第20話 軍務大臣
「パロネア軍ば艦隊さわくちゃされちゃっちゅうがか……?」
タンビエンは司令室にて放送を聴いていた。
机の引き出しから双眼鏡を取り通路の窓からスピタナ湖を覗き込む。
放送の通りパロネアの印を掲げた軍艦が総勢26隻、鎮守府に向かって来ていた。
(今もう領海侵犯さりちゃりっちゃっちが、なして今こたら規模さ抱えてやって来ただか?)
(いいや、わやな事あ考えちゅう時やなか、たんびえんば提督ばい、パロネア海軍さ攻めてきちゅう事態ば想定しちゅうばい!)
タンビエンは鎮守府内の全海兵に対して放送で呼び掛ける。
『鎮守府の海兵達は直ぐに武装し訓練通り動け!軍艦を出撃させろ!』
この鎮守府には二隻の軍艦と三隻の潜水艦がある。
合わせても僅か五隻、パロネア軍の戦艦を相手にするにはあまりにも心許なさすぎる。
ガゴンッ
ギィィィィィィィィィィィィィ
パロネア軍の艦隊が主砲の角度を調整し始めた。
後は指揮官の合図で砲撃が始まる。
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パロネア海軍の進撃
その情報がテルバニヤ中に広がるにはそう時間は掛からなかった。
「なんだと!?とうとうパロネア軍がテルバニヤを侵略すべく軍艦を差し向けてきたか……」
険しい顔をしながら取るべき行動を考えているのはテルバニヤの軍務大臣、ゼルニカ・オルムトンである。
「鎮守府が突破されればパロネア軍は一週間と掛からずテルバニヤを征服し植民地にするだろう。直ぐに増援を「その必要は、ありませんよ。」
部下に増援を送るよう命じた所にとある男が入ってきた。
「アベレイ殿、ここに何の御用ですかな?それに今、増援を送る必要がないとおっしゃいましたか?」
ノックもせずに大臣室に入って来たのは人民労働党総裁であるジョージ・アベレイであった。
「そうです。軍務卿閣下、増援など送る必要はありません。我々は唯鎮守府からの連邦海軍艦隊撃沈報告をこうして椅子に座りコーヒーでも嗜みながら待っておればよいのです。」
「そんな訳にはゆくかッ!アベレイ殿、貴方も退役したとはゆえ嘗てはバニヤ陸軍の将校を務めた男、そんな貴方がパロネア軍の恐ろしさを知らない筈がないでしょう!例の事件で全盛期程の力はないとはゆえそれでもこの大陸の3割はパロネアの領土、とても鎮守府の海兵達だけで対応できるような相手ではないのですぞ!!」
オルムトンのゆう事は的を得ており26隻もの艦隊を鎮守府の戦力だけで全て撃沈するなど不可能であった。
「落ち着いてください軍務卿閣下、お忘れですか?今鎮守府には勇者殿がおられる事を。」
「………それは知っている、知っておりますとも。しかしそれが何だと仰るのですか!勇者殿とゆえどたったの一人、幾ら勇者殿が一騎当千の実力を備えていようと所詮は一人、パロネア軍の艦隊を鎮守府の海兵達と協力したとてそれで覆るような力が勇者殿にはあるとでも仰るおつもりですか!戦争において何よりも重要なのは兵の数と兵器の数です!貴方ともあろう人がそんな事すら忘れてしまわれたのですかッ!!」
「オルムトン卿、貴方は勇者殿の訓練風景を見た事がお有りですか?王宮にいた頃、よく姫様の付き添いの下、鍛錬を行っておられました。」
「いえ、私は見ておりませんが………アベレイ殿は勇者殿の訓練風景をご覧になられたのですか?」
オルムトンの返答にアベレイは失望した様な表情を浮かべた。
「軍務卿閣下、貴方ともあろうお方が勇者殿の訓練風景を一度たりとも見た事がないと?貴方はそれでも軍務大臣ですか?テルバニヤの国防を担う貴方が勇者殿の訓練風景を見た事がないと?」
「しッ、しかし私は「忙しかった、などとゆい訳しないで下さいよ。私とて党の打ち合わせや調整であまり時間は取れませんでしたがそれでもなんとか時間を作って勇者殿を見に王宮へ足を運んだのですから。勇者殿の実力も知らないで鎮守府の危機だテルバニヤの危機だなどと、よくもまぁそんな事がゆえたものです。防衛大臣の席、後進に譲っては如何ですかな?」
「………ッ!!」
オルムトンは反論の言葉が出てこなかった。
忙しいかったのは事実だがアベレイのゆう通り、忙しさに感けて肉松の訓練を見に行かなかった。
「でッ、では勇者殿はパロネアの艦隊を返り討ちに出来る実力を兼ね備えていると、貴方はそう仰るのですかな?」
オルムトンの問いかけにアベレイは自信満々に胸を張って答えた。
「間違いなく、でなければ先日の議会で勇者殿を一人鎮守府へ送り出す案など提出したりしませんとも。勇者殿こそがこのテルバニヤを救う救世主となるのです。私にはその未来が見える!」
「分かった………貴方がそこまでゆうのであれば増援は送らない。」
「賢明な判断です。何よりあそこにはタンビエン少将がおります。普段はおちゃらけておりますが指揮官として何度も自陣の危機を乗り越えてきた優秀な提督です。勇者殿の強さとタンビエンの指揮能力が合わされば負ける事などありはしないでしょう。」
「そうか……アベレイ殿は確かタンビエン少将と同期でしたな……」
「彼は私の誇りですよ。では、私はこれにて。」
そうゆい残してアベレイは大臣室を後にした。




