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内心では、相羽の言葉に嬉しさを感じている自分もいる。でも、それを認める気はないし、認めても仕方がない。

こんなやりとりを何度しても仕方がないだろ?と、そういう意味を感じ取ってほしくて、ワザと突き放した言い方をした。


相羽のことだから、きっとまた憎まれ口が返ってくるだろう。

そう予測して視線を向けた先、意外な事に相羽は、その顔を僅かに青ざめさせていた。

俯いて唇を噛み締めている様子に、チクリと罪悪感がわいてくる。

自分で自分を誤魔化している居心地の悪さ。

そして針の先で刺されるような、もどかしいイライラする胸の痛み。


…頼むからそんな顔をするな。そんな顔をされてしまったら…。


心の片隅から湧き出してきそうな何かから目を逸らそうとしていた俺の耳に、感情を無理やり押し殺したような相羽の声が聞こえてきた。


「…ふざけてるって…、なんだよそれ…」


低く呟いた苦しそうな声。

ベンチに座ったままの俺を見下ろすその表情は、本気で怒っているのに、どこか泣きそうで…。

俺まで苦しくなってきた。

こんな顔をさせたいわけじゃない。いつもの自信にあふれた顔はどこにいったんだよ。


…思わず…手が伸びた。


「…み…なと…?」


ベンチから立ち上がって抱き寄せた相羽の戸惑った声が、耳元で震える。


「…頼むから、そんな泣きそうな顔をするな」


小さな子供にするように優しく相羽の後頭部をポンポンッと撫でるように叩くと、その瞬間、背中に回された腕に息が出来なくなるほどギュッと強く抱きしめられた。

まるで縋るようなそれは、しがみつかれたといってもいいくらい必死なもので…。


「水人…水人…水人…」


壊れた機械のように何度も俺の名前を連呼する相手に、…しょうがないな…と。

何かがストンっと胸に落ちた。


意固地になって自分を誤魔化してどうする。

自分の感情を見て見ないふりして、気付かないふりをして。

コイツがこんなに正面から向かってきてるのに、俺が逃げるなんて、…そんなの、情けないだろ…。


認めた瞬間、フワリと心が軽くなった。そのあとに湧き起こるのは、どこかくすぐったい甘い気持ち。


「…お前の気持ちが本当だってわかってたのに、気付かない振りして、誤魔化して、茶化して…悪かった。…俺も、お前と同じ気持ちになってたのに、そんなのはありえないって、目を逸らして逃げてた」


そこまで言った瞬間、ガバっと音がしそうな凄い勢いで相羽が身を離した。

…と言っても、お互いの顔を見合わせる事ができるくらいの距離が出来ただけであって、背中に回された腕は依然としてそのまま。

唐突な動きに驚いて固まっていると、


「…水人も同じって…、それって…まさか…」


目を見開き、震える声で相羽が呟いた。

言葉の意味がわかったらしい。驚愕にその後の言葉を告げないでいる相羽の様子に、自然と表情が緩んだ。


「いつからだろうな…、お前がいないと、なんか足りなくてさ…。………俺もお前が好きだよ」

「水人!!」

「…ン…ッ…」


噛み付かれるような勢いで相羽の唇が自分のそれに重なった。

これはさすがに予想外で、咄嗟に相手の拘束から逃げようと体を捩るも、それは難なく抑え込まれてしまう。

息が苦しくなって緩んだ唇の隙間から、抉じ開けるように相羽の熱い舌が入り込んできた。

上顎の内側をくすぐるように舌先で撫でられ、反射的に体がビクッと震える。

そんな俺の反応に煽られるように、ますます深く激しくなる口付けに、膝が崩れ落ちた。


「…ッ…!……ん…」


さすがに相羽の唇は離れ、俺が落ちる前に腰をグッと両腕で抱えてくれた。


「大丈夫?」

「…全然大丈夫じゃない…、いきなり何するんだお前は…」


相羽にもたれかかりながら、荒い呼吸のまま睨んで文句を言うと、その顔が嬉しそうにニコニコと満面の笑みを浮かべた。


「いま俺、頭が変になりそうなくらい嬉しい。嬉しすぎて、このまま水人に何かしそうなくらいだ」

「…それはやめろ」


相羽なら本気でやりかねないとわかっているだけに、さすがに口元が引き攣る。

それでも、本当に幸せそうに笑う相羽に、心が満たされていくのを感じた。


最初に屋上で会った時は絶対にコイツとは関わりたくないと思っていたのに、気が付けばその強烈で我が儘な子供みたいな行動と言動に心が囚われて…。


「…いつの間に…、こんなに囚われていたんだろうな…」


小声でボソッと呟くと、相羽には聞こえなかったらしく、「え?なに?」と顔を覗きこまれたけど、正直に教えるのも悔しくて「別に」と誤魔化した。


「これまで生きてきた中で、今が一番幸せだー」


本当に幸せそうに呟きながら、相羽がまたギュッと強く抱きしめてくる。

今度は俺もその背中に両手を回し、胸の内から込み上げてくるこの暖かな気持ちが伝わるように…、優しく抱きしめた。






-END-



第一部終了です。

ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました!

第二部はムーンライトノベルズへ掲載します。

その際は活動報告でお知らせ致しますので、年齢条件が当てはまる方は読んで頂けたら嬉しいです。


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