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聖女なのに悪役令嬢になりたい! 空回り優しさでみんな幸せになりました  作者: 御厨そら


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第22話 仲間の安否

 あの月夜のことだ。


 森の奥に潜んでいた五人は、背後の茂みのざわめきに振り返った。

 暗がりの中、野生動物の目が光っている。その影がゆっくりと立ち上がった。ゆうに二メートルを超す、巨体の熊だった。



 ガォォォ──!



 熊は素早かった。右手の爪が迫る。応戦するまもなく、仲間たちの悲鳴と絶叫が次から次へと森の中にこだました。剣を振るっても熊はお構いなしに突進してくる。その迫力にアルテミオス王国の猛者たちが散り散りになって逃げまどった。

 それでも、また一人、また一人とあっという間に襲撃された。


 一番離れた場所にいたアルドは、仲間たちのうめき声を聞いた。


「誰か……助けてくれ」


 声が耳に届いても、足は助けに向かわなかった。ただひたすら反対方向へと駆けた。



 ほとぼりが冷めた頃、アルドは現地に戻った。鬱蒼とした森の中は静寂に包まれ、月明かりが木々の葉の隙間から射し込んでいた。その光の下、あちこちの地面に大量の血が広がっている。地面を引きずった跡まであった。

 奥へ追いかけようとした瞬間、森の深くから熊の咆哮が響いた。これ以上来るなという警告だと、アルドの全身が察した。



 アルドは街に戻り、ルーベンと合流した。もはや二人では誘拐はできない。現地の裏の組織を雇って成し遂げるしかないと、アルドはルーベンに提案した。



 翌朝、出かけたアルドはあちこちから情報を仕入れた。この国には犯罪組織が一つだけあること、しかし今は街のボランティア組織に転身しているという話が耳に入った。アルドは内心で感心した。


ーーカモフラージュだ。裏稼業を隠して街の中に溶け込むとは、このボスは相当な人物に違いない。


 ならば話を付けようと、ボランティア組織の看板を掲げた店舗の前に立った。「ドメニコボランティア協会」の看板が架かっている。運よく、その日のうちにボスとの面会が決まった。


 アルドはよその国の業者を装い、ボランティア組織を立ち上げるからそのノウハウを教えてほしいと金貨を差し出した。その量を見てピンと来ない裏の組織はない。


「ノウハウ教えるのは問題ない金額だが……」

 ドメニコが顎の先端を指でさすった。


「これはほんの一部です。成功のあかつきにはこの五倍支払います」


「ふーむ、で何人用意すればいい」


「できれば、十人以上」


 ドメニコが顔を近づけて声を落とした。


「貴族の屋敷に押し込み強盗かい」


「とんでもない。人を殺すことはやりません。誘拐してもらおうと」


「相手は」


 アルドは一呼吸おいて、喉の奥から絞り出すように言った。


「ルーナ・アンドレイニ。聖女様です」


 その言葉を発した瞬間、アルドの視界が真っ暗になった。黒い布を頭から被せられたのだ。


「動くな、動くと刺す。見えなくてもこいつは分かるな?」


 背中にチクリと鋭い痛みが走る。剣の切っ先だ。周囲に人の気配が満ちていた。不穏な圧力にアルドの胸が焦りで締まる。


「聖女様を誘拐だと、ふてぇ野郎だ」


「ボス、どうします。始末しますか?」


「まあ待て、俺に考えがある」


 後ろ手に手首をロープで縛られ、アルドは奥の部屋に監禁された。



 数時間後、ドメニコがやって来た。部下の手で顔の黒い布と、手首のロープが外される。ロープが食い込んでいた皮が破れ、じわりと血が滲んだ。


「あら、大変」


 若い女の声だった。アルドが顔を上げると、金髪の少女が腰をかがめ、アルドの手首をそっと取っていた。


「痛かったでしょ。ドメニコさん、手荒なことはもうしないっていいましたよね」


 少女がドメニコを睨む。


「あっ、すいません。ついこれまでの習慣で」


「あなたは……もしや」


「ルーナ・アンドレイニです」

 ルーナは白い歯を見せた。



 馬車に乗せられたアルドは、ふと手首に目をやり、傷が消えていることに気づいた。目の前に座るルーナを見ると、眩しさに思わず目を細める。彼女のそばにいるだけで、胸の奥に巣くっていたどす黒い思考がどこかへ消えていった。

 馬車はアンドレイニ伯爵邸に着いた。



「アルドじゃないか!」

 侍女に案内されて奥まった部屋に入ると、ベッドが四つ並んでいた。横になっていた仲間たちがアルドに顔を向ける。


「お前たち生きていたのか。俺はてっきり死んだものだと」


「聖女様の加護のおかげで命が助かった。死にかけた俺達の治療をしてくれたんだ。あのお方は本物の聖女様だ。誘拐なんて女神様に唾をかけるようなものだ。絶対にやっては駄目だ」


 アルドは涙をこらえながら、深く頷いた。



     ◇



 屋敷裏の森の奥から、巨体の熊が姿を現した。その前に仁王立ちになったルーナが、両手を腰に当てて熊を見上げた。


「めっ! オルソ君、あれはやりすぎです。たとえ悪い人であっても手加減をしないと駄目だよ」


 グルルルー。


 オルソはすまなそうに頭を低く垂れた。ルーナはその大きな頭をゆっくりと撫でた。


「でも、私を守ってくれてありがとう。大好きよ」


 ルーナの言葉を受けて、オルソは勢いよく立ち上がり、大きく吠えた。


 ガォォォ──! 


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