鍛冶師リュウレイ(44)
「じゃあ、お昼は義姉さんたちも工房に来るんだね」
「うむ、リコウや商人組合の者たちに呼ばれておるのでのう。いろいろ品評会の日に合わせてふもとの町での催しものを考えておるそうなのじゃ。まあ、その打ち合わせといったところじゃな」
朝食を食べ終えたリュウレイに姉のメイシャンがそう語りかける。子供たちは暢気なもので、いっぱい食べる――と大はしゃぎだ。
「ふふ、じゃあお昼はみんなで食堂に集合だね」
そういってリュウフォンが笑うと、彼女の膝の上に座ったリュウサンも喜ぶ。
「みんなでご飯なのじゃ!」
「ああ、みんなで一緒に食べような」
――カンショウにこの子たちと遊ばせてやるのも面白いかもな。
リュウレイがそんなことを考えていると、隣のリュウフォンにもそれが伝わったらしく、笑顔でうなずいていた。
朝食を終えたリュウレイは仕事道具を持って、リュウフォンとともにリュウ家の母屋を後にする。
「じゃあ、お昼は食堂で待っているからな。またな、リュウオウ、リュウサン」
「うん、いってらっしゃーい!」
「お仕事、頑張るのじゃ――!」
子供たちに笑顔で答え、リュウレイたちは歩きだす。
「やっぱり仕事して金稼がないと、なんか居づらいな――」
「そう、考えすぎじゃない?」
「いや、こっちのことだ」
単なる見栄の問題である、リュウレイとて子供たちの手前いい格好をしたいと思うものなのだ。そのためにはやはり先立つものは重要だった。それは隣のリュウフォンにも言えることだが――。
――やっぱりフォンに対してもいい所見せたいんだから、惚れた弱みだよな。
少し先を進むフォンのほれぼれする後ろ姿にリュウレイは思わず苦笑いする。誰が何と言おうとリュウフォンはリュウレイのものなのだ。今はまだこの思いだけは譲れそうにない。
「どうしたの? 私の方を見てにやにやしちゃって、何かいやらしいことでも考えていたんでしょ?」
リュウレイはしょうがないな――。
そんなつぶやきとともに村のあぜ道だというのに、リュウフォンはリュウレイに抱き着き口付けする。まあ、人影などまだ見かけないのだが。
「そうだな、でもそうじゃないと嫌なんだろ?」
「そうだね、私のリュウレイ――」
すっと体を離し、愛しい微笑みを称えたリュウフォン。彼女の照らす朝の陽ざしがリュウレイにはこれ以上になくまぶしく見える。その視線の先には目指す村の工房があった。
… … …
お昼より少し前、村の工房に二人の子供を連れた姫長メイシャンが姿を現した。彼女を見つけたリュウレイの姉、リュウシュンは笑顔で義姉メイシャンを出迎える。ちょうど、お昼前で手の空いていたリュウシュンは目を覚ました娘のリュウキョウをあやしている最中でもあった。
「いらっしゃい、義姉さん。お待ちしていましたよ」
「うむ、お昼はこちらで世話になる。今日はよろしく頼むぞ、シュンよ」
「はい、お任せを。腕によりをかけて作りますね」
リュウシュンが頷くと、腕の中のリュウキョウも笑顔で義理の伯母であるメイシャンに手を伸ばしていた。
「シュン――、僕たちも遊びに来たよ――!」
「ご飯なのじゃ――!」
黒髪緑眼の兄リュウオウと銀髪黒眼の妹リュウサンがそろって元気に声を上げた。メイシャンにリュウキョウを預けたリュウシュンはかわいい盛りのリュウオウ達の前に座り込むと二人の頭を撫でてやる。
「ふふ、二人ともいらっしゃいね。お菓子を用意してあるから、ごはんまで私と一緒に過ごしましょうね」
「うん、ありがとう!」
リュウオウが声を上げると、リュウサンはメイシャンに抱かれたリュウキョウに視線を向ける。
「サンもキョウを抱っこしてあげるのじゃ!」
まだ四つのリュウサンは自分より小さい子にお姉さんぶることが多い。そんな娘の様子をメイシャンはリュウシュンとともに微笑みながら、見守っていた。
「落とさぬように、しっかり抱いてやるのじゃぞ。サンよ」
「大丈夫なのじゃ!」
以外に力のあるリュウサンはリュウキョウを受け取ると笑顔で喜ぶ。
「キョウはとってもかわいいのじゃ――」
「あう――」
リュウサンに抱かれた赤ん坊のリュウキョウはことのほかご機嫌であった。リュウオウもそれに加わり子供たちは賑やかに過ごしている。それを見たメイシャンは安心した様子で、食堂の奥にある工房に通じる扉に視線を向けた。ちょうど、顔見知りの職員がメイシャンを迎えに来たようだった。彼に頷き返し、メイシャンは立ち上がる。
「それでは行ってくるぞ、しばらく待っているのじゃぞ」
「うん、わかった――」
返事をしたリュウオウの頭を撫でてから、姫長メイシャンは表情を改めて職員とともに食堂を出る。
「皆はそろっておるのじゃな?」
「はい、親方のリコウさんに商人組合の者たちも集まっています」
メイシャンの問いかけに若い職員はやや緊張気味に答えた。それもそのはず、姫長の名は商人組合にとっては炎神と同等に崇められているのだ。王家の末裔たる彼女の意向を背景にした北方の安定は商人たちにとって欠かすべからざること。
それゆえに、だれよりも当代の姫巫女であるメイシャンへの畏敬の念は強いものがあった。
事務所脇の客間にはすでに見知った顔が勢ぞろいしている。全員が深々と頭を下げる中、悠然と前を進む姫長メイシャン。
一番奥には姫長専用にしつらえた特別製の椅子がある。それに座ったメイシャンは厳かに告げた。
「では、これより我が義妹リュウレイ独り立ちを祝うの宴の打ち合わせを始める。皆心して、清聴せよ」
「ハハ――ッ」
こうして、リュウレイ本人のあずかり知らぬところでメイシャンの計画は着々と進行していた――。




