能無しと呼ばれた男
2020年に人類は滅んだ
世界規模の原因不明な病気の流行。パンデミックが起き人類は約半数まで数を減らした。
それまでの暮らしがかけがえのないものになり、これからの生活が過酷になることを誰もが唐突で受け入れられなかった。
致死率100% 、罹れば助からない。
そのような優しいものなら半数の人類が消えても人々は時間をかけて乗り越えていけるだろう。
しかし、病魔は悪辣だった。
この病気は罹っても風邪のように咳や熱などがでることはなく、ましてや癌のようなひどい症状も出ることはない。病に侵された人は魂が抜けたかのように動かなくなってしまう。植物人間でも心肺停止になるわけでもなく身体は健康のまま動かなくなる。
ゆえに残された人々を希望を持つ。
病に消えた人達はその身を維持していれば、いつか目を覚ましてくれるのではないかと。
理性では誰もがわかる。
眠る人々を安楽死させ、残っている資源を生きているものに使うべきで、間違ってもそのリソースをいつ目が覚めるかもわからない病人に使うべきではない。
だが、人間には感情がある。昨日まで日常を共に生きていた人を見捨てることができるだろうか?体は暖かく鼓動も聞こえるその人を、冷たく何も聞こえぬ闇へ。
けれども多くの人が失われた世界では生命を維持する環境を十分に用意することが可能な国はとても少なかった。
多数の国はこの未曾有の災厄を前に協力し手を取り合おうとした。
しかし、人とは愚かである。
反対に残された資源を占有しようとする少数の国もあった。
第三次世界大戦の幕開けであった。
半数になった人類は泥沼の戦争により種の絶滅が目前であった。しかし、突如現れた円状の異世界へと通じる輪、後に【ゲート】と呼ばれるものにより人々は争いを続けるどころではなくなってしまう。
ゲートにより世界に生まれ落ちた化物たちは、飢餓に狂う獣のように辺りの人間を襲い始めた。初めは戦争の為に準備されていた物資を使い対処していた国々であったが、月日が経つと出現するクリーチャーに資源が追いつかなくなる。
しかし、人々は救われる。
病に倒れていた人たちが目を覚まし、人間を超越した力を奮い地上の化物たちを蹴散らしたのである。
「......目を覚ました人々の方が数が多く、人類を超えた力を使ったことから、旧人類は2020年で滅んだと言われているんだ。」
少年少女が、黒板ほどの大きさのディスプレイを背に授業をしている若い男の教師を見ている。
「じゃあ、ここで問題です。クリーチャーを追い払った超越した力とはなんというでしょう!寝てる奴がいるなー?」
クラスの中で一人だけ目が合わない机に突っ伏している生徒を男は指名する。
「二条 永和」
ガタッ!
呼ばれた生徒が顔を上げる、髪が長く前髪で表情が隠れているが窺える表情はとても不満げだ。
「ペルソナ」
当てられた生徒は答えてすぐにまた机に顔を伏せる。
「流石に簡単すぎたか!異能、スキル、200年前の当初は様々な名前で呼ばれていたが、現在ではペルソナと呼ばれている。」
教師の男は笑いながら、画面の一部を指す。
「人によってそれぞれ違うとされているが、似ているものもある。戦闘に向い……」
ジリリリリリリリリリリ!
授業の終わりを知らせる合図が教室に鳴り響き、生徒たちの集中が明らかに途切れる。教師はその様子をみて困った様に笑う。
「今日はここまで!次回はこれまでの範囲の確認のテストをするから。復習を怠るなよー」
男は言い放ち教室をでていき、それを見送った生徒たちは解放されたように騒ぎ出す。
「昨日のテレビ見たー?」
「今日の学食なにたべよー」
「あの噂聞いた?スーパーの何かを探してる幽霊!」
授業が終わったのはちょうど昼食の時間のようで、生徒たちはいつものように雑談をしている。
「おい、能無し!」
「先生もひどいよな、お前にあんな質問するなんて。」
談笑には似つかわしくない声が響く。先ほど教師に当てられた永和という男子を数人の少し柄の悪い男子生徒たちが囲んでいる。周りは驚いた様子はなく、この光景が珍しくないことがわかる。
「……」
罵られた生徒は特に気にした様子もなく鞄から弁当箱を取り出し昼食の準備をしている。
その態度が気に食わないようで囲んでいた男子の顔からニヤついた笑みが消える。
「耳すら聞こえなくなったのか?なんとか言ってみろよ、おい!!」
先程よりも強い語気で言い放たれたその言葉は、クラス全体に響き渡る。
「うるせーな、お前らみたいなのと喋る"能"はねえんだよ。」
囲まれているが意外にも堂々と不良たちに言い放つ。だがそれは男達の神経を逆撫でしたようで、あたりに一触即発な雰囲気が漂う。
不良が胸ぐらを掴む。
「どういう意味だよてめえ、もう一度言ってみろよ!」
このまま喧嘩が始まるのかと思われたが、人目を気にした仲間がヒートアップしている男を止める。
「おい……!」
「あ?なんだよ……」
そこで男は自身たちの行動がクラス全員に見られていることに気づく。
「チッ!てめーなんかに触ってたら無能がうつるかもしれねーからな!」
突き飛ばしながら胸ぐらを離すと、仲間と一緒に教室を出ていった。
「はー、有能なら無能な俺なんかに構う暇なんてねえだろ……!」
怒気を孕んだ声で言い放つと席に座り、弁当を食べ始めた。
キーンコーンカーンコーン
終業の音が鳴り、クラスの皆が帰り支度を始める。
「はー、今日も1日疲れたなー。」
永和はそう独り言を漏らしながら帰る準備をしていると、自身に近づくクラスメイトに気づく。
「ねえ、永和くん……これ……」
女子生徒からおそるおそる紙を渡される。
「あー、ごめんな。」
「頑張って……!」
もらった方は申し訳なくしており、渡した相手も嬉しそうではなく、ラブレターのような楽しいものではないようだ。
手紙を渡してきた女の子は永和に手紙を渡すと、教室で待っていた友達と合流し下校していく。
「あいつら、直接渡してこいよ……」
昼間の不良からの果し状だ。




