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聖女なのに悪役令嬢になりたい! 空回り優しさでみんな幸せになりました  作者: 御厨そら


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第23話 偽の聖女様計画

「──と言うわけなんですよ」


 アルドの説明が終わった瞬間、居間の空気が変わった。


 アンドレイニ伯爵邸の居間には五人の男たちがくつろいでいた。晴れやかな顔が並んでいる。聖女様を誘拐しにこの国へやって来た者たちとは、とても思えない表情だった。


 ルーベンはソファに深々と身を沈めた。余りの衝撃に、体が重くなったようだった。テーブルに置かれた紅茶に手が伸びる。


(熊に襲われて瀕死の仲間が、聖女様の加護で助かった。それはありがたい。本当によかった。しかし、胸の奥に渦巻くこの絶望感は何だ。すべて誰かの手のひらで踊らせられたような違和感を感じる)


「聖女様誘拐は失敗ですね」


 アルドの言葉に、ルーベンは何も言い返せなかった。


「隊長、俺達この先どうしたら……」


 カイが言った。五人の中で一番の若者だった。


「それについては考えがある。心配するな」


 ルーベンの口調に、仲間たちがお互いの顔を見合わせた。強張っていた肩から、少しだけ力が抜けていく。


 そこへ居間へ新たに入って来た侍女が、ルーベンに告げた。


「アンドレイニ伯爵がお待ちです」


 ルーベンは立ち上がり、侍女の後に続いた。

 案内されたのは先ほどよりも格上の居間だった。足元には異国の絨毯が隙間なく敷き詰められ、調度品のひとつひとつが桁違いの豪華さを放っている。元は離宮だったと聞いていたが、なるほど、と思わせる豪華さだった。


 上座の豪華な椅子にはアンドレイニ伯爵が座り、両サイドにルーナとレベッカが並んでいた。ルーベンは三人に囲まれるように、伯爵の正面の椅子へ腰を降ろした。


 最初に口を切ったのはアンドレイニ伯爵だった。


「ルーベンさん、あなたのことを教えてもらえますか? 昨夜からの出来事もあって混乱しているのですよ」

 伯爵は隣のルーナをちらりと見た。ルーナは平然とした顔をしている。レベッカは足を組んで、ルーベンを静かに見下ろしていた。


 ルーベンは三人をじっくりと観察した。伯爵は娘に関わる事件だと察している様子だ。ルーナは何を考えているのかよく分からないが、悪意は一切感じられない。だがレベッカは昨夜とは一転して険しい表情をしていた。恐らく仲間たちが何の目的で森に潜んでいたか、すでに情報を得ているのだろう。下手な言い訳は通用しない。


「──私はアルテミオス王国の親衛隊長のルーベンです」

 ルーベンがきっぱり言った。


「……やはりお隣の国の方でしたか。あなたを含めて六人、揃いも揃って美男子だったので、もしやと思いました。アルテミオス王国は美男美女が産出する国だと言われてますね」

 伯爵が納得したように頷く。ルーナは目を丸くした。その様子を見てレベッカがクスクスと笑った。


「そのアルテミオス王国の親衛隊長と部下が、ルーナを誘拐するつもりだったというのは本当ですか?」


「本当です。もはやわが国が生き延びるには聖女様の加護にすがるしかないのです。長引く天候不順で農業は壊滅、各国への借金は膨れ上がり、これといった産業のないアルテミオス王国は亡国の道を辿っています」

 神妙な顔でルーベンは言った。


「とはいえ、ルーナ……聖女様を誘拐しようとするのはなりません。それこそ戦争を誘発するようなものです」


「……そこで、聖女様が自らわが国に来たと発表するつもりでした」


「あら、腹黒いわね。さすが大陸最古の国家アルテミオス王国だわ」

 レベッカの言葉に、ルーベンの額から一筋の汗が伝った。


「申し訳ない。どんな処罰でも受ける所存です。ただ、部下は私の命令で動いたのみ。そのことを鑑みて寛大なる処罰をお願いいたします」

 ルーベンは深々と頭を垂れた。


「私は治安部隊の関係者ではありません。ただの貴族院の末席にいるだけです」


「聖女様のお父上で王族も一目置かれる存在だとお見受けられます。どうか今回の事件の首謀者は私一人だとおっしゃってください。全責任は私が取ります」


「アルテミオス王国ではなく自らの発案にするの? それで本当にいいの。無茶振りする暴君に忠誠を尽くすことがアルテミオス王国のためになると思ってるの」


 レベッカの鋭い指摘に、ルーベンの口元がほころんだ。


「丸く収まるなら、私の身はどうなってもいいです」


「惚れるわね、いい男」


 レベッカがウインクした。ルーベンの頬が赤く染まる。


「あのー、一言よろしいですか」

 ルーナが手を挙げた。


「プッ、ここは貴族学校じゃないわよ」

 レベッカが笑う。ルーナはへらへらと笑い返したが、ルーベンに視線を向けた瞬間、その目つきがきりりと変わった。


「もしこのままルーベンさんたちを処罰すると、フランチェスカ王国に聖女がいることが確定します。そうなると第二、第三の誘拐事件が起こる可能性が出てきます」


「聖女様は誘拐を恐れているのですか?」

 ルーベンが聞いた。


「いいえ、次に同じような事件があれば、天罰は今回のような優しい事案ではすまないと思います。誘拐を目論む人々だけではなく、国家そのものに悲劇が起こるような……気がするのです。大変な災いが大陸に起こるでしょう」


 伯爵、レベッカ、ルーベンの三人が顔を見合わせた。ルーナの表情に、笑みはなかった。

 張り詰めた空気を変えたのは、レベッカだった。


「こうしたらどうかな。フランチェスカ王国を調査したけど聖女様は存在しなかった。ただの噂として国中に広がったと」


「無理です。国王の命令は絶対です。誰であろうと連れてこなければ絶対に納得しないお方です」

 ルーベンの顔が暗く沈んだ。


「いいことを思いついた。だったら偽の聖女様を連れて行ったらいいのよ。そしてアルテミオス王国を改革するの。大陸各国から人々がやって来るように手筈を整えるのよ」


 ルーナの言葉に、レベッカがすかさず応えた。


「よし、私が偽の聖女様としてアルテミオス王国に乗り込んでやるか。商売ならお手の物だ。私は高級娼館【赤い薔薇の天国】の共同オーナーだからね、商売のノウハウで国を変革して見せようぞ」


 レベッカが椅子から立ち上がった。その眼差しがルーベンへと注がれる。

ルーベンは唖然としたまま、レベッカを見上げていた。


「不服かもしれないけど、本物の聖女様より偽聖女を連れ帰って、それでよしとしなさい。悪女が裏で国を動かすのは、古今東西変わらない真実だよ、ダーリン」

 レベッカがルーベンの顎を指で持ち上げた。


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