鍛冶師リュウレイ(47)
夕方の仕事終わり、いつもならここで頼れる姉貴分二人、リュウレイとリュウフォンに連れ立って村の共同浴場で汗を流して帰るところだった。しかし、今日は違う。なぜなら、昼間工房の食堂に現れた姫長一家はその後も、工房にとどまり夕食もここで食べることになっていたからである。おまけにカンショウが下宿する姉姫一家もリュウレイの姉リュウシュンに招かれていた。
そうなると必然、カンショウもまた食堂で皆と一緒に取ることになる。明日の晩はリュウ家にお泊りすることで許可をもらっているカンショウとしてはこんな展開もありなのかなとつい心が高鳴るのを感じていた。
姉姫アルスフェローの顔を見た姫長メイシャンは思いっきり顔をしかめていた。それもそのはず、当代の姫巫女であり北の地に並ぶもののない彼女の唯一苦手なものはかつての姫巫女候補の一人であり、姉でもあるアルスフェローその人だからだ。
今回も子供のこともあり、姫長不在の時は村の留守を預かるのが炎の王族である姉姫アルスフェローの役割でもある。それに、宴会に参加するのは工房関係者だけであり、病床の村長や小さい子供のいる家庭はやはり参加を見送るほかない。
それでも姫長が秘密裏に事を運ぶのは、リュウレイの独り立ちを祝いたい気持ちが強いからでもある。これだけ多くの人が秘密を共有しても一切の情報漏れがないのは相手がリュウレイだからだろう。
普段から何かと村人たちの注目を浴びる彼女に対する団結力は意外に強い。それだけ問題を起こしたり、話題になったりする反動であろうか。要は信用がないのである、まだ頼りないとかいう以前に。
それはリュウフォンや新入りのカンショウとて変わりない。この若さを持て余した三人娘は鍛冶師の村の宝であり、問題点そのものでもあった。
彼女たちが今後どう成長していくかは別として、今はリュウレイの独り立ちの儀に臨むために団結する彼女たち三人を見守ろうというのが村人たちの出した結論であった。
それはさておき、小さな子供を抱えたアルスフェローとリュウシュンは話が弾み、そこにルタとカレオラを加えた女性陣で盛り上がっている。
リュウレイたちと姫長メイシャンたちは一足先に村の共同浴場に向かうことになった。いくら浴場が広いとはいえ、何十人と行けば手狭になる。それゆえの配慮であろうか。
道中、銀髪緑眼の姫長を前に若干緊張気味のカンショウはリュウ家の兄妹に左右を囲まれて、硬い笑顔でそれに答えていた。リュウレイとリュウフォンはそれを見守りながら、ともに破顔する。
一人娘だったカンショウはまだ慣れないながらも自分より小さい子供たちの相手は大好きなようだった。村の子供たちもそれがよくわかるのか、合間を見てはカンショウに話しかけているのをよく見かけた。
「カンショウも大人気だな」
「そうだね――」
リュウレイたちはどこか誇らしげな思いを抱きつつ、先を進むカンショウ達の後を歩く。その隣を進む姫長メイシャンはいつもと様子が違い、ほぼ無言の様子であった
「義姉さん、どうかしたの?」
気になったリュウレイが声をかけると彼女は視線を向けてくる。
「いや、何もないぞ」
「そう、ならよかった」
会話はそれで途切れる。そういえば、食堂を出てカンショウの後姿を見てからどこか心ここにあらずの様子だったと思い起こす。
――なんだろうね?
隣のリュウフォンに視線を合わすもその答えは見つかりそうになかった。そうこうしているうちに共同浴場についてしまう。
「今夜はみんなでお風呂なのじゃ――」
「あ、はしゃぐと足元が滑りますよ、ちび姫様!!」
一足先に服を脱ぎ捨てたリュウサンと服を脱ぐことには一切の抵抗がない見事な脱ぎっぷりのカンショウがあとに続く。
カンショウの少し慌てた後姿を目に焼き付けたリュウレイはどこか顔をほころばせる。
――はは、二人ともまだ子供だな。
見れば、隣のリュウフォンもその見事な胸元を晒して微笑んでいる。
――うん、私は恵まれている。この地上の誰よりも恵まれている!
よくわけのわからない充実感に浸るリュウレイの前を息子を抱いた姫長メイシャンがあきれ顔で通り過ぎて行った。
「ねえ、母上。リュウレイ、どうしたのかな?」
「放っておけ、あれは一生治らん気の病じゃ。近づくとこっちに移るわ」
「ふーん……」
母の言う意味が分からないリュウオウは首をかしげていた。それに気づいたリュウフォンの鋭い肘打ちがリュウレイの脇腹に突き刺さる。
「うぉ!」
「それくらいにしとかないと、本気でリュウオウ達に嫌われるよ――」
「いきなりひどいな、フォンは――」
かなり痛かったものの、気づけばふわりと浮かび上がったリュウフォンがリュウレイの唇をふさぎ、その柔らかい体をこれでもかというほど押し付けてくる。そんな彼女を愛しく思いつつ抱きしめ返していると、ふろ場の方からカンショウの呼び声が響いてきた。
「姐さ――ん、いい湯ですよ――!」
――二人だけで抜け駆けはなしですよ!
まるでそういわんばかりの彼女にリュウレイたちは笑顔を浮かべる。
「うん、わかった今行くよ!」
リュウレイが大声でそれに答えると同時に、全身が浮揚感とともに宙に浮く。そして笑顔のリュウフォンが叫ぶ。
「このまま、行っちゃおうよ! リュウレイ!!」
「面白いな、それ! 乗った!!」
解き放たれた浴室の扉を潜り抜け、リュウレイたちがそのままの勢いで湯船に飛び込んだ。大きな湯柱とともにもうもうと湯気が室内を満たしていく。
「子供なのはみなも変わらぬな」
お湯を盛大に被り、長い髪を髪留めでまとめなおした姫長メイシャンがあきれていた。
「リュウフォン、凄いのじゃ――!」
「フォン姐さん、ムチャしすぎですよ――」
リュウサンを抱いたカンショウが浴槽の中心で笑い合うリュウレイたちの方に近づいていく。楽しいひと時はまだこれからであった――。




