鍛冶師リュウレイ(29)
笑顔で微笑みながら、先を促すカンショウ。そんな彼女を見たリュウレイとリュウフォンは思わず真顔で顔を寄せ合った。
無言で首を振るリュウレイにリュウフォンは答えることが出来ずにいた。
――この子は何を言っているの?
軽い混乱状態のリュウフォンの目の前で、カンショウは手に持つ二つの短剣をリュウレイに手渡し、少し下がって彼女を促した。
「さ、リュウレイ姐さん。私に見せてください、あなたの剣技とその短剣の切れ味を。私たちが初めて出会った、あの日のように――」
そういうカンショウは心なしか、頬を染めている。出会ったあの日と言えば、リュウレイがカンショウ相手にとんでもないことをしでかした日ではないのか。ようやくカンショウの意図が読めてきたリュウフォンはその発想に頭を痛めながら注意する。
「あのね、カンショウ。何を考えて……」
「わかった」
リュウフォンの言葉をリュウレイの返事が遮る。呆れるリュウフォンの眼の前で、リュウレイは真顔で諸手に短剣を構え、腰を落とす。
「気合い入れていくから、覚悟しろ。着替えはあるのか?」
「帰りにお風呂に行くから大丈夫です。それにまたリュウレイ姐さんが縫ってくれますよね?」
微笑むカンショウにリュウレイがいい度胸だと笑いを浮かべる。まるで肉食獣のような喜びに満ち溢れているのはなぜだろうか。まあ、さんざん今までリュウフォンがリュウレイを甘やかしてきたツケなのだろうが――。
「……行くぞ!」
「どうぞ……!!」
二人して何をしているんだろう。一人蚊帳の外に置かれたリュウフォンの寂しさをよそにリュウレイが風を切る速さで動き、その手に握られた二つの刃が宙を薙ぐ。
「……んっ」
どこか、なめかましい響きのある喘ぎとともにカンショウが力を抜いたその瞬間、少し薄汚れた作業着がいく筋にも切り裂かれ、音もなく開けていく。前身、薄い桃色に染まった少女の白い素肌が露わになり、リュウフォンは思わず天を仰いだ。
――二人して何をしているんだか。
頬を染めたまま、体を隠すことなくリュウレイを見上げたカンショウはそっと微笑んだ。
「ふふ、お見事です、リュウレイ姐さん! その短剣の切れ味、確かにこの身で味わいました。それにその匠な剣技にますます惚れ直しました! その二つの短剣はリュウレイ姐さんだと思って大事にします。ありがとうございました」
「うん、わかってくれればいいんだ。それじゃ、さっさと着替えを取りに……」
全裸のカンショウを見た恥ずかしさを取り繕うように、リュウレイが身をひるがえそうとしたその時、静かな怒りに満ちたリュウフォンの声が響き渡る。
「……二人ともそこに正座しなさい!」
「えっ?」
リュウレイとカンショウが二人揃って間の抜けた声を上げる。その視線の先には笑顔で静かな怒りを全身に湛えたリュウフォンの姿があった。そのあまりの迫力に二人並んで床に正座する。板張りの床の上は汚れているのでリュウレイが近くにあった布切れをカンショウの下に敷いてやり、なおかつ自分の上着を無垢なる姿のカンショウに掛けてやった。
「ありがとうごいます、リュウレイ姐さん――」
どことなく残念そうな響きを含んだカンショウの声が気になるが、それよりも二人を睨むリュウフォンの怒りを解く方が先だ。
「あのね、二人とも。いくら休み時間だからって、工房の一室でやっていいことと悪いことに区別もつかないの?二人の鍛冶と仕事に対する姿勢を怒っているんだからね、私は!」
「返す言葉もございません」
二人揃って土下座する。こういう時は素直にまず謝罪! その大原則を即座に実行するリュウレイとそれに倣うカンショウのこれからに頭を痛めながらリュウフォンは深く息を吐きだした。
「まあ、いいわ。カンショウの着替えは私が取ってきてあげる。リュウレイが言ったら、またリコウとかみんなに勘繰られるだけだよ。みんな、あなたの動きには目を光らせているんだから」
それだけ期待が大きいのだが、反面悪ノリすると止まらないのは義母譲りのリュウレイだ。警戒されて当然なのは自業自得。納得がいかない様子のリュウレイはほっておいて、リュウフォンはカンショウに抱き着いて耳元で囁く。
「こんな無茶は二度としたらだめだよ。一瞬、本気で心配したんだからね」
「ごめんなさい、リュウフォン姐さん。私、お二人のことが大好きで――」
涙ぐむ彼女の頭を撫でてやりながら、しばらく元気づけていたリュウフォンが気を取り直して、部屋の外に向かう。
「それじゃ、二人とも正座して待っているんだよ!」
それだけ言い残して、リュウフォンは出ていった。その後姿を見送ったリュウレイはようやく息を吐きだして緊張を解いた。
「少し調子に乗りすぎたな、お目付け役のフォンが怒るとは思わなかったけど」
「私もちょっと羽目を外しすぎました。でもリュウレイ姐さんがいけないんですよ? あんなに素敵なんだもの……」
まだ酔っている感のあるカンショウが両手で顔を隠して言った。それを見たリュウレイもまた朝方リュウフォンが抱いたのと同じ違和感を抱く。
――何だかカンショウも私たちに対しては懐きすぎているような?
決して嫌ではないのだが、それにしては心を開きすぎてむしろ油断している気がする。それを肌で感じるからこそ、リュウレイとリュウフォンも彼女のことが余計にかわいく感じてしまうのだ。いや、実際素直なカンショウはかわいいのだが。
「どうかしましたか、リュウレイ姐さん」
「嫌なんでもないよ」
閉じられた部屋の中、半裸のカンショウと並んで正座する自分が間抜けに思えてリュウレイは苦笑いする。そんなリュウレイを見つめるカンショウはどこかかわいく思えた。
「さて、フォンの奴速く戻ってこないかな?」
「そうですね――」
短い時間がまるで永遠のように長く感じられる。今日のことはさすがのカンショウも反省したらしい。リュウフォンが戻るまでの間、二人は無言のまま扉を見つめていた。
土日はお休みします。
再開は月曜日です。




