覚醒
「雑魚が生意気いってんじゃねえぞ」
ガッ
誰もいないはずの廃ビルに人工的な音が鳴り響く。
容赦なく胸の辺りを蹴られ、息が詰まる。体に走る痛みを意識しないため適当なことを考える。
いつも通りならあと少し我慢すればこいつらも満足して終わる。最初の頃は無防備にやられてしまい数日痛みが引かない日もあったが、今では受けるダメージを最低限にするかができる。
「いやー、もう少ししたらお前と会うことも無くなるのか!」
「まあ、能無しが特校これるわけねーしな!」
不良たちは喋りつつも暴力を止めない。痛みのせいか普段は考えないようにしていることが溢れてくる。
ペルソナがないだけでこうして周りから下に見られ、才能のあった親父はゲートで死んだ……
ペルソナなんかがあって何ができるんだ?
人を痛めつけるしか脳のないこいつらがそんなに偉いのか?
「はーあ、お前の父親もお前が生まれたからゲートで死んだんだろ。」
「能無しなんて産んで、厄でもついたんだろ。」
ギャハハハ!
下卑た笑いが響く。
「うるせー、群れないといきれない雑魚どもが!」
思わず頭に血が上り隠し言い返してしまう。しかし、すぐに今までの経験から後悔をする。
「学校でも口答えしてきやがって、やっぱり一回締めといた方がいいよなぁ?」
この男のペルソナは戦闘系。身体能力に大きな補正がかかっている。そんな男の怒りに任せた拳を受ければどうなるのだろうか。
「あー、痛えなあ。」
殴られた跡をさすりながら、家の玄関を開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさい、あらま、一段と男前になってー!」
家にいた祖母が茶化しながら出迎えてくれる。両親はいない、母親は出産後すぐなくなったらしく、父親が亡くなってからは祖母とペットの太郎と暮らしている。
「とわちゃん。ちょっとスーパーに夕飯の食材買いに行ってくるから、留守番お願いね!」
頭を優しく撫でてくれる暖かい手。
何も聞かず、ただ髪をゆっくりと撫でられると涙が溢れ出そうになるが笑顔で返事をする。
「おっけー、太郎の散歩でも行ってくるよ。」
見送り、風呂場で傷を洗いシャワーを浴びているともう一人の同居人がやってくる。
「ワン!」
「わかったよ、シャワー浴びたら散歩行ってやるから!あっち行ってろ!」
ドアをカリカリして催促してくる音を聞きながら早めにシャワーを終える。
「もう夏も終わりだなー。」
散歩コースを傷が痛まぬよういつもより遅く歩く。太郎もわかっているようで引っ張たりせず今日はとてもおとなしい。腕につけているデバイスが震える。いつもならすぐ興味を失うが見出しを見て目が止まる。
近くのスーパーでゲートの臨界化?
目の前にある単語の意味を脳が拒む。近所で営業しているスーパーは一つ、そして記事のスーパーと名前は一致している。臨海化は出現してから時間の経ったゲートからモンスターが溢れ出し周囲が異世界になる現象である。
そして、一般人が巻き込まれた場合助かる確率は著しく低い。
鼓動が速くなる、頭がくらくらする。今自分がどこに立っているのかもわからなくなる。
「ワン!」
「っ!!」
太郎の鳴き声で我にかえる。走る、痛みを忘れて走る。
いやだ!ゲートで家族をこれ以上失うのはいやだ!
おばあちゃんまで居なくなったら俺はもう……!
最悪の可能性が頭をよぎる。
「近づかないでください!」
「ここから先は危険です!!」
スーパーに気がついたら着いていた。だが、おかしい。
臨界化とはゲートに巣食うクリーチャーたちが溢れて周囲に甚大な被害をもたらす。ゆえに本来ならここはもう戦場になっている。
端末で記事を確認するとゲートは【墓地型】であり、夜ではない今は一部のクリーチャーしか出現しておらずそれらはすでに討伐されていた。
さらに夜になる前にクリーチャー討伐する部隊を送り込むらしく希望が見えてきた。安堵から、その場に座り込む。ペルソナも力もない俺にできることは何もない、祖母の無事を祈りながら太郎と共に家へ帰った。
夜ご飯は食べる気にならなかった。いつも楽しく見ている動画配信も見る気になれない。何もできず、ひたすら祈りながら帰りを待つ。1分がとても長く感じ、家に着いてからもう何時間も経っているように感じる。
「ワンっ!」
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。
「ばーちゃん!」
急いで玄関を開けるとそこには買い物に行く前と変わらない祖母の姿。
「ワンっ!グルルルルっ!」
しかし、太郎が祖母と永和の間に入り込み祖母を威嚇する。
「太郎?どうしだんだよ、ばーちゃんだぞ?」
「み、、けた」
太郎を落ち着かせようとすると、祖母がボソボソと喋る。
様子がおかしい。
「ばーちゃん?どうしちゃったんだよ……」
「みつけたぁぁぁアアア!!!!」
老人とは思えぬ機敏さで距離を詰められ、瞬く間に首を絞められる。
「ばーちゃ……ん」
どうして?なにがおきている?混乱と疑問で頭がおかしくなりそうだ。息もできず酸欠で苦しい。
走馬灯か昔の記憶を思い出す。その頃はゲートで活躍する父を誇りに思い、よく父にゲートでの出来事を話してもらっていた。
「怖い話か……。そういや最近。ゲートで死んだはずの人間を見たって言う話を聞いたぞ!」
「えー?何それ全然怖くないよー」
父さんの話した噂の正体はクリーチャー。非常に珍しい特性を持つため発見が遅れたらしい。
【ドッペルゲンガー】
死んだ探索者の死体に取り憑き模倣するクリーチャー。
祖母はもういない。
それを理解すると同時に、思考が滅茶苦茶になる。
怒りが湧いてくる。さっき会った時はまだ生きてたかもしれない、自分に力があれば助けれたかもしれない。どうしようもないとわかってても考えは止まらない。
どうして?なんで?
父を奪ったゲートが憎い、祖母を奪ったクリーチャーが憎い、ペルソナを与えてくれない世界が憎い。
苦しみも忘れて、ひたすらに怒りが湧いてくる。
「あぁぁぁぁああああああ!!!」
首に掛けられた手を外そうともがく、だが老婆の姿をしていてもクリーチャー。ペルソナを持っていない自分ではどうすることもできない。
「ワンっ!」
「ギャッ!」
太郎が永和を助けるためにドッペルゲンガーに噛み付く。
「イタタタタァイイナアッ!」
祖母の顔の部分が縦に割れ、永遠を床に捨てると太郎を捕食しようと襲いかかる。
「イタァァァアダキィイマァス!」
苦しみから解放されたのも束の間、捕食されかけている太郎を助けるために咄嗟に花瓶を化け物の顔に投げつける。
パリンッ!!
大きな音ともに花瓶の破片が飛び散り、割れた祖母の顔から何か石のよう物がこぼれ落ちる。
「ァァアアア?」
祖母の顔をした化け物は吸い込まれる様に宙に溶けて消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ、!」
浅い呼吸を繰り返し、なんとか息を整えようとする。
「ぁぁぁあああ!!!」
深夜の街に絶叫が響き渡る。
俺に、俺に力があればっ!
ペルソナさえ有れば!!!
"条件の達成を確認、本体を適正者と認識します"
何か聞こえた様な気がしたがそこで意識は途切れた。




