誓いの日(6)
「――ですから、私たちはこうして遠路はるばると青の山嶺からやってきたのです。この村にお住いという姫巫女様にお目通りさせていただきたい!」
「何度も言わせるな、姫長様はお前らなんぞにはお会いにならん! どうしてもというならふもとの町の領主連合に許可を得てから来い!」
薄汚れた外套を纏う男たちの代表と鍛冶師頭である親方リコウが一歩も引かぬ様子でにらみ合っている。鍛冶師たちはリュウメイが鍛え上げた強者ぞろいだが、今は丸腰。
対する男たちは護身用の剣を下げており、剣呑な雰囲気が周囲を包んでいた。
相対する二つの集団の中に割って入る形でリュウレイがやってきた。
「親方、コイツらどこの連中だよ?」
「リュウレイ!ようやく来たのか」
腕組みをして、自分たちを睨め付けるリュウレイに怒った一人がつかみかかる。
「誰だ、この小娘は! 子供の出る幕じゃないぞ、引っ込んでいろ!!」
その男を片手で制し、首を掴んだリュウレイは獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべて名乗りを上げる。
「私は姫長の護衛リュウレイだ。この村ででかい面してテメエら生きて帰れると思うなよ!」
「ぐ、ぐぐ……!」
首を掴まれた男は息苦しさのあまり激しくもがいている。しかし、リュウレイはその手を緩めることなくさらに力を込めてゆく。
「やめろ! 殺すつもりか!?」
「お前ら次第、だな。とっとと帰るなら、見逃してやってもいい」
あっさり手を放し、意識を失った男が大地に倒れこむ。険悪を通り越して殺気立つ相手にリュウレイが義母譲りの拳を打ち鳴らして近づこうとしたその時、不意に耳元で怜悧な声が響いた。
「そこまでにしておけ、リュウレイ」
「義姉さん!?」
なぜここに? 驚いて声のした方を見れば、やや赤みがかった姫長メイシャンの姿があった。
「そ奴らを炎神の社まで連れてまいれ。何を話すか、わらわ自ら聞いてやろうではないか」
忽然と現れた姫長にそれまでの緊張もどこかに吹き飛んだよそ者たちは戸惑いの表情を浮かべている。代表の男ですら、姫長の言葉にうなずく程度だ。
それを見たメイシャンは宙に溶けいるように消えてしまった。全てを見届けた親方リコウは男たちに向かい、声をかけた。
「よかったな、貴様ら。姫長様のお許しが出た、リュウレイ! お前、コイツらを連れて行け! 俺たちは武器を取ってくる」
「ああ、わかったよ。それじゃお前らは私の後についてこい」
工房から正反対、村の奥に広がる森の端を指さしリュウレイは告げた。親方たちは工房に自前の武器を保管している。武装した親方たちはまだリュウレイの敵う相手ではない。力や速さは若く義母リュウメイが鍛えたリュウレイが勝るであろうが、長年培ってきた経験と技術にはまだ太刀打ちできないのが現実だった。
それはあのリシンやカリンたちにも言える。普段の稽古ならまだしも、武器を取った本気の殺し合いならリュウレイより場数を踏んだ彼女たちの方が断然上だ。それが、五年前異世界よりの敵、獣使いの戦士団ラグナザレフのとの死闘を生き延びた歴戦の傭兵というものだ。
腰元に密かに忍ばせた、義母リュウメイの短剣。少し刃先の長いこれさえあれば、大抵の相手など敵ではない。
男たちは全部で15人いるが、先ほどのやり取りから考えてもリュウレイ一人で十分すぎると結論付けた。
「お前ら、武器は置いて行けよ。もっとも、変な真似したら私よりおっかない守護者どもがうようよ出てくるから覚悟しておくんだな。それに炎の王族は義姉さん一人じゃないからな」
意地の悪い笑みを浮かべながら、男たちに脅しをかけておく。そのもう一人は、薬草園の方で今頃朝の摘み取りの最中のはずだ。あの自尊心の高い義姉曰く、激怒した時の怖さは姉姫様の方がはるかに上なのだそうだ。
気位の高いアリステロア王女と王家の末子にして当代の姫巫女アレアスタことメイシャン。その二人の間に挟まれて、あまり目立たない存在であったアルスフェロー。
心優しく、家族や身近な人々を愛する彼女はそれらを脅かす存在に対して激しい敵意を抱くという。大事なものを守るときにこそその真の力を使う。それが姉姫アルスフェローという存在なのだ。
ゆえに姫長をはじめ、ふもとの町の領主たちやこの村の住人に至るまで彼女は敬愛されている。もっとも、その人柄に人は惹かれるのだろうが。
「さて、それじゃ行くとするか。我が主にしてリュウ家の女主。メイシャン義姉さんのいるところに」
歩き出したリュウレイの後を躊躇いがちに顔を見合わせていた男たちがぞろぞろと続いていく。
「やれやれ、何事もなければいいけど……」
工房の売店の入り口から一人の男がそれらを見送っていた。彼こそはリュウレイの姉、リュウシュンの旦那なのだが、彼を気にするものはこの場にはいなかったそうな――。




