鍛冶師リュウレイ(8)
「静まれ――」
幼い子供の声が響き渡り、世界を満たしていた白い光は消え去った。リュウサンを抱きかかえたリュウレイが目を開けると、そこには赤く輝く髪と瞳を持つリュウオウの姿があった。
普段の母譲りの深い緑色とは異なり、力強い煌きを放つリュウオウの瞳をリュウレイは思わず見とれていた。
「兄上、ありがとうなのじゃ――!」
リュウレイの腕から飛び降りたリュウサンは兄に抱き着いた。
「サンはまだ力の使い方をよく知らないんだから無理したらだめだよ」
「ごめんなさいなのじゃ――……」
泣きじゃくる妹に優しく言い聞かせるようにリュウオウは言った。その髪と瞳はいつしか普段通りの黒と緑に戻っている。そこにあったのは面倒見のいい小さな兄の姿だった。
「とりあえずは収まったか」
一時はどうなることかと思ったが幼い二人のやり取りにリュウレイはほっと胸をなでおろす。近くにいた農民たちもみな一様に驚いた様子だったが、特に混乱した様子は見えない。
まあ、彼らは普段から姫長メイシャンの一部始終を近くで目撃しているのでこれくらいでは動揺しないだけかもしれないが。
「義姉さんと領主さまのケンカはすごいもんな――」
二人の感情に引きずられて、乱舞する炎の渦を見れば大概のことでは驚かなくなるだろう。
「でも、サンは何であんなことをしたんだ?」
泣き止んだリュウサンにリュウレイが尋ねると恥ずかしそうに答えが返ってきた。
「母上みたいに目立ちたかったの――」
「それで自分の背後から光を放って演出したのか……」
確かにそれなら小さいリュウサンでも目立ちはするだろう、しかし今回はとんだ大騒動になってしまった。義姉も子供のしたことなら叱りはしないだろうが、それでも神に連なる一族のことだ。今回のことがリュウサンにとっていい薬になればいいが……。
「リュウレ――イ!」
その時、着替えたリュウフォンが母屋の方から戻ってきた。そちらを見れば、姫長メイシャンの姿もある。ふわりとリュウレイたちの目の前に降り立ったリュウフォンが心配そうに尋ねて来る。
「大丈夫だった?」
「ああ、リュウオウが静めてくれたよ。やっぱり頼りになるお兄ちゃんだな」
そういってリュウレイが頭を撫でると、リュウオウはくすぐったそうに照れていた。その仕草に顔を綻ばせていると、姫長メイシャンを見たリュウサンが声を上げた。
「母上、ごめんなさいなのじゃ――!」
愛娘を抱き上げた義姉はその頭を何でも撫でてやりながら、優しく語り掛ける。
「ふむ、まあ初めてのことゆえ仕方あるまい。あれほどの力を示すとはさすが我が娘じゃ。サンは母の代わりを務めてくれたのであろう?サンはいい子じゃな」
「母上――!」
母親に抱かれて安心したリュウサンがまた泣き始めると、メイシャンはそれをあやしながら、周囲の者たちに視線を向けた。
「皆の者、朝から騒がせて済まぬのう。今日もいつも通りに農園の仕事に励んでくれ。わらわからは以上じゃ」
それを聞いた農民たちは皆頷いてから、農園の方に向かい歩いていく。
「それじゃ、いつも以上に気合を入れて頑張るべえ、皆の衆!」
「おお、チビ姫様のためにやってやるだ!」
「今日は腕が鳴るべな、ガハハッ!!」
口々に笑い合う彼らがリュウサンを思いやっている光景に温かいものを感じる。この五年間、ともにこの村を支え歩んできた彼らにとって、リュウ家に仕えることはまた格別の意味を持っているのだろう。
農民たちを見送った姫長は子供たちの方を見て、声を上げる。
「さて、わらわもお腹が空いたからのう。朝ご飯にするのじゃ!」
「僕も!」
「サンも頑張ったら、お腹が空いたのじゃ!」
笑い合う親子の姿にリュウレイとリュウフォンも笑顔でそれを見守る。
それにしても――、
「サンはあれだけ食べたのに、まだ食えるのか?」
「それはすごいよね――」
また少し料理を作り足さないといけないかなと、ため息をつくリュウレイの肩をリュウフォンが優しく叩いた。
この日、リュウレイはいつもより工房に遅れ、親方たちから大目玉を食らうこととなった。
「まあ、義姉さんたちのためだし、仕方ないよな」
「その分、仕事には気合い入れて行けよ!!」
「は――い、わかってるよ、親方!!」
村の工房ではいつも以上に元気に槌を振るうリュウレイの姿があった。
それは南麓の鉄が届く二日前のことであった――。




