鍛冶師リュウレイ(12)
眠ってしまったカンショウを背負ったリュウレイたちが戻ると、まだ工房の食堂にはそれなりに人が残っていた。その中心にいるのは言わずと知れた姫長一家の面々だ。それに工房の主だった人々も念願の鉄が搬入されたとあって、祝い酒に興じているのだろう。
――後でただ酒を飲む!
リュウレイの両眼に強い決意が宿る。そんなリュウレイたちを見つけた義姉がこちらを手招きする。
「おう、ようやく戻ったか。早く食事を済ませてしまえ、こんばんははわらわたちもここに泊まる。リュウオウたちも待ちわびて居ったぞ」
「リュウレイ、お帰り――!」
「お帰りなのじゃ――!!」
義姉に続いて、子供たちが嬉しそうにリュウレイたちを迎えてくれた。……その前にはすでに山積みになった皿が折り重なっていたが。さらに義姉の前には空き瓶が数本。
「ああ、カンショウを寝かせたらすぐに戻るよ」
「わたしもつきあうね」
リュウフォンに頷きながら、客間へと進む。途中、リュウキョウを連れたリュウシュンにあったが、リュウレイの背に眠るカンショウを見て、ほほえましそうに親子そろって笑っていた。
「リュウキョウも最近、ますますかわいくなってきたね」
人一倍、リュウキョウをかわいがるリュウフォンが笑顔を浮かべる。彼女にとってもキョウはかわいい姪っ子らしい。
「そうだな、大きくなったら食堂の看板娘になるぜ」
「そうだね――」
将来、工房の食堂を大きくしてさらには旅籠のようなものを作ろうと義姉とリュウシュンが話していたのを思い出し、リュウレイは頷く。人当たりがよさそうな顔をしてリュウシュンは結構な野心家だ。それは侍女であったころから大して変わっていない。
本人には自覚はないだろうが、常に人の先を目指しているところを見るにつけ向上心というか、商魂逞しいのは間違いないだろう。ある意味旦那のマクレベよりその思いは強いかもしれない。
一人娘が生まれてからのリュウシュンは村の女たちに見劣りしないくらい頼もしくなっていった。それに負けまいと仕事に励んできたリュウレイだからこそよくわかるのだ。
リュウシュンに任せておけば、リュウ家のことは間違いないだろう。だがそれはあくまで義姉や子供たちのことだけだ。リュウ家は代々この村で鍛冶師を生業としてきた。
大きくなったリュウオウがどんな道を選ぶかはわからないが、当分の間は義母の跡を継いだリュウレイが頑張らねばならない。家族に囲まれているとはいえ、リュウ家を守れるのはリュウレイだけなのだから。
客間の寝台に寝かせたカンショウの寝顔を見守りながら、独り立ちの儀に臨む困難さを改めて思い知る。リュウシュンが商いの道で身を立てようとするように、リュウレイもまた義母や大先生のように鍛冶師として生きてゆく。
だがそれにはどうしても譲れないことが一つだけあった。それを実現するためには明日村長に会わねばならない、不可能かもしれないがどうしても足掻いてみたかった。
「お父さん……」
リュウレイの手をぎゅっと握りしめたカンショウの瞼から一滴の涙がこぼれ落ちる。当分の間は、細かな作業を教えてみるのも悪くはない。体を鍛えるのは時間がかかるだろうし――。
「明日から、朝の遠駆けに連れてってみるかな?」
途中までリュウフォンに送ってもらえば何とかなるだろう。自分でも驚くほど、カンショウのこれからのことをいろいろ考えている。
――あの時の義母さんや村のみんなも私やリュウシュンのことを考えていてくれたんだろうな。
自分たち姉妹を受け入れてくれたこの村の人々の思いを思い起こしリュウレイはふっと笑った。今度は自分が子供たちやカンショウのような後から来る人たちにそれを返していく番なのだ。
思いの連なり、それが人の世を紡いでいく源なのだから――。
そのうちまた帰ってくるであろう義母の陽気な笑い顔を思い出しながら、リュウレイは皆の待つ食堂に足を向ける。もうしばらくしたら目を覚ましたカンショウを連れて、姉姫の館に案内してやろう。
あの気難しい二人の女性たちもきっとわかってくれるはずだ。
「そうと決まれば、まずは飯と酒! 今日は飲むぞ!!」
拳を振り上げて、気合を入れるリュウレイの行く先で和やかな人々の声が響き渡る。その夜、工房の食堂から明かりが消えることはなかった――。




