少年は出会わない
暑い夏。汗をかいても気にならなかった。
「――ボーイ・ミーツ・ガール」、夏と言えばこれでしょう。
男子高校生3人が「ボーイ・ミーツ・ガール」の出会いに向けて奔走する。
「食パンをくわえた少女、西日に照らされる制服少女、うなじの汗が花火に輝く浴衣少女――、それらが僕らにとっては青春だった」
「ボーイミーツガール」はシチュエーションから生まれる!?
青春の管理下、高校生の日常がここに――。
▽第一話▽
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原田が本当に蒸し豚になってしまいそうだったので、僕たちはいつもの喫茶店に行くことにした。
『シェルター』。
――それが僕たちのたまり場につけた名前だった。
「――君たちにそぐわない名前じゃない」
店長の矢沢さんが、僕たちが『くうねる』をそう呼んでいることを知って言った。
「怖いものなんて、いくらだってあるよ。このまま子供のままでいるなんて、考えるだけで怖い。ただサラリーマンになるのも死ぬほど怖い。でもね、それから避けられないことは知ってるんだ。最終的には選択をしなくちゃいけないこと。だからその選択をあと伸ばしにするために、選択するまでの不安を僕らはここで分散してるんだよ」
「難しいこと言ってるけど、暑いだけでしょ」
矢沢さんが言って、僕は神妙に頷いた。
誰が『シェルター』と呼び始めたのか、誰も知らない。
ただ地下にあるってだけだった気もする。
「いらっしゃい、でもね、君たちが来るような所じゃないんだけどなあ」
矢沢さんがいつものように言った。
「そんなこと言わないで、貢献しているんだからさあ」
と庵野は言って、定位置の窓際の席に座る。
「駅前のマックとかじゃだめなの?」
「純喫茶ていう響きがいいの」
矢沢さんはため息をついて、グラスを磨き始めた。
「しかし、」と矢沢さんは僕たちを見て言う。
「ずいぶんと暑そうだね、そんなに汗をかいて」
「外は暑いから。矢沢さんはいいよ。ずっと『シェルター』に隠れていられる」
『くうねる』と矢沢さんは店名を訂正したあと、
「でもね、大人になると気持ちのいい汗をかくことができなくなるんだよ」
そういうと僕たちの席に水を持ってきて、そのまま窓から外を眺めた。
「学生の汗と、大人の汗じゃ、輝きも味も透明度も、――何もかもが違うんだよ。僕にはもう君たちほどの汗はかけないし、汗は負の象徴になっている。でもね君たちの汗は美しい。……、それはいくら君たちが美しくなくても」
「なんか変態的だなあ、こっそり馬鹿にしているさ」
と原田が笑った。
さっき僕は公園で汗で額に髪をくっつけた少年をひどく羨ましく感じた。
彼らはきっと汗で気持ち悪さをかんじることはない。そうして僕らにはそれを感じることがあるが、汗を洗い流すことはいつでもできる。それは大人には出来ないことだ。汗で重くなったスーツは仕事から帰るまで脱ぐことができない。大人には自由がある。僕らにはそれがひどく羨ましいが、そこにある程度の責任が生じていることを、僕たちは何となく理解している。
――まだ僕たちが本当に汗を怖がっていないこと。そうしていずれ怖がるときが来るということを。




