鍛冶師リュウレイ(4)
食事会が終わったリュウ家の厨房で、洗い終えた食器をリュウレイが片付けていた。それをリュウフォンが手伝っている。他の家族たちは早々に引き上げており、今は二人だけであった。
「セグレべの料理、おいしかったね」
久しぶりに堪能した料理の数々にすらりとしたお腹を撫でるリュウフォンは満足げであった。それを見たリュウレイは顔を綻ばせながら、食器を戸棚に収めていく。
「ああ、そうだな。あの人の料理って幅広いからな。平和な時代に大陸のあちこちを旅してまわった時の経験が生きているから、私が教えてもらったのなんてほんの一部らしいんだよ。いつかまた、じっくり教えてもらいたいな」
「じゃあ、私は食べる方で!」
「フォンはそればっかりだな……」
まあそこがかわいいんだけどなとリュウレイは笑った。子供が出来たらリュウフォンはどんな母親になるんだろうとふと思う。まあ、きっといいお母さんになるのは間違いない。
「どうかしたの? なんか優しい視線で私の方を見て笑っていたけど」
「ん? まあ秘密だな。フォンはいつまでもフォンのままいいんだって思っただけさ」
「ふーん? まあ、いいけど」
その割にあまり納得していない様子のリュウフォンは片づけが終わったのを確かめて、ふわりと飛んでリュウレイに抱き着いてきた。
「じゃあ、そろそろ部屋の方に戻ろうか? 明日は早いんでしょ」
「ああ、そうだな。明日は私が料理を作るってみんなに言ってあるし、遠駆けを早めに終えて食材集めたりしないといけないからな。人数が多いし、その分腕が鳴るよ」
「うんうん、その意気だよ! 私も手伝うからね!!」
嬉しそうに言うリュウフォンにリュウレイは肩を落とした。多分、味見を頑張るつもりなのだろう。義姉やリュウオウたちほどではないが、リュウフォンもまたよく食べる。神に連なる力を操るものはそれだけ力を消費するのか、あまり燃費がいいとは言い切れまい。
その分を考慮に入れて、作る量は調整しているので問題はないのだが。まあ、自分以外にまだまだリュウフォンのことを任せる気にはならないリュウレイだ。
もしそんな奴がいたら、この拳で片を付けてやろうと考えているくらいなのだから。
「ねえ、リュウレイ。なんか怖い顔して笑っているけど、大丈夫?」
「ん、いやなんでもないぞ。うん、大丈夫……だ」
静かになった母屋を出て、いつの間にか自分の部屋のある離れの方まで歩いていたらしい。
「そういえば、もうすぐ南の鉄を運んでくるんだよね」
部屋の戸を開けるリュウレイの横でリュウフォンが思い出したように言った。先ほどの会話の中で義姉が今回の会議で決まったことを言っていたのを思い出しのだろう。
「ああ、そうだな。向こうの騒ぎも少しは落ち着いたみたいだし、運べるときに運んでおいた方がいいと踏んだんだろう。あくまでも購入するんだし、割高になるのは目に見えているけどな」
運ぶ方の手間を考えれば、そっちの方が高くつくだろう。しかし、備蓄の鉄屑ももう底をつき始めているのをリュウレイは知っている。おまけに中原からは名のある傭兵団や新興勢力が商人組合を通して武器を求めている。自衛のためか、侵略のためか、それはふたを開けてみなければわからない。
しかし、カンショウたち南麓の民の辿った悲劇を重く受け止めた領主連合も重い腰を上げて、人間たちを新たに雇い入れ自衛を兼ねた兵団の設立を決めたようでもある。それらが対外戦力となるのかは微妙だが、やはり兵力は装備する武具でその質は大きく決まるだろう。
人の死が金になる。古今東西これほどの皮肉はあるまい。リュウレイの掴む金はそうした血にまみれた側面があることも忘れてはいない。
思わず握りしめた拳にそっとリュウフォンが手を重ねた。驚いて顔を向けたリュウレイの唇にリュウフォンの温もりが伝わってきた。
「私とリュウレイはいつも一緒、どんな時もね――」
「わかってるよ、でもありがとうな。フォン」
どうしていつもこうなのだろう、リュウレイが気落ちしそうなときはこうしてリュウフォンが気持ちを汲み取ってくれる。だから今まで頑張ってこれたのだ。こいつを泣かせるような真似だけは絶対にしない。そして私がみんなを守るんだ。
「今日はいつもより、リュウレイに甘えちゃおうかな?」
ふっと笑うリュウフォンを抱き寄せながら、リュウレイは耳元で囁く。
「明日は早いんだし、無理は禁物だぞ」
「は――い……、わかりました。ふふ」
ともに心から安らいだ笑顔を浮かべながら、リュウレイたちは離れに入っていく。その頭上にはまばゆい星々が夜空に輝いていた――。




