誓いの日(4)
「初めて会ったばかりのころは、フォンも人見知りが凄かったよな――」
「……その話はやめてよ、恥ずかしい……!」
いつも通り、二人だけで朝の風呂を満喫するリュウレイとリュウフォン。リュウフォンはその白く豊かに育った身体をリュウレイに預けて、くつろいでいる。安らいだ彼女の顔を見ているとついからかいたくもなる。
この笑顔は今、私だけのもの――。
そんな気持ちがリュウレイの心を何よりも安心させてくれるのだった。
「あの頃は、村のみんなに良くしてもらていたのに何も返せない自分がもどかしかっただけなんだから――」
「それは私も同じだったな、シュンみたいに村の人たちとすぐに打ち解けはしたけど、素直になり切るにはもう少し時間がかかった。けど、フォンが来たらそんなこと気にはならなくなったけどな――」
「私もレイがいてくれたから、メイシャンやあの子たちにもすぐに慣れたんだよ。ありがとうね、私のリュウレイ――」
さらに強く体を寄せ、嬉しそうに抱き着くリュウフォン。彼女の温もりと湯の温かさがいつもより、リュウレイの心を熱くさせてしまう。
「照れるな、やっぱりリュウフォンは私だけのもの、嫁だよな――」
「うん、そうだね。すごく照れちゃうけど――」
二人揃って真っ赤になりながら、静かに笑い合う。中原からこっちに来た時のフォンはわずか11歳であったという。一つ年下の義妹にリュウレイはなぜか強く惹かれた。最初はその神秘的な外見に惹かれていたと思う。
けれど家族としてともに過ごしていくうちに、かなりずぼらで世話が焼けるリュウフォンにますます惹かれていった。彼女がリュウレイに懐くのは自分のことを見て、相手をしてくれるリュウレイのことが何より大好きだからだろう。
以前、はっきりと言われたことがある。リュウレイが男の子だったら、私一緒になっていたよと――。
うれしい半面、そういう言い方はズルいと思った。言われたその日は、悩み抜いて一睡もできなかったと思う。それからなんか壊れたような気もするが、今の暮らしがリュウレイの全てであることに間違いはない。
それにナルタセオとの一件以来、リュウフォンは以前にも増してリュウレイに甘えてくることが多くなった。風の民特有の独占欲だろうとナルタセオが言っていたが、どうでもよかった。
リュウレイもあの時からリュウフォンのことを改めて強く認識したからだ。
私はフォンがかわいい、何よりもな――。だから何があってもこいつを守り抜く。それも私の誓いの一つ……。
気が付いたら、リュウフォンの頭を撫でていた。よしよしと撫でていると、ふいにフォンが顔を上げて、にこりと笑う。
「リュウレイ、大好きだよ――」
この前のお返しとばかり、朝から唇を奪われるリュウレイだった――。
… … …
「さあて、今日もはりきって仕事しないとな――」
「じゃないとお金返せないもんね――」
笑顔で合いの手を入れてくるリュウフォンに、リュウレイはちょっと泣きたくなった。
なんかいたずらしたくなるぞ、コラ――。
苦笑いを浮かべながら、朝食後のリュウ家を出て村の入り口にある工房へと歩き出す二人に後ろから声がかけられた。
「リュウレイ――!」
「ん、誰だ? こんな朝っぱらから」
振り返ったリュウレイの視線の先に現れたのはリュウオウと同じくらいの年の黒髪の眼がくりくりとしたかわいらしい女の子だった。小さな前掛けをしたその子の名はリホウ。
リュウオウより少し前に生まれて、今年で五つになる。下に二人の弟がいて、忙しい母を手伝うしっかり者だ。よくリュウオウやリュウサンと遊んでいて、将来はリュウ家の嫁だ、なんていう村人もいるくらいだった。
「おお、おはよう! どうした、リホウ」
「おはよう、リュウレイ! あのね、リュウオウ見なかった?」
「リュウオウなら裏の林にでもいるんじゃないか? いい釣り場を探すってはりきっていたからな。そうだろ?フォン」
リュウレイが降り返ったその先で少し距離を置いて、浮かぶリュウフォンの姿があった。彼女は威嚇するような迫力の笑顔で宙を漂っている。
「何やってんだ、あいつ?」
リュウフォンは工房までリュウレイを送った後、子供たちの相手をすることになっている。それなら隣のリホウも面倒見て欲しいくらいなのだが……。
「リュウオウは裏の林だね、わかった! ありがとうね、リュウレイ!」
元気に笑うリホウもやっぱり年相応にかわいいものだ、よく赤ん坊のころ、義姉たちが二人を遊ばせ、それをリュウレイやリュウシュンがかわいがったのを思い出す。
「親方はもう仕事に行ったのか?」
「うん、お父ちゃんもう行ったよ! いろいろ忙しいって言ってた!」
「そうか、私ももっと早くいくようにしよう」
そうはいってもリュウ家の朝食は戦争だ、義姉もすごい量を作るし子供たちもよく食べる。作るよりむしろ後片付けの方が大変なのは、それを手伝うリュウレイとリュウフォンの方がよく理解していた。
「じゃあ、私もう帰るね!」
「ああ、足元に気をつけて帰るんだぞ!」
といってもリホウの家はリュウ家の隣、すぐそこなのだが。隣のリュウフォンを見れば、まだリホウに向けて威嚇の体制を崩していない。
「お前何やってんだ、子供相手に」
リュウレイが呆れていると、フォンは怒った様子で言った。
「これは『戦い』なんだよ! 絶対に負けられない――!」
その時、リホウがリュウフォンに向かって舌ベロを出した。
「ベ――っだ!」
「ベ――!!」
間をおかずに、リュウフォンも負けじとベロを出す。二人して何やってんだと、リュウレイは頭を抱えた。確か半年くらい前までは、二人ともすごく仲が良かったはずだ。
「私、大きくなったらフォン姉ちゃんみたいになる――!」
それがリホウの口癖だったのだが。少し怒った様子のリュウフォンに引っ張られながら、リュウレイは工房へと歩き出す――。




