特異な力を一度も見せていないらしい。
ついでに言うと怪我人も出ているがいずれも軽傷で、荒らされた街や村も被害額は少ない。そういう意味でも奇妙らしい。
「普通は使いますよねぇ」
「ええ、私もそう思います。騎士達が対応して追い払った事もありますから、危険だと思えばその力を使うはず。しかしそれがないとなると、ただ吸血種を名乗っているだけではないかなと」
「なるほど、なるほど」
「それでですね、計画の件や諸々で私が護衛を離れる事が時々あるでしょう? その間に聖女様に何かあっては困るので、護衛を増やそうと思たのです。この間も突破されましたからね」
「あー……」
たぶんクラナカンが侵入してきた一件を言っているのだろうなとノエルは思った。
あれは見事だった。誓言の館の警備は厳重なのに、それを掻い潜って彼はやって来たのだ。本職の騎士を相手に、あれはなかなかの技術と度胸である。
うんうん、と思い出していると、
「というわけで念のためです。ご紹介させていただいても?」
と聞いてきた。まぁカウフマンの推薦なら、実力も計画上でも問題ない人物なのだろう。
なのでノエルは頷いた。
「はい、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。――――では、入ってくれ」
カウフマンがそう呼び掛けるとドアが開く。
そして中に入って来たのは、見覚えのある赤毛の陽気そうな少年と、同じく赤毛をリボンで結んだ少女だった。
「ようノエル! この間ぶりだなー!」
「ノエルさん、こんにちは!」
「クラナカンさん、クロテッドさん!?」
そう、吸血種達の街で出会ったクラナカンとクロテッドの兄妹だ。
ノエルが驚いてクラナカンを見ると、彼はイタズラが成功したような笑顔を浮かべていた。
「というわけで、この二人が今日から聖女様の護衛につきます」
「えっ、あの、えっ、カウフマン様、今は現実ですよ!?」
「仰る通り、現実ですねぇ」
あわわ、あわわと慌てるノエルを見て、カウフマンはくつくつ笑う。
クラナカンとクロテッドもにこに笑顔だった。
「この間カウフマンさんが来て、護衛の仕事に興味がないかって言われてさー」
「ノエルさんへの恩返しがしたかったし、吸血種でも良いならってオーケーしたの!」
そう話す二人にノエルは目を瞬いたあと、カウフマンを見上げる。
彼は「そういう事です」と頷いた。
「一応、二人の実力は実戦で確認済みですので、ご安心を」
「カウフマン様が確認したんですか?」
「死ぬかと思ったよ俺達」
「そうそう、手加減しないんだよ、カウフマンさん」
「ああ、それはしなさそうですねぇ」
ノエルは真顔でそう言った。
このカウフマンという男は仕事で手を抜くような事はしない。
なので護衛の仕事を任せるにあたって、相手の実力の見極めはしっかりしそうである。
それにしてもカウフマンが認めるくらいだとは、この兄妹はすごいなとノエルは思った。
クラナカンは何となく分かったが、クロテッドもそうだとは意外だった。
それにしても吸血種でも護衛の許可が出るとは驚いた。
ノエル自身、相手が吸血種だろうが別の種族だろうか気にしないが、上や周囲はそうではないだろう。
そう思ったので聞いてみると、
「ああ、今のところ吸血種という事を知っているのは、計画の仲間だけです」
とカウフマンは言った。
「本当は堂々と言いたいのですが、まだ地盤が整っておりませんので。そこは追々ですねぇ」
「ま、俺達もそれは分かってるからなー。その辺り、ほんっとまだまだ面倒よねぇー世の中って!」
「なるべくバレないように気を付けて動くから安心してね!」
クラナカンとクロテッドは胸を叩いてニッと笑った。何とも頼もしい限りである。
そんな三人を見ていて、ノエルは自然と顔がにやけて行くのが分かった。
「そ、そうですか……えへ、えへへ……。ありがとうございます、お三方」
「聖女様に喜んでいただけて何よりです」
ノエルがお礼を言うと、カウフマンもにこりと微笑んだ。
それはノエルがあまり見た事がないようなとても優しい笑顔だった。




