鍛冶師リュウレイ(18)
騒がしいいつもの昼飯時、工房の食堂にリュウレイたち三人の姿があった。新顔ということもあり、厨房を手伝う村の女たちやほかの職員たちなどがかわるがわるカンショウのところに来て、いろいろと話をしているのを横目に昼食を早めに食べ終えたリュウレイは食堂を出る頃合いを見極めていた。
このところ、体調の芳しくない村長にあって確かめたいことがあったからだ。それにカンショウの顔合わせもある。多分リュウフォンもついてくるだろうから、話は手短に済ませねばならない。
それにしても朝の服作りの時の騒ぎは、やはりリュウフォンの差し金だったらしい。
――頑張って、リュウレイと仲良くなってね。
そんなやり取りを自分の知らないところでいつの間にか交わしていたリュウフォンとカンショウには頭が下がる。この先どんないたずらをされることやら。
仕事中のカンショウはまだ見習ということもあり、見学や細々とした雑用を少しずつ覚えていくしかない。しかし、幼い頃から父親の工房をあれこれと手伝っていた彼女はある意味、リュウレイより長く鍛冶を見つめてきた経験がある。これからの本人の努力次第で何とかなりそうだというのがリュウレイの見立てであった。
「それじゃ、そろそろ村長様のところに行こうか」
カンショウがようやく食べ終わったのを見たリュウレイが声をかけた。
「はい、わかりました。お待たせしてすみません」
「いや、これくらいは全然いいよ。みんなもカンショウのこと気に入ってくれたみたいだしな」
「そうそう! みんな気のいい人たちばかりだから、頑張ってね」
「はい、フォン姐さん!」
ふわりと宙に浮かぶリュウフォンはカンショウの背後に回り、その肩を叩いた。そんな微笑ましい二人のやり取りを見守りつつ、リュウレイも空の食器の乗ったトレーを持って立ち上がる。
――まるで、仲のいい姉妹みたいだな。
血のつながりはなくとも、そんなふうに思える関係はある。これからもっと絆を深めていけばいい、そうすればどんなことでも乗り越えていける。
目の前のカンショウを見つめながらリュウレイはそう思わずにはいられなかった。
… … …
「村長様のお宅って、共同浴場の近くだったんですね……」
よく晴れた静かな昼下がり、あまり人気のない村の中央に広がる広場の片隅にひっそりとたたずむ村長の家の前で短く刈り揃えた黒髪の小柄な少女カンショウが感慨深げに言った。
村長の家は工房を兼ねた母屋と棟続きの建物になっている。
かつてはこの場所で村長の家族は暮らしていたのだ。今、そこに住んでいるのは天涯孤独となった村長ただ一人ではあるが。
「あまり時間もないし、中に入ろう。今日はリシン姐の当番だから、中にいると思うけど」
後に続くリュウフォンとカンショウの二人を促して、リュウレイが入口の戸を開けて中に入る。
「おじいちゃん、元気だといいな……」
「そうですね……」
村長によくなついていたリュウフォンが小声でぼそりと呟く。この村の来た時から、何くれとなく面倒を見てくれた恩人だ。こうして顔を見せて話をすることくらいしかできない自分がもどかしいのかもしれない。
一方のカンショウもまた、身内を亡くしたばかりでリュウフォンの気持ちを察すると頃があったのだろう。しんみりとした二人をリュウレイが励ます。
「二人と、なんて顔してんだ!村長様がみたら、笑うぞ!とりあえず、笑っとけ!!」
「もう、リュウレイったらそういうところ、鈍感なんだから!」
リュウフォンが怒ると、リュウレイは笑いを浮かべる。とりあえずは普段通りを装っておけばいい。
「あんたたち、そこで何騒いでいるんだい?」
「す、すみません、お騒がせしました!」
リュウレイたちの話声を聞きつけたのか、隣の部屋からからリシンが出てきた。彼女を見たカンショウは慌てて頭を下げた。
「ああ、新しく工房に入った子だね。それじゃ、村長のじいさまに顔を見せに来てくれたのかい?」
「はい、よろしくお願いします!ええと……」
長身で黒髪のリシンを前にしたカンショウは少し緊張気味だった。そんな彼女を前にリシンは自己紹介を始める。
「私はリシンだよ、そこにいるリュウレイのお目付け役ってところさ。何か困ったことがあったら、遠慮なく相談しておくれ。特にリュウレイに関すること、とかね」
「え、えーと……」
リシンの冗談を真に受けて戸惑うカンショウ。それを見たリュウレイは深いため息ともにリシンに声をかけた。
「ああ、リシン姐。カンショウは根が真面目だからからかわないでやってよ」
「そうみたいだね、誰かさんと違ってね!」
それこそ、余計なお世話だと心の中で叫びつつカンショウを振り返る。
「この人は元傭兵でこの村の女たちの頭をしているリシン姐だよ。他にも二人、カリン姐とショウヨウ姐がいる。三人とも義母さんに鍛えられているからすごく強いんだ。暇な時に私にも稽古つけてくれるくらいだからな」
「そうなんですか、すごいですね!」
強い女性に憧れを抱くカンショウは目を輝かせた。その視線に照れたのか、リシンは取り繕うようにリュウレイに話しかける。
「ああ、村長のじいさんならさっきからお待ちかねだよ。早いところ、顔を見せてお上げ!」
「うん、それじゃ行こうか。二人とも」
リュウレイが頷いて、リュウフォンたちを促す。二人は頷き、リュウレイの後に続く。彼女たちの前には寝台に横たわる村長ゴウケイの姿があった――。




