古の調べ(5)
リュウレイたちが工房に戻ると、既に午後の作業は始まっていた。自分の仕事台に戻ったリュウレイはすぐ近くで忙しく槌を振るう、親方リコウに声をかける。
「ごめん、親方! 村長様のところに行ってたから遅れたよ。すぐに始めるから!!」
「急げよ! お前だけで仕事しているんじゃねえからな!!」
「ああ、それくらいわかってるよ!」
リュウレイが工房に入ったのと時を同じくして、ナルタセオも工房に駐在する商人組合の職員に会い、持参してきた品物と自分が発注する品の確認を始めていた。この鍛冶師の村は山向こうの村々へと荷物を運ぶ中継地でもあるため、ナルタセオが各地を回り集めた注文を商人組合に直接伝える業務が発生する。それがかなり多岐にわたるため、前回の発注分と照らし合わせながらの作業になる。
工房の倉庫に収められたそれらの商品を運搬の馬車に積み込む作業もあり、ナルタセオの言葉通り一人では手に余る物量だった。
そこでリュウフォンの出番となるわけである……。
「うん、こっちの荷物は馬車に運び込んでいいぞ。それが終わったら、あっちの奥だ。間違えるなよ」
「は――い……」
ナルタセオの背後で倉庫と幌馬車の荷台とを行き来するリュウフォン。その周囲にはふわふわと宙を舞う荷物が浮かんでいた。常に自分を取り巻く風の精を従えることが出来るフォンにとっては、荷物運びなど造作もないことだがそれが短時間に何往復ともなると話が違ってくる。
まず、荷物同士がぶつからないように気を遣うし、下す時もきっちり隙間なくきれいに整理するように叔母であるナルタセオから厳命されている。
もししくじろうものなら、壊した分は弁償と言われてリュウフォンは青くなった。普段のリュウレイを見ていればわかるように、世の中甘い話などあるはずがないのだ。
おまけにナルタセオはかなり几帳面な性格だ。王都にいるころはリュウフォンもまだ子供だったから、それほど口うるさく注意されたことはないが村の生活でのんきに過ごしてきたことが今になって裏目に出ているような気がした。
「どうしてこうなったんだろ……?」
山向こうに送る最後の荷物を何とか載せ終えたフォンは馬車の縁に腰を下ろしてため息をついた。うまく話を合わせながら、リュウ家で待つという選択肢もあったような気もするが後の祭りだった。
「フォン! あと半分だ、サボっている暇はないぞ!!」
「は――い! 今行きますよ――だ!!」
新しい荷物の山を分別し終えたナルタセオの声にフォンは思いっきりしかめっ面で応じた。お駄賃を出すとか言ってたが、金銭感覚に疎いフォンにはどうでもいいことだ。
なるようになれ!
結局、夕方になるまでリュウフォンはナルタセオの仕事に付き合う羽目になった。最後は見かねたリュウレイやほかの鍛冶師たちが手伝ってくれたおかげで早く終わったものの、気疲れだけが残る結果となった。
「すごく疲れた……」
「うん、ご苦労様。これが今日のお駄賃だ、また頼むぞ」
「もう勘弁して……」
ナルタセオが疲れた果てたフォンの手のひらに銀貨一枚を握らせる。フォンの大好きなふもとの町のお菓子を少し買い込んだらすぐになくなってしまう金額だ。
「最後は村の衆に手伝ってもらっていたからな。その分、今夜の宴の費用もかさむ。まあ、妥当といったところだな。さて、汗もかいたろうし、風呂にでも行くか?」
思いのほか機嫌のよいナルタセオが近くにいたリュウレイに声をかけている。旅の暮らしが長い彼女は気兼ねなく入ることが出来るこの村の共同浴場がお気に入りらしい。
もっとも、隧道を隔てた山向こうは大きな火山帯の中にあり、今でも豊富な温泉に恵まれた地域がある。遥か昔から隠れた温泉郷として栄え、遠く旅する人たちの疲れを癒してきたそうだ。
リュウ家の人々も時々家族で出かけることもある。またリュウレイと行ってみたいなと思う。
「お――い、フォン! 飯前に風呂に入ろうぜ、早く早く!!」
向こうではナルタセオと連れ立ったリュウレイがこっちを手招きしていた。
「は――い、今行くよ!」
笑顔でそれに応じながら、フォンは勢いよく宙をかけていく。ちょうどお腹も空いてきたところだ。今夜はたくさん食べてやろうと密かに決意する。子供たちやメイシャンも誘えば効果は抜群だ。やられたことはきっちりやり返すのもリュウ家の掟。
――いつまでもやられっぱなしじゃないんだよ!
こころにそう誓いながら、リュウフォンは微笑んでいた。




