類は恋人と運命を
暑い夏。汗をかいても気にならなかった。
「――ボーイ・ミーツ・ガール」、夏と言えばこれでしょう。
男子高校生3人が「ボーイ・ミーツ・ガール」の出会いに向けて奔走する。
「食パンをくわえた少女、西日に照らされる制服少女、うなじの汗が花火に輝く浴衣少女――、それらが僕らにとっては青春だった」
「ボーイミーツガール」はシチュエーションから生まれる!?
青春の管理下、高校生の日常がここに――。
▽第一話▽
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「そもそもね、ジャムなしで食パンを食べれるかって」
庵野がドタバタと走る原田を見ながら言った。
「確かにね、そもそも僕はね、トーストにしないとなんだか嫌だね」
「……何してるんだろうね、俺達は」
「でもさ、僕らは奇跡を見るかもしれないよ」
僕は笑って言った。
庵野も笑ってうなずいた。
「どのくらいの確率なんだろうなあ。パンをくわえた男女がぶつかる確率は」
「飛行機が落ちるくらい?」
「それならさ、宝くじが当たるのと同じ確率だ」
こんなことでそんな運を使ってほしくないけど、と僕は思って額に手をかざした。
原田は必死に走っている。やる気満々にスタートしたのにもうスピードが落ちている。やっぱり距離が長いだろうにと改めて思った。
「そろそろだね、原田の夏の終わりもさ」
――、 庵野が言ったのと、原田が吹き飛ばされたのがちょうど同時くらいであった。
「――、原田っ?」
僕らは叫んで走り出した。走りながら僕の心臓は飛び跳ねるように鳴った。そもそもどうしてこの実験的行動が危険であることに気が付かなかったのだろうか。六回飛び出せば、……ここはもちろん空路ではないのだ。飛行機の事故に比べて、地上での事故は毎日のように起きているのだ。
僕はきっと今までで一番早い速度で走ったと思う。気がついたら僕は原田を覗き込むように見て「大丈夫か」と声をかけていた。
原田が「痛い、痛い、びっくりしたよ」といつもの調子で言うので、僕は腰が抜けるほど、安心した。
「こんにちは」
と庵野の声が聞こえたので、何を呑気なと思いながら顔を上げると、そこに原田の母さんがいた。
「あんた、どうしたの急に飛び出してきてさ、あらまあ、涼ちゃんと庵野君。こんにちは、暑いわね」
原田の母さんはそれだけ言うと左手で団扇のように顔を仰いだ。
そうか、と僕は納得した。
原田ほどの人が吹っ飛んだのだから大事故に間違いないと思ったのだが、それが原田の倍はある母親であればあり得る話であった。
「こんにちは」と挨拶して僕は原田の母親が右手でコンビニのおにぎりを握っているのを見て思わず笑ってしまった。
「原田の母さん、それなに?」
庵野が爆笑している僕を見て聞いた。
「あら、これ。恥ずかしいわね、家に帰る前にお腹空いちゃってさ、あれ、あんたもパン食べてるの? いやね、親子揃ってお恥ずかしい」
原田の母さんは空が割れるほど大きな声で笑った。僕の後ろでは座り込んだ原田が泣きそうな顔をしていた。
「でもそれはすごく運命的じゃない? 血の強さを感じるよね」
矢沢さんが言った。
僕らは泣き出しそうな原田を引きずるようにして、シェルターに来ていた。
「今日は奢るよ、君たちの大志に乾杯」
「僕はクリームソーダ」
「俺もそれだなあ」
「なあ、奢ってもらうときだけ高いものを注文するなよ」
「いやいや、これは自然の摂理だからさ」
「また分けわからんことを言ってるしさ」と矢沢さんは文句を言いながらも僕らのテーブルに商品を持ってきてくれた。
「原田は?」
僕が聞くと、
「メロンソーダとカツサンドと、ショートケーキ」と言った。
「さっきパン六枚を無駄に食べてたんだけどなあ」と庵野が笑うと、原田は言わないでと言った。矢沢さんは原田の欲深さに言葉を失っているようであった。




