鍛冶師リュウレイ(23)
「……全く!オルセイ様にまでご迷惑をかけるとは何事だ、事と次第によってはお前だけで済む問題じゃないんだぞ!それをわかっているのか!?」
「わかってるよ、すべて承知の上さ」
声を荒げたのは親方リコウ、そしてその周囲には同じ工房で働く先輩たちもいる。皆一様に禁を犯そうとするリュウレイを詰問する形だ。それはそうだろう、この中の誰一人禁足地に赴いてまで、鉄を取ろうなどと考えたものはいないはずだ。
もっとも彼らはそうする必要がなかっただけで、リュウレイから後の彼らの子供の世代には必要になるかもしれない。それがわかるだけに、一番後輩で生意気盛りのリュウレイに先を越されることに嫉妬を露わにしている。このように男というか、北の鍛冶師は厄介な生き物なのだ。
その中の最たるものを義母に持つリュウレイもいずれはその中に入ることになる。だがここは一歩も引く気はない。すべては自分自身で選んだ道だ。なんと言われようと一片の公開もあるはずがなかった。
それに、これには以前親方リコウから言われた一言も大きく絡んでいる。
「親方、言われたとおり私は自分で自分の鉄を取りに行く。これで文句はないよな?」
居並ぶ男たちの視線を真正面から受け止めたリュウレイは、腕組みしたまま彼ら全員を睨み返した。それはまるで彼らを鍛え従えたあの女傑、鍛冶師リュウメイを彷彿とさせるにふさわしい風格を備えていた。
姫巫女の護衛者にして、当代随一の鍛冶の名家リュウ家の後継者。その二つの重い責を担うものこそが今のリュウレイなのだ。
「……ふっ!全くお前には敵わねえな、リュウレイ!!」
根負けしたように親方リコウが笑みを浮かべる。その顔を見たリュウレイは面白くなさそうにふんと鼻を鳴らした。いくら探しても見つからない鉄に焦りを感じたリュウレイが一番最初に相談した相手はこの親方リコウなのだ。
その時彼は突き放すようにこう言ってのけた。
「それくらい甘ったれんじゃねえ! 俺はな、たとえ自分のところにこの村で採れた鉄があってもお前にくれてやる義理はねえんだッ! そんなことをするくらいなら、自分のために使う。自分のことくらい、自分で何とかしてみろ! それができないなら、鍛冶師なんざ辞めちまえ!!」
「……その言葉、一生忘れんなよ! 親方!!」
これはカンショウたち南麓の民が戻って一週間ほど過ぎた頃のやり取りだ。仕事に追われ、探索に追われ疲れ果てたリュウレイの身にはこれが一番答える一言であった。恐らく周囲はこのころから、リュウレイが取るべき道が一つしかないことを知っていたに違いない。
――いつまでもたもたしていやがる!
そんな彼らの心の叫びが今にも聞こえてきそうな予感がした。一番の面倒ごとを押し付けられた感が無きにしも非ずだが、そんなことは承知の上での無茶なのだ。義姉には何といったものか、そちらの方が頭を悩ませているが多分何とかなるだろうという思いの方が強い。
「……話、そろそろ終わったの? 私もう待ちくたびれたんだけど」
少し不機嫌な様子のリュウフォンがリュウレイにまとわりつくように飛んできた。同じ食堂の片隅で、マクレベの売店からもらってきた果実酒とお菓子をカンショウやリュウシュンと一緒に楽しんでいた彼女がこの状況に一番腹を立てていた。
しかし、リュウ家のものとしてふるまうことはリュウフォンとて承知のことだ。ただし、弱いものや女のバカにする男は絶対に何があろうと許さない。それがリュウフォンの鉄の掟だった。
なぜならそれは、リュウレイがいつも実践していることだからだ。リュウレイが自分を守ってくれるように、リュウフォンも無力な女子供を守る。それが二人の約束事であり、密かに誓い合ったことでもあるのだから。
「話はもう終わりだ、俺たちも家に帰る。お前らも寄り道なんかするんじゃねえぞ!」
「余計なお世話ですよ――だッ!」
親方の捨て台詞にリュウフォンは舌を出して引き上げる彼らを見送っていた。それを見た男たちは口々にリュウフォンのことをまだかわいいもんだと笑っていた。
「やっぱり男って感じ悪いよね! ねえ、リュウレイ! 早くお風呂行こうよ、いやなことはさっぱりして忘れるのが一番だし!!」
「まあ、そういうなよ、フォン。あれが親方たちなりの激励なんだ、独り立ちすれば私はもう見習いじゃない。今までみんなが助けてくれたことを今度は自分一人でやらなきゃならないんだ。そして、カンショウみたいに後から入ってくる奴らの面倒も見なきゃならない。それは並大抵の覚悟でできることじゃないんだ。だから私が独り立ちすることがみんなへの一番の恩返し。それを忘れちゃいけないんだよ、私はな」
怒るリュウフォンにリュウレイはまるで自分に語り掛けるような静かな口ぶりで諭した。しかしそのはらわたは男たちへの怒りで煮えたぎっていたのもまた事実。
――やり返すなら徹底的に!
それが義母から叩き込まれたリュウ家の最大にして唯一の家訓だ。鍛冶師を志してからこっち、それを地で行くリュウレイは密かにほくそ笑む。
――私を敵に回したらどうなるか、今に見てろ! テメエら!!
こうしてリュウレイのとんでもない独り立ちの儀が始まったのである――。




