鍛冶師リュウレイ(33)
「それじゃ、お休みなさい! 姐さんたち!!」
「ああ、カンショウもゆっくり休めよ」
「また明日ね!」
共同浴場を出たときにはすでに辺りは暗くなりつつある、リュウレイたちの周囲にはリュウフォンが呼び集めた炎のせいによって赤く照らされていた。どうもカンショウが加わってから三人で話す時間が長くなることが多く、長湯になりやすい。
義姉や姉姫たちもそれは承知しているらしく、今のところお叱りはないがほどほどにしておかないととばっちりはカンショウにまで及ぶため、ある程度の線引きは必要だった。
姉姫の住まう館に戻るカンショウは一人になるのがよほど名残惜しいのか、何度も手を振っていた。彼女の周りもリュウフォンが命じた炎の精に守られているため、明かりに問題はない。
またルタ直々のお迎えがあるといけないため、そんな彼女を見送りつつ二人はリュウ家の母屋へと急いだ。ふわりとリュウレイのすぐそばに近づくリュウフォン。すでに人目はないとはいえ、遠目からは村のあぜ道を歩く二人の姿はよく見えるだろう。
しかし、そんなことはお構いなしにリュウフォンはリュウレイの唇をふさいでしまう。こんなことは以前にはなかったことなのだが、今はリュウレイも待ちわびていたこともありそれに応じている。
「ふふ、怒らないんだね。今日のリュウレイなんだかとっても優しい」
「いつも間違いだろ?」
そんなやり取りもリュウレイとリュウフォンの絆の深さ、あればこそだ。別にカンショウを袖にしているわけではない、彼女の存在がより一層リュウレイとリュウフォンの欲求を強めている結果といえるのだ。そういう意味では、菅家の娘のことを二人はうまく利用しているとさえいえるのだから。
一通り、お互いの欲求を叶えたところで二人は歩みを再開する。リュウレイは前を見たまま、自分の右手に絡みつきその豊満な胸の肉を押し当てるリュウフォンに問いかける。
「違和感の正体、なんか掴めたか?」
「リュウレイのほうはどうなの? 私はなんとなくわかってきたけど」
「お互い、何となくってわけか」
「そうみたいね、ウフフ――」
視線は交わさずとも、二人は自然と笑みを浮かべる。答え合わせは食事を終えて自室に戻ってからでも十分間に合う。それにしても――。
「カンショウのやつ、よっぽど私たちと離れるのが惜しいらしいな」
「だって、アルスのうちじゃ話し相手になりそうな人、いないでしょ? それにあの子はお話大好きだから、自分のことを語るのはそうだけど人の話を聞くのが何よりうれしいし楽しいんじゃないのかな?」
「まあ、お互いまだまだ世知辛い見習の身分だからな。遊びにかまけるわけにはいかないんだよな」
「そうだよね――」
リュウレイもカンショウに任せる仕事を考えてはいる。非力な彼女を鍛えるのは当たり前として、まずは金属を扱うことに慣れさせる必要がある。単純に言って、リュウレイの仕事の一つでもある細工物を手伝ってもらうつもりでいる。その際、売り上げから彼女に給金は支払うつもりである。これは親方や姉、姉姫たちにもまだ話していないことではあるが、みんな嫌とは言うまい。
何より、自分の力で金を稼ぐことの大切さと達成感は何物にも代えがたいことであるとカンショウにまず学ばせる必要がある。本来ならば一人の徒弟に過ぎないカンショウに対して大甘もいいところだが、それを無視しても構わない程にリュウレイはカンショウをかわいく思ってしまっていた。
まあ、実際の感情だけではなくこれからも彼女をかわいがるという下心あってのことになりつつあるが。それはリュウフォンも承知のようで、リュウレイへの過度な接触となって表せている。要は正解の行動に対するご褒美のようなもの、と受け取ったほうがよさそうだった。
「あ、うちの前に誰かいるよ。……待たせすぎちゃったかな?」
「ああ、そうみたいだ。あれはリュウサンだな――」
よく見れば、リュウ家の母屋の前で小さな子供が両手を上げて、大声でこちらに呼び掛けている。
「レイ――! フォン――! 遅いのじゃ――――!!!」
ご機嫌斜めなリュウサンを見たリュウレイたちは大急ぎで彼女のもとへと向かう。その後、姐からも怒られたリュウレイたちはごまかし笑いを受けべながら、なんとかその場を乗り切ったのだった。
今夜は禁足地探索の準備もあるし、ほどほどにしておこう。そう思うリュウレイとリュウフォンであった。
… … …
食事の後片付けや姉や子供たちとの話が終わり、リュウ家の離れに戻った時にはもう寝る時間も間もなくのことだ。部屋に戻り、食台の横に置かれた椅子に座り、リュウレイは一息ついていた。さすがに今日一日いろんなことがあり、その充実感とともに疲労感もまたこみあげてきたからだ。向かいに座るリュウフォンも同様だった。
「いや、なんか疲れたな。楽しかったけど」
「そうだね、リュウオウとリュウサンもいろいろお話してくれたもんね」
最近、帰りが遅いリュウレイたちに義姉の二人の子供リュウオウとリュウサンも寂しさを感じているらしく、いろいろとその日に会ったことを教えてくれる。そういえば、隣のリホウも二人と同じらしくしきりにその名前が出ていた。
今度会ったら、遊んでやらないといけない。リュウフォンも思いは同じようでリュウレイのほうを見てほほ笑むばかりであった。
「それじゃ、そろそろ休むか」
「そう、だねえ。うふふ」
ようやくこれからが二人だけの時間。リュウフォンは自分の身にまとう白い長めの布を切る時と同様に風の力を借りて、まるで天女のように徐々に体から離していく。その段々とあらわになるその白くなめかましい素肌をリュウレイは満足げな笑みとともに一つも漏らさないようにじっくりと眺めていた。
その間も自分の服を脱いで机の上に脱ぎ捨てていくのを忘れてはいない。要は時間も惜しい、ただそれだけなのだ。
やがて、お互いに無垢な姿をさらした二人は無言のまま、先ほど以上に強く互いの唇を奪い合い、寝台の上に転がり込む。
「ふふ、今考えていること、当ててみせうよか?」
いたずらっぽく笑うリュウフォンが言う。それを遮るようにリュウレイは自分より女らしい肉付きの彼女の体をただ強く抱きしめていた。
カンショウが風呂場で言い出したことはそのまま二人の思い出でもある。彼女がこの場にいたら、こんなものでは済まなくなるだろう。
やがて部屋を照らしていたカンテラの明かりがリュウレイの思念を反映して、徐々にその輝きを失っていく。
若い二人の夜はまだ終わりそうになかった――。




