鍛冶師リュウレイ(19)
「おお、三人ともよく来たな……」
リシンに支えられて、体を起こした村長は弱々しいがはっきりとした視線をこちらに向けてくる。あれから何度か見舞いに来たものの、その衰えはもはや隠しようがないところまで来ているようだった。
「村長様、今日は聞きたいことがあってきたんだ。それと村の工房に新しく見習いが入ったからその紹介。さ、カンショウ」
「は、はい、わかりました!」
リュウレイに促されたカンショウが、村長の前に進み名乗りを上げる。
「商人組合と姫長様のご厚意でこの村にご厄介になることになりました、南麓の鍛冶師カンレイの娘カンショウと申します。未熟者ではありますが、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げるカンショウを見た村長は鷹揚に頷いた。
「うむ、皆から話は聞いているが南の者たちは苦労したそうだな。ワシの若い頃から、青の山嶺に住まう鍛冶師たちの話は聞いていた。しかし北の地の者たちは割と閉鎖的でな、自分たちこそが大陸で一番の業を持つと自負しておったのだ。しかし、肝心の鉄が取れなくなって、その地位も危うくなった。今のワシらは商人組合を通じて集める鉄屑に頼り、どうにか生業を立てているのが現状だ。そなたたちが運んでくる鉄こそが新たな生命線となる。どうか、この地で鍛冶の業を学び北と南の懸け橋となってはくれまいか、カンショウとやら」
村長はその節くれだった両手で、細いカンショウの手を握り訴えかける。名門カン家の娘としてこの地にやってきたカンショウは名工の呼び声名高い村長ゴウケイの切なる願いを聞き、涙を流してそれに応じた。
「わかりました、私も鍛冶師の家に生まれた娘。私にはカン家を再興するという望みもあります。ここにいるリュウレイ姐さんや村の工房の方たちと協力して微力なれども努力するとここに誓います!」
それを聞いたリュウレイとリュウフォンは思わず顔を見合わせる。近いという言葉が何よりも強く心を打ったからだ。
「ふふ、まるで少し前のリュウレイを見ているみたいだね」
「だよなあ――」
頷き合う二人をよそに村長は、カンショウを近くに招き寄せるとそっとその頭を撫でてやった。
「よくぞ言った、その年で親に先立たれるのは何よりつらいことであろう。ワシの孫も早くに二親を亡くして、寂しい思いをしたものだ。カンショウよ、そなたは先に死んだワシの孫の分まで長く生きろ、そしてリュウレイたちとともにこの村や故郷を盛り立てるのだ。それが老い先短い、この老いぼれの何よりの望み。頑張るのだぞ」
「……はい、わかりました。ありがとう……ございます、村長様!」
抑えていた感情が溢れだすかのように、カンショウは村長に抱き着いて泣き出した。村長はそんな彼女を優しくいたわるようになだめている。二人を見ていたリュウフォンももらい泣きしたのか、カンショウに寄り添うようにしている。
「うう、なんだか私も泣けてきたよ――」
「ふふ、リュウフォンも泣き虫だな。お前は人の心がわかる優しい子だからな――」
「おじいちゃん――!」
村長は困ったような笑いを浮かべ、そばにいるリシンやリュウレイを見た。
「さすがに私は泣けないな……」
「とか言いつつ、あんたも目が赤くなってるじゃないか。お互い素直じゃないね」
リシンの言葉にリュウレイは照れ隠しの笑いを浮かべるので精いっぱいだった。内心、かなり泣きたい気分ではあったのだが。リュウレイにはほかにすべきことがある、今はそれだけだった。
「ふむ……」
リュウレイの方を見る村長の視線が鋭さを増したのは気のせいではない。おそらく長年の勘から何を言わんとしているのか、察したのだろう。
その視線を正面から受け止めたリュウレイを落ち着きを取り戻し始めたリュウフォンとカンショウが不思議そうに見つめている。
それはリュウレイが望む独り立ちの儀、最後の準備のことについてであった――。




